はじめに

 前回イチロー選手の成績を分析をした際に,コメントで「今年は速球での打率が低下している」という意見をいただきました。そういえばそんな記事を最近読んだな,と思って記事を探してみたところ見つけました。

NEWSポストセブンの「イチローが速球に対応できなくなったことを示すデータ登場」という記事です。

 元の記事は週刊ポストということなので,週刊ポストの2011年10月14日号を買ってきました。この手の週刊誌を買うのは初めてなのですが,ネットの記事よりもいろいろ情報が掲載されていたので,買った甲斐はありました。

 この記事を簡単にまとめると,2011年のイチロー選手は200本安打を達成できなかったが,その背景として以下のようなデータを紹介しています。

 ・速球に対応できなくなった。
 ・選球眼が低下した。
 ・ゴロが増加し,ゴロがヒットにならなくなった。筋力の衰えか?
 ・長打力が低下した。
 ・早打ち傾向になった。

 しかし,この記事のデータを見ていくといくつか疑問に思う点があります。まぁ自分の調査不足のせいもあるのですが,データの解釈に疑問符がつくところがあるのでそれを紹介しつつ,疑問や批判,反論となるデータを挙げて行きたいと思います。

 データは週刊ポストも私もFANGRAPHSを元にしています。週刊ポストは2011年の9月26日現在のデータを,私の方はシーズン終了時点のデータを参照しています。

速球への対応

 まずは,球種別の成績から見て行きたいと思います。週刊ポストに掲載されたデータを表1-1に示します。

表1-1

 このデータは,0を平均にデータが+の場合は平均よりもヒットを打つ確率が高く,−の場合は平均よりもヒットを打つ確率が低いことを示します。このデータは2011年の9月26日現在のデータですので,シーズン終了時点のデータを表1-2に示します。

表1-2

 表1-2の方が2試合分のデータが多いので僅かにデータは違うわけですが,概ね同じ傾向をデータは示しています。週刊ポストでは,2011年のデータではファストボール,スライダー,カットボールに対してヒットになる確率が低下しており,特にファストボールでその特徴が顕著であると説明しています。

 この解釈に対しては特に疑問はありません。ファストボールがヒットになる確率が低下したのは事実ですから,なぜファストボールが打てなくなったのかを考えることが重要になってきます。

 この記事に疑問を感じたのは以降のデータからです。

選球眼について

 元の記事では,選球眼の低下も指摘されています。記事では表にはされていませんが,ボール球に対するスイング率を以下の表2-1に示してみました。

表2-1

 確かに,2006年から2010年までの平均と2011年のボール球に対するスイング率を比較すると,2011年のスイング率が高いわけですから,このデータを見る限り選球眼の低下の疑いも考えられます。

 しかし,この2006年から2010年までのデータを平均せずに1年ごとに見たらどうなるでしょうか?データを表2-2に示します。

表2-2

 1年ごとのデータを見ると,年々ボール球に対するスイング率が増加しているのがわかりますが,2011年と2010年のスイング率はほぼ同程度であることがわかります。

 ボール球に対するスイング率が同程度であっても,2010年は200本安打を達成しているわけですから,2011年に200本安打を達成できなかった原因としてボール球に対するスイング率を考えることには無理があると思います。

 また,表2-2にはイチロー選手のデータだけでなくMLBの平均値も示していますが,MLB全体のボール球に対するスイング率が2010年と2011年は,2009年依然として5%ほど上昇しています。この傾向は同様にイチロー選手にも見られます。

 この上昇が起こった原因はわかりませんが,2006年から2010年までの平均値と,2011年のスイング率を比較すれば,2011年のスイング率が高くなるのは当然といえ,2011年のデータも安易に選球眼が低下したとはいえないのではないでしょうか。