「親が亡くなる前」に行う節税対策の王道

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■「生前贈与」は年間110万円までが無税

もし自分の家で相続税がかかることが発覚しても、例えば一部のお金に関しては申告しないでおくなど、どこかに抜け道があるのではないだろうか。

新月税理士法人代表社員の佐野明彦氏は、「相続税をゼロにする裏技は、残念ながらありません。しかしながら、いまある制度を使ってかなりの節税をすることは可能です」ときっぱり。何人も相続税から逃れることはできないのである。

では、預貯金などまとまった金融資産のある場合は、どんな節税対策があるのだろう。

「王道は生前贈与です。暦年課税と相続時精算課税のどちらかの課税方法が選択できますが、お勧めは暦年課税です。年間110万円までが基礎控除となるので、それ以下なら税金がかからないうえ、贈与税の申告も必要ありません」と話すのは、佐野氏と同じく新月税理士法人代表社員の高馬裕子氏だ。

当初より計画された一括贈与とみなされなければ、これを利用すれば、10年間で最大1100万円を無税で子供や孫に贈与することができる計算となる。このほかにも「結婚・子育て資金」「住宅取得資金」「教育資金」といった、一定の条件下では非課税となる贈与制度があるので、当てはまるものがあったら積極的に活用したほうがよさそうだ。

■節税以外にもある意外なメリット

しかし、佐野氏、高馬氏が最も勧める方法は、生命保険をうまく使うことだという。

「生命保険は契約者と被保険者が同じで、保険金の受取人が異なると、保険金は相続税の対象となり、500万円×法定相続人の数まで非課税となります。親が限度額いっぱいの保険に加入し、受取人を妻や子供にしておけば、その分は税金を支払わずに相続することができるのです」(佐野氏)

つまり、法定相続人が妻と3人の子供なら一人あたり500万円、合計2000万円が非課税の対象となる。ただし、法定相続人以外の受取人には非課税枠は適用されない。また、非課税枠を超えた保険金は課税対象となるので注意が必要だ。

さらに、生命保険には節税以外にも意外なメリットがある。

「それは受取人を自由に指定できるという点です。自分の財産は最後まで面倒を見てくれた末の娘にできるだけ譲りたいと思えば、彼女を受取人にして生命保険に入っておくと、死亡時には彼女に保険金が下ります。しかも、死亡保険金は受取人固有の財産であって相続財産ではないので、他の相続人に分ける必要はないのはもちろん、末娘は保険金以外の法定相続分を求めることもできるのです」(佐野氏)

配偶者、親、兄弟姉妹だけでなく、近い親族も状況によって受取人の対象になるので、この方法なら、長男の嫁にお金を残したいというときにも使えることもある。ただし、長男の嫁は法定相続人ではないため、前出の非課税枠は使えない。

■突然親が亡くなってしまったら悲惨

使い勝手がよく節税効果も大きい生命保険は、大いに活用すべきだといえるが、一方で、人の命がかかわってくるため、親から言い出すならともかく、子供からはなかなか口にしにくいところもある。実際、「お父さん、私を受取人にして生命保険に入っておいてくれない?」と頼まれたら、誰だってあまり気持ちよくはないはずだ。

「保険に限らずお金の話は、親子でもなかなかしにくいものです。だからといって何の準備もしないうちに、突然親が亡くなってしまったら悲惨です。親の口座からお金を引き出そうと通帳と印鑑を持って銀行や郵便局の窓口に出向いても、いまは本人でなければまず出してくれません。そうすると葬儀費用の支払いにも苦労することになります。そのような急場の出費をしのぐためにも、親の機嫌のいいときを見計らって、キャッシュカードの保管場所と暗証番号くらいは聞いておいたほうがいいでしょう」(高馬氏)

そうしてお金の話をしやすい空気になったら、さまざまな相続税対策の一つとして、保険について切り出してみてはいかがだろう。

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佐野明彦(さの・あきひこ)
新月税理士法人代表社員、新月有限責任監査法人理事長、税理士、公認会計士。佐野公認会計士事務所を経て、2011年新月税理士法人設立。著書に『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』。
 
高馬裕子(こうま・ひろこ)
新月税理士法人代表社員、税理士、ファイナンシャルプランナー。税理士事務所・公認会計士事務所勤務を経て、2005年高馬裕子税理士事務所設立。11年新月税理士法人設立。
 

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(フリーライター 山口 雅之)