韓国が寒い。新たに指揮官に就任したホ・ジョンム監督率いる新生韓国代表のデビュー戦を取材するためにソウルに来ているが、日中の気温は0度前後。1月30日のチリ代表との親善試合は、マイナス2度の寒さの中で行なわれたほどだ。
 そのせいか、スタジアムに足を運ぶ人々は少なく、その数はわずか15,012人。代表Aマッチとしては歴代最低観客数で、肝心の試合のほうも岡田ジャパンとも戦ったチリ代表相手に0−1の敗北。外国人監督の招聘に失敗した妥協策として代表監督に7年ぶりに復帰したホ・ジョンムだが、その船出を華々しく飾ることはできなかったどころか、その前途は多難だと懐疑の目を向けられている始末だ。寒さしのぎにプレスルームに集まる記者たちも、「韓国代表は7年前に逆戻りしてしまった」と、不満をこぼしていた。
 
 そんなスタジアムの一角で懐かしい顔にあった。元韓国代表のコ・ジョンウン。2001年に現役を引退し、現在は指導者となった“赤兎馬(現役時代の愛称)”と韓国代表や近況について語るうちに、日本で発信されたひとつのニュースが話題になった。
 
「Jリーグが日韓中の“アジア枠”の創設を提案」(読売新聞1月1日付け)。このニュースに、かつてセレッソ大阪でもプレーした元Jリーガーの見解は慎重だった。
「アジア枠というアイディアには大賛成だが、韓国人選手のJ進出が即座に激増することはないと思う。数年前ならともかく、韓国人選手にとって、もはやJリーグは以前ほどに魅力的なリーグではなくなかったからなぁ」
 そもそも韓国人選手にとって、Jリーグは人気の海外進出先だった。日本は地理的にも文化的にも「身近な海外」であり、韓国で稼げる年俸以上の富も手にできる。コ・ジョンウンやホン・ミョンボを筆頭とする現役バリバリの代表選手のJ進出が相次いだ90年代後半から2000年代にかけては、「韓国人選手にとってJリーグはエル・ドラド(黄金郷)だ」と報じられたほどである。
 コ・ジョンウンも、「JではKリーグ7年分の年俸が1年で稼げた」そうだが、昨今の韓国人選手にとってJリーグは決して“エル・ドラド”ではないらしい。
 
 というのも、Kリーグは昨今、選手たちの年棒が急騰している。07年度Kリーガー平均年俸は9500万ウォン(約1100万円)。95年にホン・ミョンボがKリーグ初の1億ウォンプレーヤーになったときには大きな話題になったものだが、いまや1億ウォンは平均年俸レベルであり、代表クラスになると推定5億ウォン以上は当たり前。ワールドカップにも出場した人気選手になると、推定10億ウォン以上になると言われているバブル時代なのだ。
 それゆえに「韓国でも大金が稼げるのに、日本にあえて行く必要があるのか」。そんな声がメディアやサポーターの両方から聞こえてくる。
 
 ましてここ数年で韓国でも、ヨーロッパ進出が定着。なかでもパク・チソン、イ・ヨンピョ、ソル・ギヒョン、イ・ドングッがプレーするイングランドが、韓国人選手たちの目標であり、憧れの的になりつつある。一時はJリーグ進出も希望していたキム・ドゥヒョンも、イングランド1部リーグのウェストブロミッチへ移籍した。韓国人選手たちの目は、東ではなく西に向いているのだ。
 ただ、そのヨーロッパ進出へのステップボードとしてJリーグを位置づける視点があるのも事実だろう。モデルは、京都パープルサンガからオランダのPSV、そしてマンチェスター・ユナイテッドへとステップアップしたパク・チソンだ。そのサクセスストーリーを再現したいと夢見る若手選手たちにとって、Jリーグは格好の武者修行の場でもあるのだ。
 実際、昨季Jリーグでプレーした韓国人選手6名のうち、4名の選手が10代で日本に渡ってきた。それもほとんどがC契約である。