猛暑が男を暴走させた!1993年公開の取扱注意映画『フォーリング・ダウン』の衝撃
2018年、夏。
各地で最高気温が◯度をマークしたというニュースが頻繁に流れ、埼玉県熊谷市では摂氏41.1度を記録し観測史上最高気温となるなど、異常とも言えるほどの記録的な猛暑が続く今夏。
暑さは、時に人を狂わせる-。
今回はそんな猛暑にヤラれてしまったひとりの男が衝撃と笑撃をくれる、知る人ぞ知る映画『フォーリング・ダウン』(93)を紹介したい。
主人公はうだつのあがらないサラリーマン
『フォーリング・ダウン』は1993年に公開された、ジョエル・シューマカー監督のアメリカ映画。大都会ロサンゼルスを舞台に、日常生活に疲れたマイケル・ダグラス演じる平凡なサラリーマンが理性を失い、数々の事件を起こしていく姿を描くサスペンス・スリラーだ。
主演のマイケル・ダグラスはこの頃、イケイケの色男を演じていることが多かったが、この作品では一転、トレードマークでもあった長髪をバッサリ切り、ダサいメガネをかけ、ネクタイに半袖シャツという、うだつの上がらなさそうなサラリーマン:D-フェンスを演じている。
出典元:YouTube(Movieclips)
渋滞、叫び、ハエ……そして猛暑!
高速道路の工事により、ハイウェイの大渋滞にハマってしまったD-フェンス。クルマの冷房がまるで追いつかないほどの暑さ、鳴り響くクラクション、周りの車で騒ぐ子供の叫び声、そして車内に入り込んだハエの羽音……。
それらが絶妙なシンフォニーを奏で、イライラを募らせた彼は、ついに車を乗り捨ててしまう。(筆者もエアコン不調気味のポンコツ車で外回りの仕事をしているので、彼の気持ちがよくわかる……)
「こんな状況で車になんか乗っていられるか!」と歩き出し、普段から溜め込んでいたであろう欺瞞に対する怒りと狂気を炸裂させるD-フェンス。この不快指数K点超えの状況から暴走がはじまるイントロダクションがバツグンである。
一休みしていたら、ヤンキーにカラまれる!
出典元:YouTube(Movieclips)
D-フェンスは何も無鉄砲に車を乗り捨てたわけではない。彼には「家に帰りたい!」という切なる思いと、そしてとある目的があるのだが、まるでRPGゲームのように彼の行く手を阻む“敵”が現れる。
暑さのなか歩き回り、疲れたので休んでいると「おい! おっさん! ここはオレらの縄張りだぜ!」と見るからに、いわゆる「DQN」な輩にカラまれてしまう。すでにイライラの沸点を超えているD-フェンスだが、とりあえずここは冷静に穏便に切り抜けようと話し合いを提案する。
しかし彼らがそれを許すわけもなく、とんでもない方法でD-フェンスを襲うのだが、それがまた彼の狂気を加速させていくのだ。この先の展開は予想を遥かに越えたものなので、是非作品を観て確かめていただきたい。
3分過ぎただけなのにモーニングが食べられない!
出典元:YouTube(Movieclips)
ヤンキーとの戦いでお腹が空いてしまったD-フェンス。とあるハンバーガー屋さんに入り、モーニングセットを注文すると「申し訳ございません、(取扱時間を)3分過ぎていますので、ランチメニューからお選びください」とスタッフに一蹴されてしまう。
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なんとも融通の利かないマニュアル接客であるにせよ、スタッフはあくまで“正しい対応”をしたわけだが、荒れ狂った精神状態にあるD-フェンスにとって、それが「地雷」であることは言うまでもなく……。ヤンキーとの戦いで入手した武器を使って大暴れしてしまう。
そしてモーニングセットの一件のついでと言わんばかりに、「メニューの写真と実物が違いすぎる!」ときっと前から言いたかったのであろうクレームまでしっかりつけるのであった。
出典元:YouTube(Movieclips)
ムダな道路工事に阻まれる!
彼なりの艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて、やっとこさ目的地にたどり着こうというときに立ちはだかるのが、何のために何をどう直しているのかわからない、税金のムダ使い的な道路工事。
これはオープニングがフリになっていて、そもそもD-フェンスがブチ切れるきっかけこそ、道路工事が引き起こした大渋滞である。
出典元:YouTube(Movieclips)
D-フェンスの暴走が加速するのと比例して、彼が持つ武器がバット、バタフライナイフ、マシンガン、さらに……というようにわらしべ長者のように、あるいはRPGゲームのように、どんどん強力になっていくのが危なっかしくも、ワクワクしてしまう。
果たして、最後に彼が手にする武器とは!? その答えは、本作のラストで待っているのだが、この締めくくりは切なさと可笑しさが同居した味わい深いシーンになっている。
一般市民の代弁者=D-フェンス
出典元:YouTube(Movieclips)
本作の魅力のひとつは、D-フェンスが抱いている怒りについて、観ている者が共感できる点だ。
彼の怒りは、普段私たちが些細な物事で溜め込んでいるストレスと呼応する。「(ほんとは怒りたいけど)人生を棒にふってまでブチ切れることではない」と私たちがガマンしていることに対して、キレたD-フェンスは怒りを露わにする。我々にとってある意味でヒーローともいえる存在だ。
同じく暴走する男を描いた名作『タクシードライバー』や『スカーフェイス』とはまた一味違う、私たちと等身大のキャラクターとも言えるだろう。
では、D-フェンスはまともな人間なのだろうか?と言われるとそんなこともない。彼にはある人に会うという目的があるのだが、彼はそもそも警察からその人に会うことを禁止されている(なんとなくおわかりいただけるだろう)。その禁止されている理由も彼の言動を見ていればなんとなく察知できる。
彼に待ち受ける困難のなかには、アメリカの銃社会、有色人種と白人層の軋轢が絡んでおり、これらを時にコミカルに、時にシリアスに描いているのもまた特徴的だ。
D-フェンスを追う刑事の視点が加わることで物語に奥行きが生じ、ただのスリラーにとどまらない、人間ドラマとしての面白さも生まれている。
出典元:YouTube(Movieclips)
映画レビューサービス・Filmarks(フィルマークス)では、本作について「夏に観るにはいい」「不条理であってもここまでやればもう爽快」「この作品がオールタイムベスト」と高く評価する映画ファンも多い。何を隠そう、筆者もそのひとり。
まさに不条理とも言いたくなる猛暑で、グッタリしがちなこの夏。冷房を効かせた部屋のなかで、冷えたビールでもグビグビと煽りながら、暑さにヤラれた男の狂気と悲哀を楽しんでみてはいかがだろうか。
筆者は、取り急ぎ外回り用の新車購入申請を進めるつもりだ。
※記事内のFilmarksユーザーレビューは2018年8月15日時点のものです。
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