東京都内を中心に展開するカフェチェーン「喫茶室ルノアール」(写真:銀座ルノアール

サラリーマンがタバコを吸いながら、長時間休憩や商談で利用する喫茶店――。都心の駅前などに店舗を構える「喫茶室ルノアール」に対して、このようなイメージを持つ人は多いだろう。だが、その印象から脱皮しようと、運営会社の銀座ルノアールが新たな施策を打ち出している。

2019年4月時点で、銀座ルノアールが手がける喫茶店は全業態で121店。喫茶室ルノアールはそのうち94店舗を占める収益柱で、さらにその8割が東京23区内に出店している。喫茶室ルノアールはコーヒーの販売単価が平均580円と、低価格カフェチェーンが台頭する中では、比較的高めの値段設定だ。コーヒー1杯だけを注文し長く滞在する顧客が少なくないが、「ゆったりと過ごしたい」との需要が底堅いこともあり、店舗数を徐々に拡大している。

銀座ルノアールは全般的に、原価率が低いコーヒーの取り扱いが多い。かつ、スタッフ教育を徹底することで店舗人員も効率的に配置。これらにより業績は堅調だ。2018年3月期は売上高が前期比1.4%増の77.5億円、営業利益が同10.6%増の3.2億円で着地した。今2019年3月期も増収増益を見込む。

女性客比率が1割から3割に

さらに一段上の成長を目指し、新たな顧客層の開拓に照準を合わせる。冒頭のように「男性が集まる喫茶店」とのイメージが強い喫茶室ルノアールだが、実は女性比率が年々上昇傾向にある。かつて女性客比率は1割以内にとどまっていたが、現在では3割弱を占めるようになった。

90年代に登場したスターバックスコーヒーやタリーズコーヒーなどのおしゃれなカフェチェーンが浸透し、女性が街中でコーヒーを飲む機会が増えた。また、喫茶室ルノアールは2013年から完全分煙化を進めている。禁煙席と喫煙席の間を床から天井まで完全に仕切り、排気設備を利用して喫煙席の煙が禁煙席へ流れ出さないようにしている。この分煙徹底が、女性客の誘致に奏功した。

小まめに実施している改装も、女性客の増加に貢献している。これまでは「大正ロマン」をテーマにした落ち着いたトーンのレトロな雰囲気の内装だったが、2016年から新店舗と一部改装店舗で、日本風と西洋風のデザインを組み合わせた「昭和モダン」へと模様替え。レトロな雰囲気は残しつつ、白や青色などのカラフルな色を壁やいすなどに使用し、同時にこれまでよりも席同士の間隔を広げる工夫を凝らした。

新顧客層を掘り起こすべく、新業態の開発にも力を注ぐ。若者層をメインターゲットとする「Cafeルノアール」や「NEW YORKER’S Cafe」、ファミリー層やシニア層を狙う「ミヤマ珈琲」など、いずれも10店舗以下の小規模ながら6種類の喫茶店業態を持つ。こういった新業態は20年前から手がけてきたが、2016年に「NEW YORKER’S Cafe」をリニューアルするなど、近年ブランドのテコ入れを本格化している。


昨年9月にリニューアルオープンしたCafeルノアール目黒東口駅前店(写真:銀座ルノアール

象徴的なのは、2018年9月にリニューアルオープンしたCafeルノアール目黒東口駅前店の動きだ。メニュー開発に女性社員の意見を積極的に取り入れ、クリーミーな泡が乗ったアイスコーヒーやクリームが多く乗った飲み物、フルーツ入りの飲み物などを拡充。喫茶室ルノアールと異なる品ぞろえにした。内装もカラフルないすを配置し、女性客を意識している。その結果、以前よりも30代以下の若年層や女性、カップル、家族の利用が増えたという。

「業態ごとに想定する主要顧客層を分け、グループ全体で今までとは異なる層を掘り起こしていきたい。そうすれば客層が違うグループの複数ブランドで、ドミナントで出店できる可能性もある」。銀座ルノワールの岡崎裕成・取締役営業本部長は、新業態強化の理由についてこのように語る。

客層を広げるだけではなく、地方の大都市への進出ももくろむ。銀座ルノアールが得意とする都心の駅前は商圏が小さく、競合との顧客争奪戦が激しさを増している。現在、銀座ルノアールが首都圏以外で出店しているのは、熊本県のフランチャイズ1店舗のみ。

首都圏立地が今後も柱であることは変わらないものの、地方大都市への進行に向け、現在調査を行っているところだ。「たとえば都心だけでなく、地方でも喫茶店をモーニングで利用する人が増えている。都心と地方で今後の成長性はあまり変わらないだろう。地方の中でもより需要拡大が見込める大都市で、喫茶室ルノアールの認知度を高めていきたい」と、岡崎営業本部長は意気込む。

ライバルの台頭で競争激化

女性層など新しい顧客を獲得したとはいえ、銀座ルノアールは安閑とはしていられない。日本では、1人あたりのコーヒー消費量は少しずつ増えている。全日本コーヒー協会によると、1週間における消費量は2002年に10.03杯だったが2016年には11.09杯にまで伸びた。

一方で、コンビニエンスストアやファストフード業態など他業種もコーヒーの販売を積極化。銀座ルノアールがライバルと位置付ける星乃珈琲店や名古屋発のカフェチェーン、コメダ珈琲店も全国で出店を加速させている。「ここまで市場競争が激しくなるとは想定していなかった」(岡崎営業本部長)。

銀座ルノアールはグループ全体の既存店売上高を見ると、収益柱である喫茶室ルノアール以外は、ほとんどの業態が前年実績を超えることができていない。新業態でも新顧客を増やすことができるか。また、喫茶室ルノアールの女性客をリピート客として囲い込み続けることができるか。真価が問われるのはこれからだ。