うどん、寿司、カステラ、背脂ラーメンーーそのような土地の名物をかたどった行灯を屋根に取り付けた、ユニークなタクシーが全国に登場しています。全国的な協会も設立された「ご当地タクシー」、どのような意図があるのでしょうか。

タクシードライバーは観光のプロでもある?

 香川県ではうどん、長崎県ではカステラなど、その地域の名物をかたどったユニークな行灯(あんどん)を屋根に取り付けた、「ご当地タクシー」が全国に登場しています。


香川県を走る「うどんタクシー」。うどんの丼をかたどった行灯が載っている(画像:日本ご当地タクシー協会)。

 2018年7月には、このようなタクシーの全国団体「日本ご当地タクシー協会」も設立。9月現在で、次のようなタクシーが加盟しています(カッコ内は運行会社名)。

・青森県弘前市「アップルパイタクシー」(北星交通)
・新潟県三条市「燕背脂ラーメンタクシー」(中越交通)
・金沢市「金澤寿司タクシー」(オリエンタル)
・長野県栄村「秋山郷温泉タクシー」(森宮交通)
・長野県軽井沢市「スイーツタクシー」(松葉タクシー)
・香川県琴平町「うどんタクシー」(琴平バス)
・長崎市「カステラタクシー&長崎スウィーツマニアタクシー」(シティキャブ長崎)
・宮崎市「チキン南蛮タクシー」(宮交タクシー)
※準備中のものを除く

 ご当地タクシーとは何なのか、日本ご当地タクシー協会の事務局を務める大阪市の観光ビジネスコンサルタンツに話をききました。

――「ご当地タクシー」とは何でしょうか?

 地元の情報に精通したプロドライバーが運転するタクシーに乗って、ガイドを受けながらスポットを回るツアーを提供するものです。観光地や食事場所などをガイドし、個々のお客様の希望に沿った旅をサポートします。なお、流しでの営業は行っておらず、すべて事前予約制です。

――一般のタクシーとの違いは行灯などの外装だけでしょうか?

 各社の認定制度をクリアし、商品の知識や接客レベルの高いドライバーのみが乗務します。たとえば「秋山郷温泉タクシー」の乗務員さんは「温泉ソムリエ」資格を持っておられますし、「うどんタクシー」の乗務員さんは全員、ご自身でもうどんを打つことができます

――もともと、どの事業者が、どのような意図で始めたものなのでしょうか?

 香川県で「うどんタクシー」を展開している琴平バスの代表取締役で、当協会の理事長でもある楠木社長が知り合いのタクシー会社へ声をかけ、賛同頂いた方々が発起人となり、協会設立に至りました。

ただの移動手段じゃない! タクシーで広がる観光の可能性

――全国の事業者で協会が組まれたのは、どのような目的があるのでしょうか?

 タクシーでも観光ができるという価値、つまり「観光タクシー」の一般への普及を目的としています。個々の社で活動を進めるよりも、会員同士のネットワークを使い、情報交換や集客など相互に連携し、普及のスピードを高めていくことが狙いです。

 地域の観光スポットをツアー形式でめぐる観光タクシーは従来から全国で運行されていますが、一般にはまだまだ認知されていません。グルメに限るわけではありませんが、強くテーマ性を打ち出し、人々に観光タクシーの価値をわかりやすく伝えられる存在が「ご当地タクシー」なのです。

※ ※ ※

 観光ビジネスコンサルタンツによると、観光においてのタクシーは、たとえば主要駅などから特定のスポットまでの拠点間移動としての利用が多いとのこと。そこで「ご当地タクシー」を通じ、タクシーを使ったツアー商品としての価値を提案したいといいます。

「ほとんど地元の人しか知らないようなことを体験できるだけでなく、ひとりでも楽しみやすい商品です。これはタクシーならではといえるでしょう」(観光ビジネスコンサルタンツ)。

 自治体や観光関連団体から注目されているだけでなく、たとえばバス会社から、バスを降りた先の旅行商品として提案したいといった話もあるといいます。日本ご当地タクシー協会としては、2018年内に「ご当地タクシー」の加盟社数を20社に、2020年までには全国47都道府県に伸ばすことが目標だそうです。


石川県の「金澤寿司タクシー」行灯(画像:日本ご当地タクシー協会)。

 ちなみに、特に注目の「ご当地タクシー」はどれかと尋ねたところ、観光ビジネスコンサルタンツの担当者は、青森県弘前市の「アップルパイタクシー」と、長野県栄村の「秋山郷温泉タクシー」を挙げました。前者は担当ドライバーが全員女性で、「桜こまち」の呼称があるなど、ドライバーにこだわって価値を高めている点、後者は、食べ物以外のテーマを唯一展開し、複雑な道が多く長野県人でも行きづらい秋山郷を、地元の人による案内で安心して楽しめる点が魅力だそうです。