プロ野球では16日にセパ交流戦が開幕するが、埼玉西武ライオンズにとっては、これまでの試合は大誤算としか言いようが無い。
 開幕前はパリーグの優勝候補の筆頭に挙げられていたが、12勝19敗1分でリーグ5位。13日の対北海道日本ハムファイターズ戦に勝利し、何とか最下位を抜け出たものの、首位を走る千葉ロッテマリーンズとは7.5ゲーム差もつけられている。


 誤算は投打の主軸の不調。エース涌井秀章は開幕投手を勤めたものの、1勝もあげられず、現在クローザーとして調整中。昨年本塁打王に輝いた中村剛也は今季、わずかに1本塁打だ。

 中村の不調の影響は、大きい。チームは昨年、リーグ最多の571得点を記録したが、中村は116打点97得点を挙げている。つまり、チーム総得点の37%に中村が絡んでいる。またチームの総本塁打数103本のうち、48本が中村のバットから生まれた。

 不調の原因は、バットと言われている。中村は規定の変更で、今季からバットの仕様を見直したが、それがまだ馴染んでいないため、とされている。

 神は細部に宿るとはよく言ったもので、アスリートは、素人目にはわずかな違いでも調子を崩すことがある。
 最後の4割打者で有名なテッド・ウィリアムズも、バットには強い拘りがあった。他の選手がバットをただの道具と見ていた時代からバット工場を訪問し、職人に、自分が気に入った素材で最高のバットを作らせた。
 ある日、チームメイトがバットをグラウンドに一晩中、置きっぱなしにしてしまったことがあった。ウィリアムズはチームメイトを呼び出し、郵便局の秤で、バットを放置すると数グラム重くなることを強調した。

 一方、弘法筆を選ばずといった言葉もある。優れた力を持っている人は、どんな道具でもきちんと使いこなすことができるという意味だ。

 司馬遼太郎の小説「新撰組血風録」は、新選組局長の近藤勇と、愛刀の虎徹との出会いを紹介しているが、近藤は当初、紛い物の刀を虎徹と信じきっていた。
 隊士の斉藤一の助言で、その刀が虎徹でないことに気が付いたのだが、それまでは、その切れ味から近藤は虎徹であることを疑わなかった。

 近藤のその人となりを表すエピソードの1つだが、その道の達人にはある種の大胆さ、思い込みも必要なのかもしれない。

 ライオンズのファンも、中村の虎徹が早く火を噴くことを願っている。