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2018年入社の新人は例年以上に“手ごわい”らしい。企業の人事担当者などによると、競争よりも安定性を重視し、場の空気を慎重に読み、調和を保つことに長けている。その一方、「チャンスがあれば転職」「将来は独立」と考えがちで、負荷がかかると爆発しやすい。さらに人間関係が希薄な環境で育ったせいか、友人は「“よっ友”だけ」という。そんな新入社員とうまく付き合うコツとは――。

■お互いに「よっ」と声をかけすれ違うだけの人間関係

2018年度の新入社員は入社2カ月を過ぎた。今はまだ配属先でOJT(職場内教育訓練)を受けている頃だろう。

取材する企業の人事部担当者の多くが、この18年組について、すぐに離職しかねない繊細さを持っていると話す。異なる世代や属性の異なる人と対面で話す機会が希薄で、ちょっとでも扱いや指導法を間違えると、自分の殻に閉じこもり、いずれ爆発しかねない。実際、入社たった数日で会社を辞める事例も多く報道されている。

多くの企業は採用試験で「適性テスト」を実施している。この適性テストの結果は本来「非公表」だが、調査担当のA氏は18年組には次のような傾向があると筆者に明かしてくれた。

・性格面では、協調性、持続性が強く、主体性、変革性、外向性が弱い。
・仕事面では、行動性、競争性、野心性が弱い。

▼どっぷり「スマートフォン世代」ならではの傾向

「ストレス耐性」は例年より弱く、仕事の負荷に耐えられない傾向がある。調査の担当者A氏はこう語る。

「彼らは身の回りに固定電話がなく、SNS上でのコミュニケーションが主流です。そのためか、電話がかかってきても番号を知らない相手の場合は出ないなど、自分のコミュニティのなかでしか話さない傾向があります。相手をよく知り関係性が築けるまで、自ら発信することが苦手なタイプが多い。競争よりも安定性を重視し、出る杭にはなりたがらず、場の空気を慎重に読み、調和を保つことに長けています」

会社員にとって協調性は大事な要素だが、主体性や競争心に欠ける点は気になる。

一方、産労総合研究所の「新社会人の採用・育成研究会」は、18年組について「新卒者本人」に聞くとともに「大学キャリアセンター・就職支援者・企業担当者」にも調査している(2018年2月20日〜3月10日)。

それによると、新卒者本人は特に感じていないが、大学・企業などは18年組に関して「親の影響が強い」「地元志向が強い」「海外志向が弱い」という傾向が出ているという。

また、彼らの性格面では「人間関係の幅・興味の範囲が狭く」、「人間関係の深さも浅い」という傾向が出ているが、やはり本人はそう感じていない。

興味深いのは、本人と周囲の認識との乖離である。

■名前やどこに住んでいるかは知らない「よっ友」とは

ここで18年組と接してきた現場の声を紹介しよう。首都圏の大学でキャリア教育を担当しているキャリアコンサルタントのB氏は、例年に比べて、18年組は緊張しないでよどみなく話すことができ、授業後の質問や課題に関する文章を書かせたときも、書かないで空欄のままにする学生の数は減ったという。

ところが、自分が話したことや書いたことを翌週にはすっかり忘れてしまう学生が多い。B氏は語る。

「面接の練習でこうしたほうがいいよとアドバイスすると『気がつきませんでした、本当にそうですよね。来週もう1回練習させてください』と素直に言うのですが、翌週に練習すると、『気がつきませんでした』と再び同じ反応をする。『先週も同じことを言ったよね』と言ってもなぜか覚えていない。なぜだろうといろいろと考えてわかったのは、ネットとLINEの影響を強く受け、短期に集中して要領よく処理するのはすごく上手だが、それが終わるとリセット(消去)してしまう。そのため課題を整理したり、深めたりすることはできない傾向があります」

極めて場当たり的で、面接練習を「自分の問題」として引き寄せて考えようとしないところがあるというのだ。

▼「『よっ友』は友だちですか」と質問してくる学生

また、先ほどの産労総合研究所による調査で、人間関係の幅や深さにおいて本人と周囲の認識に乖離があると述べたが、その理由をある程度理解できる事例もある。

大学生のキャリア教育を担当している前出のコンサルタントのB氏はこんなエピソードを教えてくれた。

ある学生がキャリア教育に関して説明していたときに「『よっ友』は友だちですか」と質問してきたという。「よっ友」とは、すれ違いざまに「よっ」と声をかけるだけの間柄のことだ。

「それだけの関係なら友人ではないかもしれない」とB氏が答えると、その場にいた他の学生がざわついたという。なかには「そんなこと言われたら僕には友だちがいません」と、驚く学生もいたそうだ。

