拡大を見せるウェブのウォールド・ガーデン
いつでもチェックアウトできるが、決して離れることはできない。
以前から予想されていたフェイスブックのInstant Articlesの第一歩がいよいよ始まった。厳選された数多くのメディア企業のコンテンツが、そのメディアのサイトではなく、フェイスブック内で公開されるというものだ。
表向き、それはわれわれユーザーがより速く記事を読めるようにするためとされている。 「Instant Articlesは標準的なウェブの記事よりも約10倍速くロードされます」と、このお知らせは熱く語っている。「そして、パン・チルト写真や自動再生ビデオ、埋め込み式のオーディオキャプション、インタラクティブ・マップなどの新機能を使用すれば、美しく新しい方法で記事を読めるようになります」。
言っていることは全く正しい。だが一方で、記事や動画、その他ウェブ・コンテンツの区分、囲い込みに向けた新たな一歩でもある。この動きはフェイスブックに限らない。
現在のところ、Instant Articlesの機能はフェイスブックのiOSアプリにしかなく、メディアパートナーもほんの少数だ。ニューヨーク・タイムズ、ナショナルジオグラフィック、BuzzFeed、NBC、the Atlantic、ガーディアン、BBCニュース、Spiegel、Bildである。アプリ間を移動する手間を考えれば、モバイルにおいてこの機能は理にかなっていると言える。
しかし、フェイスブックの長期的な目標は、ユーザーを自社のウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)に留まらせることであり、それは全てのプラットフォームで予想されることだ。
この目的のため、フェイスブックはMessengerアプリをリリースし、アプリ内検索ツールに浮気し、より高度なビデオ機能でYouTubeに挑んできたのはご承知の通りだ。埋め込み式のYouTube動画はフェイスブックの敷地内で歓迎されず、外で見るようにとリンクを張るにとどまっている。
今いる場所にとどまる
グーグルはフェイスブックからのプレッシャーを感じているかもしれないが、両者の目的はほぼ同じだ。かつてはウェブ上でユーザーに最適なリンクを示すのが目的だったが、現在では、今いる場所にユーザーを留めることに熱心なようだ。
映画や音楽の情報が検索結果ページの右側にポップアップする。検索した言葉がすぐに定義される。「iPhoneをリセットする方法」の検索結果では、ウェブアドレスの一覧よりも先に、そのやり方の一覧が表示される。(公正を期して言えば、グーグルは長きにわたってこの種の「完璧な」検索結果を目指してきた)。
一方、ツイッターは、ユーザーがYouTubeやImgur、その他のサイトに出ていく時間を短縮し、タイムラインに長時間留まらせるようにするため、自社サイトへの画像・動画の投稿を可能にし、カード機能を追加している。
ツイッターやグーグルは少なくともまだ、自社ネットワーク外の素材をホスティングしてはいない。だが、フェイスブックやYouTubeと同じパターンだ。自社サイトでユーザーのニーズを満たせるようにし、ウェブの荒野を探索に出かける理由を減らそうというわけだ。
このような企業はユーザーを維持しようと必死であり、責めることはできない。だが、ほんの一握りの主要プレイヤーからウェブが構成され、それらの壁の外側にいるプレイヤーが衰退し、死に至るというシナリオへと移行するのに対しては、われわれは抵抗しなければならない。
AOL バージョン2.0
Verizon によるAOLの買収によって、かつてウェブを変えようとした企業をタイムリーに思い出すに至った。AOLの全盛期には、ポスターやマーケティングの資料において、実際のURLにAOLキーワードが併記されている(あるいは、その代替となっている)ことも珍しくなかった。現在のツイッターとほぼ同じ手法だ。
ドットやスラッシュ、覚えるのが難しい文字列で苦労するよりも、AOLにアクセスしてシンプルなキーワードを入力すればいいと提示していたのだ。ご存知の通り、ウェブが勝者となり、われわれがAOLキーワードを耳にすることはほとんどなくなった。
フェイスブックのユーザーは14億人から現在も増加しており、同サイトはユーザーの大半にとってのウェブそのものとなる、はるかに大きなチャンスがある。ページの読み込み時間やパン・チルト写真によってユーザーを驚かせているのかもしれないが、それは、出版社も読者も、われわれは皆マーク・ザッカーバーグのルールで動いているということだ。
それはフェイスブックやグーグル、あるいはその他のサービスだけが持つべき特権ではない。だが、受け手のいる場所ならどこにでも大挙して押し寄せるようなコンテンツ制作者や、最も優良な(そして最も速くローディングできる)コンテンツを求める受け手が存在しており、この動きを止めるにはすでに時遅しというべきなのかもしれない。
画像提供:Facebook
David Nield
[原文]