チェス界の偉大な元チャンピオンで、今は人権活動家でロシアの政治家ガルリ・カスパロフ(52)。2007年には反体制派の指導者として大統領選に立候補したが敗退。短期間だが投獄され、命を狙われた回数は数知れない。今年の10月には、ロシア大統領で永遠の政敵ウラジーミル・プーチンについての著書『勝者がやって来る(Winner is Coming)』を出版するカスパロフに、ワルシャワの密かな一室で本誌のロバート・チャルマーズが話を聞いた。

──アドルフ・ヒトラーに非があったのは否定できない。だがヒトラーだって、政界に入った当初は人々のために善をなそうとしたと想像するのは間違いだろうか。

「善とは何だ。結果を見ろ。スターリンはヒトラーより多くの人間を殺した。もっとも、虐殺競争ならポル・ポトがチャンピオンかもしれないが」

──プーチンはどうだ。少しぐらい使命感や慈善の心はあったのか。

「ない。プーチンは日和見主義者だ。戦略家ではない。彼は配られたカードがたまたま強かったポーカー・プレーヤーのようなものだ。彼は最初からKGBのスパイでそれを誇りにしている。KGBは慈善団体ではない」


KGBのある幹部は、プーチンを批判して命を落とした活動家について話しているとき、カスパロフは「リストの次」だったと言ったことがある。


──命の危険を感じることはあるか。

ロシアには2年半も帰っていない。ニューヨークに住んでいるんだ。危険な噂のある国には近寄らないようにしている」

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「しかし真面目な話、何ができるというんだ。講演のためにあちこちへ行かなければならない。怪しい人間とはお茶を飲まないことにしている。とにかく用心すること、それだけだ」

──君は最近、プーチンは世界で一番危険な男で、ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)よりもはるかに危険だと言った。本当にそう信じているのか。

「もちろんだ。プーチンは(大統領の任期が切れた)2008年に引退することもできた。だが今は、独裁者として権力の座に捕われている」

プーチンに必要なのは友ではなく敵だけ

──最近も、ISISなどゴミのように潰してしまえると言った。

「ISISは殲滅できる。彼らには空軍がないし、アフが二スタンのような山岳地帯にいるわけでもない」

ロバート・チャルマーズ