CSでも光った工藤監督の“眼力”。日本シリーズの采配にも注目です[BASEBALLKING]

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◆ 千賀のリリーフ起用がズバリ的中

 まさに、圧勝の一言だった。

 圧倒的な強さでパ・リーグ連覇を果たしたソフトバンクが、クライマックス・シリーズのファイナルステージでもロッテ相手に3連勝。一気に日本シリーズ進出を決めた。

 2005年、2010年と過去2回ロッテと対し、ソフトバンクはファイナルステージ(2005年当時はプレーオフ)で悔しい思いを味わった。ロッテが5年周期で日本一に輝いていることもあり、外野から聞こえてくる「今季もあるかも…」といった声をソフトバンクは力でねじ伏せた格好だ。

 もちろん、ソフトバンクの選手たちが期待どおりの力を発揮したわけだが、それを引き出した工藤公康監督の手腕というのも見逃せない。

 ファイナルステージの初戦、同点の5回表。ロッテが伊志嶺翔大、角中勝也の連打で一死二、三塁のチャンスを作ったところで、工藤監督は先発の武田翔太から千賀滉大へスパッと投手を替えた。

 千賀は福浦和也に四球を与えて満塁とするも、アルフレド・デスパイネとルイス・クルーズを連続三振に打ち取りピンチを脱する。千賀は6回も三者凡退に抑えて盤石のリリーフ陣につなぎ、延長10回裏の内川聖一のサヨナラ打を呼び込んだ。

 千賀は2013年に51試合に登板して頭角を現したが、2014年以降はケガにも苦しみ、本来の力を発揮できていなかった右腕。今季もレギュラーシーズンは4試合の登板に留まり、2勝1敗という成績であった。

 シーズン終盤に調子を上げてきたとはいえ、大事な一戦の重要な場面で登板させることはなかなかできない。短期決戦は選手の調子を見極めることが勝敗の行方を大きく左右するが、そういった意味でも工藤監督の眼力は見事だった。

◆ 黄金時代の西武とヤクルトを経験した監督同士の対決へ

 工藤監督といえば、80年代から90年代中盤にかけて無類の強さを見せた西武ライオンズで主力として活躍した投手。時は流れ、西武の黄金時代を築いた選手たちが続々と監督としてグラウンドに戻ってきている。そして、その多くが短期決戦で強さを見せているのだ。

 2004年、西武の伊東勤監督(当時)は、レギュラーシーズンこそ2位だったがプレーオフを勝ち抜き、日本シリーズも中日を相手に4勝3敗で日本一に輝いた。レギュラーシーズンで1勝だった石井貴を日本シリーズ第1戦と第7戦で先発させ、いずれも勝利。石井はMVPに輝いた。

 2008年も西武。就任1年目だった渡辺久信監督は、中軸を打っていたクレイグ・ブラゼルをケガで欠く中、4勝3敗で巨人を下し、日本一に輝いた。このシリーズで印象的だったのは、第4戦で完封勝利を挙げた岸孝之を、第6戦に中2日でリリーフとして起用した渡辺監督の采配。岸も好投を見せ、最終・第7戦に望みをつないだ。

 そして2011年、ソフトバンクの秋山幸二監督は、中日との日本シリーズで攝津正を第3戦で先発起用。その試合に勝利を収めたが、リリーフ陣が不安定だったこともあり、攝津を第5戦と第7戦でリリーフとして登板させた。その結果、見事チームを日本一に導いている。

 伊東、渡辺、秋山とこの3人の監督に共通するのは、短期決戦における巧みな投手起用だ。西武黄金時代の一員として日本シリーズを数多く経験したことを、監督としても生かしていると見ていいだろう。

 工藤監督にとって、今季の日本シリーズの相手となるヤクルトを率いるのは真中満監督。今でも語り継がれる1992年、1993年の西武とヤクルトの日本シリーズは、西武・森祇晶監督とヤクルト・野村克也監督の采配にも大きな注目が集まった。

 西武とヤクルトの黄金時代を経験した工藤、真中両監督が初の大舞台でどういった采配を見せるのか…。今季のプロ野球の最後を飾るにふさわしい熱戦を期待したい。

文=京都純典(みやこ・すみのり)