今年の3月22日、日本学生支援機構の前で抗議活動をする「ゆとり全共闘」のメンバーたち。「ブラックリスト化をやめろ!」などと声を上げた

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非正規雇用や就職難の広がりなどで、学生時代に借りた奨学金を返還できないケースが増えている。日本学生支援機構(以下、支援機構)における未返還額は年々増加し、昨年3月の時点で過去最大の876億円にも達している。

そのため支援機構は、2008年以降の利用者で、3ヵ月以上滞納している人の情報を全国の銀行個人信用情報センターに登録(ブラックリスト化)するなど、回収策を強化している。ブラックリストに載せられると、住宅ローンやクレジットカードなどの審査が通らなくなる可能性もある。

支援機構はこのブラックリスト化について、「利用する際に十分に説明もしているし、同意書も取っている。そもそも同意しなかった人には貸与していない」(支援機構の広報課長・前畑良幸氏)としている。返すべきものを返せなければ、それなりの対応を取らざるを得ない、との苦肉の策であろう。

民間の金融業者であれば、貸した金を返さなければ、それなりの“ペナルティ”を科すのは当然のこと。しかし、奨学金制度は「経済的理由で修学が困難な学生の支援」を目的としており、返済についても学生が卒業後、就職して金を稼ぐという“未来”が前提となっている。若者の雇用環境は著しく悪化しており、貧困層の拡大が社会問題になっている。そんななかでブラックリスト化のような、収入の不安定な若者を苦しめる政策が正しいことなのか疑問が残る。

奨学金問題に詳しい弁護士の岩重佳治氏は、こう語る。

「このような厳しい状況を考慮しないで、奨学金の返還を個人の責任に押しつけ、ひたすら『返せ』と言うだけでは問題の解決にはつながりません」

返還金は新たな奨学金に充当される「財源」でもある。回収を緩め、未返還金が増えれば増えるほど、財源が枯渇し制度は立ち行かなくなる。ある意味で、奨学金事業は自転車操業状態に陥っており、制度そのものが破綻していると言っても過言ではないのだ。

今年の3月、4月と2度にわたり、日本学生支援機構に対して抗議活動を行なうなど奨学金問題解決に向けて立ち上がった「ゆとり全共闘」。同団体の菅谷佳祐氏は、日本の奨学金制度を根っこから変えなければならないと力説する。

「結局、奨学金とはなんなのかというところに尽きると思います。日本では貸与型の奨学金が常識ですが、世界では奨学金とは返済義務のない給付型のものを指します。例えばアメリカでは、貸与型は『学士ローン』といって奨学金とはいいません。問題の抜本的な解決には、奨学金=借金という日本の常識を覆す必要があるし、そのためには日本政府が公的資金をもっと教育に使わなければいけないのです」

OECD(経済協力開発機構)に加盟する34ヵ国中、大学授業料が有料で、しかも給付型奨学金のない国は日本だけだ。さらには、対GDP比で見た高等教育にかける公的支出の割合は、OECD諸国の平均を大きく下回っている。

「せめて政府はOECD平均割合の額を支出してほしいです。その額は年間2兆5000億円。それだけで全私立大学の授業料を無償化できます。そもそも、『国際人権a規約(13条2項b、c)』には、高等教育は暫定的に無償化すべき、と規定されている。政府は昨年9月、この規約に批准したのですから、無償化を目指して動き始めるべきだと思います」(菅谷氏)

「国際人権a規約(13条2項b、c)」とは、1966年にニューヨークで作成された「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)の「教育の無償化」に関する条文。日本は先進国で唯一、この規約の批准を留保してきたが、2012年9月に留保を撤回している。

奨学金を本来の給付型にして、将来的には高等教育無償化を目指す、という理念は確かに正しい。だが、実現には非常に高いハードルを越えなければならない。いずれにせよ、奨学金制度が大きな変革をしなければいけない時期に差しかかっているのは間違いないだろう。

(取材・文/木場隆仁)