石井紘人セルビア戦レポート、「同じ過ちを繰り返す日本サッカー」

■どこかに消え去ったコンセプト
「海外組が揃えば大丈夫」
まるでデジャビュのようだ。さかのぼること4年――。
コンフェデレーションズカップ2003のフランス戦や05年のブラジル戦、さらにドイツW杯直前の親善試合となったアウェイでのドイツ戦を引き合いに出し、海外組が揃えばなんとかなると、日本代表関係者、そして我々もドイツW杯での日本代表に期待していた。というより、それを心のよりどころとしていたのかもしれない。
しかし、ドイツで待っていた現実は、グループリーグ敗退という惨敗だった。
にもかかわらず、その4年後、またしても戦術なき“海外組が揃えば大丈夫”でW杯にのぞもうとしている。

世界で勝つために、日本人の敏捷性と持久力を活かすという「接近・連続・展開」を掲げた岡田監督。しかし、東アジア選手権で惨敗を喫すると、「攻撃が中に中にいきすぎた」と分析し、先月頭に行われたバーレーン戦ではワイドに選手を配置することにチェンジ。それが功を奏し、海外組の力で勝利することに成功し、解任騒動を封じ込めた。
そんな状況で迎えた国内組のみで構成された日本代表と、2軍、3軍揃いのセルビアとの親善試合。
日本は立ち上がりからピンチを迎え、14分にはセンターバックの脆さを露呈し、先制点を奪われてしまう。

「みんなが中に入ってしまってサイドに起点が作れないようになってしまって、なかなかチャンスが作れなかった」と岡田監督は攻撃面を振り返ったが、むしろサイド攻撃はできていた。中村俊輔のキープから、長友佑都がクロスをあげ、岡崎慎司がシュートを放ったシーンや、サイドに入った石川直宏が中村のスルーパスに反応し決定機を迎えた数少ないチャンスは、「展開」できたことにより生まれたものだった。それでも得点を奪えなかったのは、中央を使えなかったことや、単に個の力で勝てなかったことが原因だ。

セルビアの2軍クラスでも、現在の日本代表メンバーでは1対1で勝てないし、単純なクロスでは跳ね返されてしまう(なによりクロスに強いセンターフォワードがいない)。それを補うために打ち出した岡田スタイルが、「接近・連続・展開」かと思いきや、いまや「展開」して、個をポイントに起点を作ろうとしている。いったい岡田監督はどのようなサッカーでW杯に臨むつもりなのか。

「うちはこれから攻撃で圧倒して勝てるレベルの相手とやるわけではないので、そういう意味で先に失点というのはどうしても避けたい」と、岡田監督はW杯での戦い方についてこぼしたが、引いた強豪国を崩せないのは02年W杯後の課題だ。このままではW杯に行っても、今までと同じ課題を渡されるだけ。つまり、8年間なんの学習もしていないということになる。

■どうせ負けるなら監督を交代するべき
もちろん、今から監督を代えてもグループリーグ突破は難しいのは百も承知だ。今代えるのはリスクが大きい」という日本サッカー協会首脳の言い分もわからなくもない。
ただ、岡田監督では勝てないというのが民意なのはアンケートにも表れている。勝てないと思う監督で大会に臨み、なんともいえない感情を味わうのはもうたくさんだ。同じ失敗を繰り返すほど無駄なことはない。

どうせ負けるなら、岡田監督を更迭して臨み「日本代表監督は結果を出せなければクビになる」というのを示し、日本サッカーに蔓延する閉塞感を打ち破った方が次に繋がる。トルシエがプレッシャーにさいなまされたのも、“加茂監督更迭”という事実があったからだと私は思っている。あの時、記憶に新しかった“更迭”の二文字は、日本サッカーに関わる全ての人の頭のなかにあった。

セルビア戦後、犬飼基昭JFA会長は「ああいう強いレベルになると点が入っていない。オーストラリアとオランダ、南アフリカなど。強いところとやると入らないので心配だ」と振り返ったが、それなのに岡田監督で臨むというのか。
98年。過酷を極めたW杯予選で、長沼健元JFA会長が「加茂監督(当時)が辞めるときは私も辞める」と発言し、「あなたが辞めたところでW杯に行けるのか」と罵声を浴びせられていたが、いまのJFAにはその覚悟すらなく、他人事のように日本代表が語られている。

どうせ監督が代わらないのなら。3戦全敗してしまうのなら。その責任くらいははっきりさせなければ、南アフリカW杯後に残るのは、「フィニッシュの精度の差」「個々の能力の差」といういつものテクニカルレポートのみというむなしいものになってしまう。
国内で行われる試合は5月24日の韓国戦のみ。それまでになんらかのアクションを起こせなければ、待っているのは空虚感だけだ。(了)

文/石井紘人