座右の銘は「他力本願」だという元芸人の小谷さん。自らの一日を50円で売っている

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大阪で10年間ほど売れない芸人をしていた小谷真理(まこと)さん(32歳)は、相方にコンビを解消され、ラストチャンスにかけて上京。しかし、お金はない。そのため、「ホームレス」になった。

現在もホームレスを続ける小谷さんだが、不思議なことにその姿に悲壮感は一切ない。それどころか、ホームレス生活を送りながら結婚までしているのである。一体、何があったのか?

実は今、自分では家を持たず、ブログやSNS経由で宿泊場所を提供してもらい、気ままな移動生活を楽しむ新人種が現れている。小谷さんもそのひとりだ。

元々、小谷さんはホームレスになるつもりはなかった。上京した当初は先輩芸人のキングコング・西野亮廣さんの家に転がり込んでいた。しかし西野さんからのアドバイスを受け、2ヵ月ほどでホームレス生活を始めることになったという。

「ほんまに食べるもんもないから、公園のおっちゃんらに交じって炊き出しに並んだり、コンビニで段ボールをもらって寝泊まりしたりしてました。それでツイッターで『今日の寝床はどこでしょう?』というクイズをやっていたら、それまで1日数件だったコメントが50、60件も書き込まれるようになったんです。いつも誰かが見てくれているという喜びがあったので悲壮感はなかったですね」

そのうち小谷さんは、無料でつくれるネットショップで“自分人身売買”の店、名づけて「株式会社住所不定」を立ち上げ、自分の一日を50円で売ることにした。

それが大当たりして、すぐに完売状態。草むしり、引っ越しの手伝い、ペンキ塗り、飲み会の人数合わせ、うつ病患者の話し相手、ヌードモデルなど交通費を出してくれればどこにでも行った。

「50円で買ってもらうんですが、昼ご飯や夜ご飯、飲み代など結局、それにプラスしてかなりの額を払ってくれる方がほとんど。そのうえ感謝までされるのでありがたいですね」(小谷さん)

そんな生活を続けていた2013年10月、名古屋の女性から「鬼ごっこをしてほしい」という依頼が届いた。

名古屋に行き、依頼通りにふたりで鬼ごっこをした翌日、彼女はそのまま大阪のイベントに行く予定だった小谷さんの新幹線代を払い、ついてきた。そして翌日、東京で友人と飲み会があるけどお金がないと小谷さんが言うと、彼女は再び新幹線代を払って東京までついてきた。

「その飲み会の席で、もう付き合っちゃえばという話になりまして…。すると、彼女が『付き合うのはイヤだけど、結婚ならいい』と言うんですよ。まさかの展開で、そのままドン・キホーテで印鑑と結婚指輪を買って、渋谷区役所の夜間窓口に婚姻届を出しました(笑)」

翌日、再び名古屋に行き、彼女の両親への挨拶を済ませると、年末には夜の遊園地を借り切って結婚式を開いた。その費用はクラウドファンディングで集めたという。なんともすごい勢いである。

だが、結婚こそしたものの小谷さんは相変わらず1日を50円で売るホームレス生活を続け、彼女は愛知県の実家に暮らしている。

驚くことに、最近では「自分の代わりに海外へ行ってきてくれ」という依頼まであるそうだ。もちろん、報酬は1日50円だが、往復の航空券代は出してもらえる。

「『ソウルに行って現地の天気を見てきて』とか『台湾にいる友達が元気か会ってきて』とか『ビジネスクラスは快適なのか体験してみて』といった依頼がありました(笑)。もちろん、現地に行ったら何もアテがありません。お金もないから、誰かと仲良くなって食事をごちそうになったり、泊めてもらったりします。お願いする前に、まず友達になることが大事ですね。そうすれば、困っている僕を助けてくれるんです」

小谷さんの座右の銘は「他力本願」。ホームレスになってお金と向き合って、幸せと向き合って、今までの価値観とは違うモノサシを得られたという。

今はホームレス生活を“積極的に”選びとっている小谷さん。この生き方に賛否はあるだろうが、少なくとも、本人は今の生活に満足しているようだ。

●週刊プレイボーイ46号ではこんな「積極的ホームレスの生態」を他のケースも紹介! そちらもお読みください。

(取材・文・撮影/新井由己)