ラツィオ本田は土壇場で消えた。冬の移籍市場が幕を閉じる1月31日の午後(イタリア時間)、市場最終日の動きを生中継していた現地の衛星テレビ局が速報を打った。本田圭佑の所属するCSKAモスクワの広報が「ラツィオとは合意に達しなかった」と発表したというのだ。

 チェルシー、マンチェスター・C、アーセナル、リバプール、マンチェスター・U、ACミラン……。これまでにも多くの名門クラブへの移籍報道がされてきた本田。結果的には今回も“空振り”に終わってしまった。

 ただし、ラツィオが本田獲得に本気だったのは明らか。ラツィオの本田獲りが正式に始まった1月19日以来、クラウディオ・ロティート会長の命を受けて全力で交渉にあたっていたのはスポーツ・ディレクターのイグリ・ターレ氏。

「そのターレ氏は最終日までCSKAフロントをローマに迎え入れて交渉を続けていたため、移籍市場の本会場(イタリアではこの期間、交渉や選手登録ができる“市場”がホテルなどで実際に開かれる!)があるミラノに入れたのは閉幕の2時間前」(現地記者)

 そのターレ氏によると、破談の原因は「金額の差」。CSKA側が当初から要求していた移籍金は1600万ユーロ(約16億円)で、そこからほとんど譲歩しなかったといわれている。ちなみにイタリア流の交渉術は、相手が1600万ならこちらは1000万からスタートし、最後は1300万で折り合いをつけるというもの。新興金満チームのCSKAにはそれが通用しなかったというわけだ。

 そして、ターレ氏は「(破談の原因は)支払いの方法ではなかった」と続けた。日本でも一部に、即金での完全移籍を要求したCSKAに対し、ラツィオは分割払いを希望したことが移籍を阻(はば)んだという報道があった。ネタ元はイタリアの報道なのだけど、それが誤報であると言いたかったのだ。今回の交渉劇では報道が独り歩きし、途中からどこが情報源なのかわからない記事が氾濫していった。

 イタリアの新聞が「ほぼ確定」(「まだ決まってない」という意味)と書けば、日本の新聞が「イタリアの報道によると、決まったも同然」と書き、それを読んだイタリア側が「日本ではすでに確定と報じられている」と書く(笑)。まるで伝言ゲームだ。

 今回も移籍が実現しなかったことで、ネット上には本田を“エア移籍男”扱いする書き込みもあふれたけど、移籍先にビッグクラブの名前が飛び交うのも同じ理由だ。

「本田に限らず、欧州の大衆紙やニュースサイトは、特に根拠もなく人気選手の移籍情報を載せることがあります。盛り上げようとしているだけで、読者も最初からマユツバだと思っています。ところが、それを日本の通信社や新聞社がまともに取り上げるから信憑性が出てきてしまう」(サッカージャーナリストの中山淳氏)

 ただ、日本のファンは「またか」と思っただけかもしれないけど、「移籍間違いなし」という報道によって期待が膨(ふく)らんでいた分、ラツィオサポーターからは落胆と怒りの声が上がっている。

「本田獲得失敗を受け、移籍市場閉幕12秒前(!)の滑り込みで獲得したMFアントニオ・カンドレーバとの“格”の違いも彼らには不満の様子。イタリア代表に選ばれたこともあるほどの選手なのですが……」(現地記者)

 長友(インテル)の活躍などもあって、イタリアでの日本人選手への評価は以前とは比較にならないほど高い。“日本で最高の選手”という看板が十分に魅力的な響きを持つようになったのも確かなのだ。もっとも、本田にとっては、なんの慰めにもならないかもしれないけれど……。

(写真/益田佑一)

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