僕の「ワールドカップ本」が、本日ようやく校了した。
一言でいえば、南アワールドカップの取材記なのだけれど、この一冊には、一言では語り尽くせない話を、たっぷり詰め込んだつもりだ。
発売日は10月7日。
「日本サッカー現場検証」あの0トップを読み解く
(定価800円 じっぴコンパクト・実業之日本社刊)

世の中は、南アワールドカップなどとうの昔の出来事と言わんばかりに先へ、先へと進んでいる。欧州の新シーズンやザッケローニに話題を集中させている。
それを悪く言うつもりはないし、新しいモノに期待したい気持ちは理解できるけれど、僕には全体的に少しばかり急ぎすぎのように見える。
まだワールドカップが終わって2ヶ月半も経っていないのだ。欧州の新シーズンはともかく、ザッケローニは、まだ日本代表監督として1試合も采配を振るっていないのだ。
「さあどうなるんだ」。話題はその域を脱していない。

だがメディアは、とりわけ日本のメディアは、「さあ次はどうなる?」が大好きだ。
よく言えばプレビュー、展望記事になるが、実際は煽りだ。煽って煽って煽りまくる。そこに商業性を見いだそうとしている。その分だけ、レビューがしっかりしていれば何も問題ない。バランスの良い報道になるが、現実はまるでそうなっていない。プレビューとレビューの関係は1対9だ。
「さあ次はどうなる?」と反省、検証、分析とのバランスは著しく悪い。

いまからこれだけザッケローニと騒ぐのなら、その反省、検証、分析も同じくらいしなければならない。2年後なのか4年後なのか知らないが、次に新監督を迎えるときは、また「さあ次はどうなる?」になっているはず。岡田ジャパンの検証がろくすっぽなされないまま「さあ次はどうなる」と騒いでいるいまの現状がその何よりの証拠だ。

「日本サッカー現場検証」あの0トップを読み解く――では、騒ぎの落とし前を自分なりに付けたつもりだ。でないと、先に進む気持ちが僕には湧いてこなかったからだ。そうした意味で、僕はこの本が校了したいま、とても晴れ晴れとした気持ちでいる。僕にとっての南アワールドカップは、これでようやく終了。
アルゼンチン戦、韓国戦に万全の態勢で臨めるというわけだ。ぴったりのタイミングと言えばぴったりのタイミングだ。世の中から遅れているとは思えないのだ。ザッケローニのことはこれから語っていけば十分だ。

とはいえ「さあ次はどうなる」は、ワールドカップの周期との相性があまりよろしくないとの思いは募るばかりだ。推理のレベルにまで発展すればともかく、煽りはいただけない。煽れば振り向く人は確実にいる。ファン歴が浅い大衆の人ほど、乗せられてしまう傾向が強い。「まだ“本番”まで3年9か月あるんだぜ」と言う人は少ない。
片や、情報を発信するメディアは一応、その道のプロだ。大衆をあるべき方向に導く使命がプロにはある。そのプロが素人の弱みにつけ込み、彼らが喜びそうな期待感溢れる美辞麗句を並べ、商売繁盛を願う姿が日本には目立つ。そう言い切っていいと思う。

メディアがもっとプロらしい専門性を発揮しないと、サッカーのレベルは上がらない。「メルマガ」にも書いたけれど、せっかく日本代表がベスト16に進み、「サッカー偏差値」を、上げたのだから、それに関わる人も同様に「サッカー偏差値」を上げないと、日本の「サッカー偏差値」は上がらない。足を引っ張り、すなわち相殺してはいけないのだ。
その中心にいるメディアの責任は重い。「さあ次はどうなる」と煽る前に、するべきことはあるんじゃないかと僕は思う。(了)