ソフトバンク・上林誠知【写真:荒川祐史】

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今季レギュラーつかんだ上林、オフに球団に伝えた要望とは

 2年ぶり8度目の日本一に輝いたソフトバンク。12球団で随一の選手層を誇るチームにあって、今季若くして外野手のレギュラーを掴み取ったのが上林誠知外野手、22歳であった。埼玉県出身で、高校は仙台育英へ。2013年のドラフト4位でソフトバンクに入団し、今季が4年目だった。

 オフからのトレーニングの成果もあって、春キャンプから驚愕の飛距離でアピールを繰り返し、開幕スタメンの座を勝ち取った。開幕直後から打ちまくり、瞬く間に右翼のポジションを手中に収めた。134試合に出場し、初の規定打席に到達。中盤以降の失速があって打率.260、13本塁打、51打点に終わったが、間違いなく日本一に貢献した1人である。

 12月1日に行われた契約更改交渉では、今季の推定年俸800万円から4倍超となる3500万円へと大幅アップを勝ち取った。今季の成績に納得していない上林自身はニコリとも笑わなかったものの、1年の働きを評価されての2700万円増だった。

 その契約更改交渉の席で、上林は球団にある要望を出した。それが、1軍に昇格した寮生の環境整備である。

最新鋭の設備が揃う筑後のファーム施設だが…

 ホークスの若手は福岡・筑後市にある「HAWKS ベースボールパーク筑後」内にある選手寮「若鷹寮」で暮らしている。室内練習場がすぐ横にあり、24時間いつでも練習可能。最新鋭の設備が揃うウエートルームも完備されている。好きなだけ練習に取り組める環境が整っており、文句のつけようがない。ただ1つ、この場所の難点があるとすれば、立地、だ。

 ヤフオクドームがある福岡市中心部から筑後のファーム施設までは車で約1時間。電車、新幹線を乗り継いでも同等の時間がかかる(さらに、通勤時間帯を除けば、最寄りの筑後船小屋駅に止まる新幹線は1時間に1本)。2016年3月に福岡市東区からファーム施設を移転してから、リハビリなどで筑後に通うことになった選手から移動時間に悩まされる声が上がった。

 連日、自家用車で通う選手の中には往復2時間を超える運転で、腰への負担を憂慮して、車を買い替えた選手までいた。昨オフの契約更改では、和田毅投手が連日筑後に通うスタッフの通勤費用の負担を球団に願い出たこともあった。

 上林をはじめとする1軍に同行していた寮生には、この立地が少なからず負担となっていた。入団4年目の上林は、今季も若鷹寮の寮生。シーズン途中までは、ホームでのナイトゲームの際はヤフオクドーム近隣のホテルに宿泊していたが、球団事情によってシーズン中盤以降、筑後の選手寮からの通いに切り替えられた。そのため一気に負担が増した。

1軍本拠地ヤフオクDから寮まで車でも電車でも1時間以上の“通勤苦”

 ヤフオクドームでの試合後、車を持った選手が1軍にいれば同乗させてもらって、寮まで片道1時間ほど。車がなければ九州新幹線を使うことになるが、こちらも寮まで最低でも1時間前後、新幹線への乗り継ぎ時間が合わなければ、さらに時間はかかる。ナイトゲームが夜9時に終わったとしても、ケアなどをしていれば寮に着くのは午前0時近くになる。1試合を戦い抜いた後にこれは辛い。しかも、それが毎日のように続く。体を休める時間がどうしても減ってしまい、コンディションに悪影響を及ぼした可能性は否定できないだろう。

 序盤から中盤にかけて打率3割前後を打っていたものの、夏前から成績が急下降した。筑後からの通いとなった頃だ。もちろん、それだけが原因ではない。上林自身の不振があり、それを脱せなかったという部分もあるだろう。本人も「それを言い訳にはしたくはなかったので、結果を残したかったんですけど……。結果が出なかったので、そこは悔しかったです」と言う。でも「キツイですよ、あれはやっぱり。影響は絶対にあると思います」というのも本音だった。

 球団規則より高卒選手の入寮期間は5年となっているが、上林は1年前倒しが許されて今季で退寮し、オフになって1人暮らしをスタートさせた。上林本人にとっての問題ではなくなったが、これから出てくる後輩たちに同じ思いをしてほしくないという思いで「見直してほしいと言いました」。上林の一声が、見直しのキッカケとなるだろうか。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)