竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

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2021年、国内3Dプリンター市場は1000億を突破

2014年の国内3Dプリンターの出荷台数は、1万台弱で総売上は200億円強となった。これが2021年には国内市場は1000億円を突破すると予想されている(IDC Japan株式会社調べ)。ちなみに全世界で出荷された3Dプリンターは13万3000台であり、プリント素材や関連サービスを合わせた市場規模は、約4000億円となっている(米調査会社Canalys)。
そもそも3Dプリンターとは何か。プリンターと名が付いていることからわかるように、これは印刷機である。ただし、従来の印刷機が平面に印刷するものだったのに対して、3Dプリンターは3次元空間への印刷を行う。これにより立体物を造りだすの3Dプリンターである。
立体物を工業的に作る手段としては、これまでは金型による成形や切削加工が用いられてきた。こうしたやり方と比べて3Dプリンターのメリットは、造形の自由度と速さにある。このメリットが最も活きるのは、頻繁に型状を変えて検討することが必要な試作品製作と、一つひとつ微妙に形を変えたいカスタマイズ製品の場合だ。

3Dプリンターは第三次産業革命を引き起こす

第一次産業革命は、18世紀後半、イギリスにおいて繊維工業の機械化によってもたらされた。第二次産業革命は、20世紀初め、アメリカにおけるフォードの大量生産方式によって実現した。そして、第三次産業革命が、多品種少量生産を超える個人によるモノ作りによって起こる。そんな予想がある。
確かに、データさえあれば、3Dプリンターは三次元のオブジェクトを自由自在に造りだすことができる。実際、すでにさまざまなモノが3Dプリンターによって作り出されている。アメリカでは、銃弾を発射可能な拳銃が作られて社会問題になったといえば、3Dプリンターの可能性を理解できるのではないだろうか。
プロシューマーが、3Dという生産手段を手に入れることにより、自らの好みに応じた製品を自由自在に作り出すことができるようになるのだ。しかも、作った製品をインターネットを使えば世界中に発売することもできる。中国では3Dプリンターを使って住宅を建てたとのニュースもあった。3Dプリンターの可能性は非常に大きい。


3Dプリンターと医療

製品プロトタイプ製作、設計における模型作り、食品加工(食材を3Dプリンターの素材に使う)、アクセサリーから自動車のボディ作りなど、既に多くの分野で3Dプリンターは活用されている。
中でも期待されるのが、医療分野での利用だ。既に産業化されているのが、歯科用矯正機器の製造である。
歯科矯正には、矯正器具を使う。これが従来は既成品しかなかった。そこで3Dプリンターの出番となる。患者一人ひとりの歯型に合わせて完全にカスタマイズされた矯正具は、装着感が抜群に良い。しかも矯正プロセスの進み具合に応じて、随時、最適な形のものに入れ替えることができる。その結果、治療効果も高まる。
こうしたメリットが高く評価され、矯正治療に採用する歯科医が増えている。


カテーテルのコイルをカスタマイズする

ある大学では、脳内の血管にコブができる脳動脈瘤の治療における3Dプリンター活用の研究が進められている。
脳動脈瘤の治療法としては、コブの破裂を防ぐために、細くてやわらかなプラチナ製のコイルをコブの中に詰める方法がある。コイルはカテーテルと呼ばれる細いチューブを太ももの血管から入れて、患部まで送り込む。
この術式だと開頭手術なしで治療できるため、患者の負担が大きく軽減される。ただし一つだけ問題があった。コブに詰めるコイルの型状を調整するの難しいのだ。
コイルは既製品である。そのため患者ごとに異なるコブの形に合うよう、現状ではいくつかのコイルを組み合わせて使われている。理想のカテーテル術はいうまでもなく、患者のコブの形にぴったり合うようカスタムメイドされたコイルを入れること。そこで3Dプリンターの出番となる。
患者のコブの形に関するデータは、既にある。つまり動脈瘤が見つかる過程では、必ず脳がスキャンされているはずで、そのデータを3Dプリンターに流用することができる。コブを正確に再現したモデルを作り、それに合わせてプラチナのコインを作れば良い。これにより高価なプラチナをムダにすることもなくなる。
まだ工学部での研究段階の話だが、今後、さらに研究が進み、治験をクリアして実用化に至れば、多くの人に福音をもたらすはずだ。
ほかには人の細胞でできたバイオインクをプリントする3Dバイオプリンターもある。細胞修復、新医療技術の研究開発、医薬品の臨床実験から臓器製造などへの応用など、3Dプリンターは医療の可能性を大きく広げる強力なツールとなるはずだ。