生活保護受給率が日本一の大阪市で、橋下徹大阪市長が率いる地域政党、大阪維新の会が、その制度改革案をブチ上げた。

その内容とは、「現金支給をやめ、現物支給にする」「受給資格を期間限定とし、継続には再審の手続きを必要とする」などだ。

生活保護費は過去最高の約3.7兆円(2012年度予算)に達し、このままでは4兆円超えも目前。その圧縮は緊急の課題だ。果たして、維新の会が打ち出した改革メニューは効果があるのか?

まずは大阪市西成区に足を運んでみた。西成区は人口約12万人に対し、生活保護受給者が約2万8000人。区民のほぼ4人に1人が生活保護を受けているという土地柄だ。維新の会の案への評価を聞くなら、ここ以外にない。

記者が向かったのは生活保護受給者や日雇い労働者向けの簡易アパートが林立する、あいりん地区の三角公園。日中、そこに集まっているおじさん(60代ぐらい?)たちのひとりに「あの〜、生活保護を受けていらっしゃる方でしょうか?」と聞くと、「そうや」の答え。おお、やっぱり!

―維新の会が現金でなく、品物と交換できるクーポン券を配るという案を打ち出しています。

「現物支給? あかん、あかん! 服や食べ物を現物でもろうても、気に入らんもんやったらどうすんねん。無理して食えと言うのか、我慢して着ろと言うのか。そんなんゴメンや」

別のおじさんが付け加える。

「昔、横浜市の炊き出しで650円分のパン券をもらったことがあったんや。そやけど、みんなパンより酒が好きやろ。ほとんどの者が650円のパン券を300円くらいで売って、その金で酒飲んどった。生活保護受給者も同じや。いくらクーポンにしても現金に換える者が続出して、そのうち暴力団が闇のクーポン交換所を開いて、しのぎにするに決まっとるわ!」

―受給期間を有期制にするというアイデアはどうでしょう?

「それもあかん。生活保護いうもんはな、いっぺんもろたら一生もんやからこそ値打ちがあるんや。1年やそこらで打ち切りやったら、一時金と同じやないか。橋下さんはズバッとモノ言うてくれるから好きやねんけど、時々ワケわからんこと言い出すからかなわんな」(前出・おじさん)

……予想はしていたし、言い分には納得できないけど、保護を受けている当事者には評判が悪い。それなら現場を知る行政担当者や研究者にジャッジしてもらおう。

現物支給案について、西成区役所で生活保護を担当する職員はこう首を傾げる。

「クーポン券を引き受ける指定店を確保できるかどうか、それが問題です。西成区の場合、受給者約2万8000人分の生活必需品を流通させることになるわけですから、指定店が少ないと大混雑でろくに物を買えないという事態になりかねません」

あらら、やっぱり不評。それなら受給期間の限定という政策はどうか? 実は維新案への批判・不満が相次いだあいりん地区にあって、少数とはいえ、賛同の声が上がったのがこの受給期間の限定案だった。

三角公園にいた60代後半の男性がこう話す。

「年寄りが期間限定にされたら、死ぬしかない。そやけど20代、30代の若い人は別や。保護期限を区切って尻を叩くべきや。ダラダラと保護費もろうたら、いつまでたっても自立できへんからな」

上から目線の気がしないでもないけど、確かに一理ある。十分に働ける若年層に対しては保護より自立支援に力を入れるべきだ。

だが、この案も専門家からは異論が。ケースワーカーの経歴もある関西国際大学の道中隆(りゅう)教授(社会福祉学)が語る。

「実はアメリカが生活保護の期間限定制度を採用していますが、有効に機能していません。一度保護を打ち切った人を再度アセスメントするという作業を何度も繰り返すことになり、膨大な労力、コストがかかってしまうためです」

結局、維新の会の生活保護改革プランは絵に描いたモチ?

「受給日にパチンコ店へ行ってしまう、酒代に使い果たしてしまうからといって現物支給にするのは対症療法にすぎません。遠回りに見えますが、ケースワーカーを増員して足繁く受給者の家を訪問し、生活指導や就労支援を充実させることでしか、生活保護制度の不備の改善は難しい」(道中教授)

生活保護問題に切り込もうとする維新の会の姿勢は評価できる。ただ、もうちょっと政策を煮詰めることが必要ということか。

(取材/ボールルーム)