株主総会出席後、マスコミに囲まれる板倉正直印西市長(撮影:山本 清)

親会社の京成電鉄なら運賃160円の距離が310円――。


東洋経済オンライン「鉄道最前線」は、鉄道にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

高額運賃で悪名高い北総線をめぐってまた新たな動きが出てきた。運賃認可した国を相手に住民訴訟が2つ起こされているし、同線に頼らない交通機関として、住民が主体となって運行を開始した路線バス「生活バスちばにう」も新路線運行を開始するなど話題に事欠かないが、同線を運営する北総鉄道(本社・鎌ケ谷市)の株主総会が6月22日に開かれた際、株主の1人である印西市の板倉正直市長が、取締役8人を選任する議案に唯一反対したのだ。

市長は「運賃認可は出来レース」と厳しく批判

さらに、板倉市長は「近いうちに株主代表訴訟の可能性もテーマにして北総鉄道の運賃問題全般を考える勉強会を開催する」という考えを示している。総会後の取締役会で平田憲一郎社長は会長に、室谷正裕取締役は社長にそれぞれ就任したが、両者ともに国土交通省OBで、平田氏は、鉄道事業の許認可に携わる鉄道局長経験者だ。さらに室谷新社長は京成電鉄常務を兼務している。


北総線を走る車両「7500形」(写真:tarousite / PIXTA)

北総線は北総鉄道が京成高砂―印旛日本医大間32.3kmを運営する線で、同社は京成電鉄が株式の50%を保有する京成電鉄の子会社だ。沿線住民が高額運賃の不当性を訴える中、京成、北総側は、「国交省が認可したものであり、運賃は適正だ」と主張しているが、板倉市長は、「運賃認可は出来レースだ」と厳しく批判している。北総、京成、国交省のトライアングルの中、日常的な利用者である沿線住民だけが蚊帳の外に置かれているとの認識だ。

同社の株式は京成電鉄、県、都市再生機構(UR)が約9割を占め、印西市は沿線6市中最も少ない0.024%(1万2000株)。しかし、株主代表訴訟の原告適格に持ち株数は関係ない。板倉市長は市民の声を代弁する市長としての信念を同社の株主として貫く戦略に出るとしたら、政治家としてなかなかの知恵者だ。

板倉市長は、「会社に値下げ努力をする姿勢は見られず、住民の不満は爆発寸前」との認識を示しており、強い態度に出て運賃値下げにつなげたい意向だ。というのも、今年1月21日に、印西市内で住民団体主催の「北総線運賃を考えるシンポジウム」が開催され、沿線住民で会場が埋め尽くされたのだ。板倉市長も参加したが、60人ほどの定員の会場に3倍近くの市民が駆けつけ、立ち見や会場の外で聞き入る市民までいる大盛況だったのだ。

板倉市長は市民の北総鉄道高額運賃問題への関心を強く実感したのだろう。北総側は「繰越損失は約96億円あり、依然として厳しい経営状況だ」と抵抗しているが、ならばなぜ北総に不利な契約を同社の経営陣がしているのかを市長は問題視しているのだ。

京成と北総鉄道との線路使用料の格差

板倉市長が特に問題視しているのが、千葉ニュータウン鉄道(京成の100%子会社)が京成、北総鉄道それぞれから徴収している年間の線路使用料の格差である。北総鉄道は京成高砂―小室間(19.8km)は第一種鉄道事業者として自前の線路に電車を運行しているが、小室―印旛日本医大間(12.5km)は第二種鉄道事業者(線路は持たず運行だけ行う)として、千葉ニュータウン鉄道(線路しか持たない第三種鉄道事業者)の線路を使用して電車の運行をしている。

京成はスカイライナー等を成田空港まで運行しているが、北総鉄道などの線路も使用している。つまり、京成上野―京成高砂間は第一種鉄道事業者、京成高砂―成田空港間は第二種鉄道事業者ということになる。つまり千葉ニュータウン鉄道の線路を京成も北総も使っているのだが、その線路使用料におよそ7倍もの差があるのだ。


同じ線路の使用料におよそ7倍もの差がある(図:「北総線の運賃値下げを実現する会」作成資料)

千葉ニュータウン鉄道は京成の100%子会社であり、親会社である京成に安く貸して、北総鉄道には不当に高く貸しているという構図だと、住民団体の「北総線の運賃値下げを実現する会」(北実会)は考えている。

ちなみに千葉ニュータウン鉄道は従業員ゼロ、社長は北総の室谷社長だ。「国交省OBと京成が、北総、千葉ニュータウン鉄道を牛耳り、北総の利益を奪っている」(北実会)状況で、板倉市長は、この契約により北総鉄道取締役が同社に損害を与えているという構図とみているのだろう。北総は、小室―印旛日本医大区間は高額の線路使用料が原因で赤字を出していることが、東京地裁で進行中の運賃認可取消訴訟(北総線運賃二次訴訟)で明らかになっている。

逆に、京成高砂―小室間の線路については、北総が京成に線路を貸しているが、この区間についての北総が受け取る線路使用料については不当に少なすぎると市長は主張している。

誰を被告として、北総鉄道への損害をどのように主張するかについて今後、印西市庁内に設置される勉強会で議論されるだろう。株主代表訴訟に強い弁護士の選定も進んでいるようだ。株主代表訴訟となれば、北総が行っている契約の正当性、つまり、「不当な線路使用料の払いすぎ、取りはぐれ」(北実会)という経営者責任が真正面から問われることとなる。