ネット通販の物流拠点「セブンネット久喜センター」(埼玉県)に出入りするトラックは少なかった(記者撮影)

コンビニエンスストアが牽引して2017年度に最高益を達成したセブン&アイ・ホールディングス。好業績の裏で、ある損失処理が行われていた。EC(ネット通販)戦略に関して、「オムニ減損」234億円を計上したのだ。

「オムニ」という単語を聞かない

「リアル店舗とネット通販の融合」をうたい文句に「omni7(オムニセブン)」を立ち上げたのは2015年11月。業態の異なるグループ各社が参加し、「いつでも、どこでも、誰でも商品が買え、届くようにする」壮大なプロジェクト。同時に、2018年度に売上高1兆円という目標をブチ上げた。だが、思うような成果が出せず、2016年10月の決算会見で井阪輶一社長がオムニチャネル戦略の見直しを宣言した。


以来、オムニセブンの存在感は薄まるばかり。あるセブン&アイ関係者は「この1年半、『オムニ』という単語を社内ではまったく聞かなくなった」と話す。

失敗した理由の一つが品ぞろえだ。同サイトでの取扱品目はセブンプレミアムなどのPB(プライベートブランド)やメーカーとの共同開発品が中心だった。フロンティア・マネジメントの山手剛人シニア・アナリストは、「手に取れなくてもネットで買うのは、何でもそろっているから。グループ内外で商品をそろえなければ、アマゾンで買うという話になりかねない」と指摘する。

2016年5月には鈴木敏文会長が退任。「オムニチャネル戦略の推進役がいなくなった」(セブン関係者)。システムを内製化したことで、立ち上げに時間を要し、人材不足にも直面。今回の会計処理では、オムニセブンにかかわるソフトウエアの大半が減損対象になった。


就任から約2年を迎える井阪輶一社長。リアル店舗を軸としたデジタル戦略へと舵を切った(記者撮影)

目下、会社側が掲げるネット戦略のキーワードは「CRM(顧客関係管理)」だ。6月からはコンビニの「セブン-イレブン」や総合スーパーの「イトーヨーカドー」を皮切りに、各業態ごとに使えるスマートフォンアプリを順次立ち上げる。アプリを使った買い物に応じて、クーポンの配信などを行う。顧客の購買行動をリアル店舗でも把握、新しいサービスにつなげる狙いだ。

デジタル戦略推進本部長を務める後藤克弘副社長は「単品管理ではわからなかった、個々の顧客の動きが捕捉できる」と語る。

「もうアマゾンと対抗しない」

「小さく生んでPDCA(計画・実行・評価・改善)を高速で回せ」。井阪社長は社内でそう繰り返す。

その実例が2017年10月から北海道の小樽地区で始めたネットコンビニ。対象地区のセブン-イレブンの店頭にある商品をネットで注文、自宅で受け取れるサービスだ。顧客の要望を聞きながら、地道にサービス内容を改善している。今年度中に北海道全域の約1000店に広げる構えだ。 


当記事は「週刊東洋経済」4月28日-5月5日合併号 <4月23日発売>からの転載記事です

競合に目を移せば、ウォルマート傘下の西友は楽天と組んでのネットスーパー運営を表明。イオンはECベンチャーに出資をするほか、IT・デジタル・物流の3分野に今後3年で5000億円を投じる。

他方セブン&アイは、オムニセブンは続けるものの、1日2200万人が利用するリアル店舗を軸とした戦略へ転換する。「もうアマゾンと対抗しようとは考えていない」(別の関係者)。ただ、CRMに目新しさはない。ネット戦略でどこまで存在感を出せるか。