先日、Football Referee Journalにこんなコメントが寄せられた。

「家本(政明・プロフェッショナルレフェリー)さんの表現力は好きですし、ゲームのエンタメ度が上がって、ヤジウマ的に観ている試合は大変愉しめるのですが、正直なところ、自分が応援しているチームの試合は担当してほしくないものだ、と思ってしまうのです。家本さん、最高! けどウチの試合はカンベンな! という風に。(笑)(中略)どうも家本さんという方は謎です」

 これを紐解くキーとなるのが、J2第5節の松本山雅×長崎戦だと思う。
 この試合でも家本主審は、的確な判定をみせていた。そんな展開で迎えた88分。クサビを受けたパクが、ボールを斜めに出す。このボールをPA内で下田がハンドでブロックしたということで家本主審はPKを宣告する。

 が、実はこのクサビを受けたパクはオフサイドポジションにいた(やや戻り気味)。副審もしっかりと旗をあげたのだが、家本主審は旗をキャンセルする。これに長崎選手は、“ちょっと待ってよ。確認してよ”と抗議。当然である。パクがオフサイドならば、オフサイドの判定が先のため、PKは無かったことになる。家本主審も収拾させるために副審に確認に行くが、協議の結果もPKの判定は変わらず。

 ハンドの判定も議論できるが、それ以上に、この判定はオフサイドをとるべきで、あきらかな誤審である。

 この誤審の一番の問題は、副審が家本主審に対し、自身の正確な判定を伝えられなかったことだ。なぜならば、オンタイムで副審はオフサイドを見極めている。「家本さん、PKの前にオフサイドがありました」と伝えるだけで、誤審は防げた。にもかかわらず、最初に旗をキャンセルされたことや家本主審に対する畏敬の念からか、協議の時に強く主張できていない。
 
 これは家本主審の問題でもある。自身の判定に対する絶対の自信だけではなく、省みる姿勢を持つこと。それがあれば、副審の助言を引き出せたのではないか。今回の誤審は“審判員だってミスをする”とは種類が違うもので、真摯な反省が必要だと思う。この試合を観て、これが違和感の正体かもしれないと思った。
 
 ピエルルイジ・コッリーナ氏やキム・ミルトン・ニールセン氏のような振る舞いなのだが、中身というと語弊があるが、実績、さらには信頼が不足している。
 
 2006年の香港研修以降、成長を見せた家本主審だが、2008年のゼロックススーパーカップをピークに、低く評価され続けてきた。一方で、2010年にウェンブリースタジアムで行われたイングランド代表×メキシコ代表戦の国際親善試合を妥当なレフェリングで終わらせたことで、正当な評価に見直された。が、逆に高く評価されすぎている部分もある。というのも、優秀なレフェリーであるが、国内で言えば、上川徹(日本サッカー協会審判委員長)のように信頼は得られていない。それは、この試合の両監督のコメントからもわかるし、サポーターの心情からもみてとれる。
 
 家本主審が“高み”に近づくには、W杯やクラブW杯など、ビッグマッチでの経験や実績が必要になる。そのためにも、西村雄一ではなく、次大会は家本政明を推して欲しい。それは、日本サッカー界のためにもなるはずだ。

◇著者プロフィール:石井紘人 Hayato Ishii
C級ライセンス・三級審判員の資格を持つ。自サイトFootBall Referee Journalにて審判批評、フットボールに関するコラム、さらにJリーグマッチレポートをメルマガ配信。審判員は丸山義行氏から若手まで取材。中学サッカー小僧で『夏嶋隆氏の理論』、SOCCER KOZOで『Laws of the game』の連載を行なっており、サッカー批評などにも寄稿している。著作にDVD『レフェリング』『久保竜彦の弾丸シュートを解析』。
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