海外組の復調、CBの起用、9月のUAE戦は“解決策”が求められる試合になりそうだ (C) Tsutomu Kishimoto(PICSPORT)

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イギリスでのオリンピック代表チームの活躍にも、ザッケローニ監督はぴくりとも食指を動かさなかった。選手発表記者会見では「五輪チームとA代表がやっているサッカーは違うし、センターFWも異なったタイプを採用しています。(A代表は)現時点で結果が伴っている、いいサッカーを展開できていると思っています」と、永井謙佑の採用を否定したのだ。

ザッケローニ監督にとってベネズエラ戦の目標は、オリンピックチームのメンバーをA代表へと引き上げることではなかった。9月11日に迫っている次のワールドカップ予選、イラク戦に向けてのDF選考だけだった。なぜならイラク戦には、オーストラリア戦での退場で栗原勇蔵が、累積警告で今野泰幸と内田篤人が出場停止になっているからだ。これまでにも新しいフォーメーションと出番の少ない選手たちを一度に試すようなことはしなかったザッケローニ監督らしい選択だ。

この日のスターターに名を連ねたのは右サイドバックが駒野友一、センターバックが伊野波雅彦。どちらもこれまでずっと代表チームに呼ばれており、まだ代表チームでの日が浅い水本裕貴や酒井高徳をいきなり起用しなかったのも、これまた監督らしいと言えるだろう。そしてこの2人は明暗が分かれた。

6分、伊野波は足の速さを生かして積極的にインターセプトに行き、結果的に相手の独走を許した。戻って追いついたが足を滑らせ、決定的なピンチになった。川島永嗣のセーブで失点はしなかったものの、伊野波はその後完全にリズムを崩す。パスはカットされ、ボールを奪われ、と良さを出すことができなかった。2011年のアジアカップ準々決勝では、監督の指示を無視して上がり決勝点を蹴り込んだ伊野波だったが、そんな大胆なプレーヤーでもワールドカップ最終予選の先発がかかると緊張してしまうということだろう。

対照的に駒野は冴えた。右サイドで縦のコンビを組んだ岡崎慎司から「駒野さんは経験があるプレーヤーなんで自分を生かしてくれるし、自分も簡単にはたくのではなくて中にドリブルしたりというプレーもできた」と絶賛されるほどスムーズな連携を披露。14分には相手を華麗にかわしてペナルティエリアの中に進出し、走り込んでくる遠藤保仁にぴたりと合うパスを供給して先制点を演出して見せた。

後半、ザッケローニ監督は伊野波に代えて水本裕貴を送り出す。このチームへ初招集となった水本は慎重なプレーを続け、ほころびを見せなかった。ところが皮肉なもので、51分、左サイドからのドリブル突破を許し、最後は吉田麻也の一瞬の隙を突かれて同点とされてしまった。

その失点を生んでしまったのは、香川真司のボールロストだった。香川はこの日、何度もペナルティエリアに飛び込みチャンスを作ったが、得点を挙げられなかった。もっとも、ザッケローニ監督は「海外組はまだリーグが始まっておらずコンディションは国内組に比べると劣るという状況」と招集時点で明らかにしており、これから次第によくなると考えることができるだろう。日本はチャンスを数多く作りながら追加点を奪えず、そのために引き分けで試合を終えたが、その点については楽観視することもできる。

となると、このベネズエラ戦ではキチンと埋まらなかったポジション――センターバックが大きな焦点となってくる。これまでザッケローニ監督が全幅の信頼を置いて起用し続けてきた今野の穴を埋めることになるため、誰も今は馴染んでいない。伊野波が自信を取り戻すのか、水本がすんなりチームに馴染むのか。あるいは槙野を試すのか、岩政大樹を招集するのか。

9月11日のイラク戦を前に開催される9月6日のUAE戦でその解決策が求められる。もしもUAEとの試合で正しい答えが見つからなかったら――それは「このチームは後ろからつないでリズムを作っていけば全体的にうまく攻撃できる」(伊野波)というザック・ジャパンが、攻守ともに乱れる最大の危機となりうる。(文=森雅史)