B氏は言う。

「彼らにとっての『友人』には、SNS上の友だちとそれ以外の友人の2種類があります。前者は、例えばフェイスブックでつながる人です。後者は、学内でばったり会って立ち話をして別れた後、一緒にいた仲間に『彼は友だちなの』と聞かれて『そうだよ、名前は知らないけどね』と言うような関係の人物も含まれます。友人だと思っていても個人のことに立ち入ることはしないし、友人でもどんなアルバイトをしているのか話さないというのは珍しくありません」

この話に関連するが、多くの企業の新入社員研修を手がける人材教育会社の講師C氏も「SNSの影響」をこう指摘する。

「友人同士でも個人の領域に深く入り込まない。学生時代から友人の名前は知っていても、じつはどこに住んでいるのか知らない人もいます。スマホやSNSのつながりが主流なのでコミュニケーションの範囲が限られ、年齢が離れた人と話をするのもストレスになるようです」

■「スマホを見ないで会話できる時間の限度」は20分

その一方で、このC氏によれば、彼らはSNSでのつながりと同じように相手との微妙な距離感を保ちつつ、人間関係では波風を立てずにそつなくその場を収めるのがうまい、と証言する。また前出のB氏は授業のグループディスカッションで30分の時間を与えても20分で終わるケースが目立つという。

「深いディベートをしたわけではないのに『皆が結論に満足しています』とニコニコして報告にきます。議論をしたがらないというより、早い時間で皆がいい気分でまとまったのだから、こんなにいいことはないという感覚です」(C氏)

じつはこの20分。前出のB氏の実感とも近い。B氏によれば、学生が「集中できる限度」の時間が20分ぐらいだという。

B氏は約100人の学生に対し、「スマホを見ないで会話できる時間の限度」についてアンケート調査を実施したことがある。その結果、半数の学生が「会話の相手による」と回答したが、残りの半数のほとんどが「20分」と回答したそうだ。特に本をあまり読まない学生はその傾向が強いという。

ということは、入社後に1時間の会議を設定しても、彼ら、彼女らは20分を過ぎると息切れしてしまうことになりかねない。

▼会社は2018年入社組をどう導けばいいのか

では、こうした特性を持つ18年組にどのように接し、指導していけばよいのだろうか。

まずは「20分対策」。研修のように1つの場所に閉じこめて行う講座などは要注意だ。B氏は「相当のエネルギーを費やすことになり、何時間もやると気を遣いすぎて壊れてしまいかねない」と言う。

「座学など集中して聞いてもらう時間を20分に限定し、20分後に何か意見を言わせるなど区切りを入れるなど工夫しないと集中力が持ちません」(B氏)

人材教育会社の講師C氏は「短い時間軸で目標を設定する」ことを勧める。

「彼らに『将来の夢は何か、30年後にどうしたいか』と聞いてもピンとこないという顔をします。そういう問いは全く響かないんです。また、自分が納得しなければ、やらされ感(負担感)を持ってしまう。1カ月後、半年後にこれができるようになろうと説明し、何をするか具体的な目標を設定する。ひとりひとりの個性や長所の違いに応じて本人がどうなりたいかを親身になって聞くことが大事であり、一度腹落ちしたら行動が早いのもこの世代の特徴です」

要するに、単に会社のために頑張ろうという精神論は通じない。よって、「この仕事をやってくれ」と上司が指示しても「どうしてこれをやるんですか」と聞いてくる。丁寧に説明し、納得しないと動かないというわけだ。

■「チャンスがあれば転職・独立」と考える「よっ友世代」

新人の中には、上司に無理難題な提案をしてくる場合もある。以前なら「新人のくせに10年早いんだよ」と突っぱねたものだが、それでは不満をため込んでしまう。その不満が高じると、やらされ感に嫌気をさして辞めてしまうリスクがある。

東京商工会議所が実施した「2018年度中堅・中小企業の新入社員意識調査」(2018年3月31日〜4月19日)によると、「今の会社でいつまで働きたいか」との質問に「定年まで働きたい」と答えたのは25.2%だった。昨年度に比べて、マイナス8.6%と大幅に減少している。

逆に「チャンスがあれば転職」「時期を見て転職」「将来は独立」の合計が25.8%と過去8年間で最も高くなっている。

新入社員が入社わずかで離職・転職するのは今に始まったことではない。だが、SNSどっぷりで友人はもっぱら「よっ友ばかり」、そして「集中力は20分しか続かない」……という18年組は例年以上に“手ごわい”存在のようだ。

「この世代はどうしようもない」「変わっている」などとこぼしても何も始まらない。育った環境や価値観が違うことを認識し、とにかく丁寧な指導を淡々とやっていくしか手はないのかもしれない。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)