デキる人の「聞く気」にさせる話し方10

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■話を“聞く気”にさせるには

人と会話をしたあとスッキリした気分になったり、相手との距離が縮まったように感じたりすることがある。相手の話が魅力的だったときや、逆に自分を理解してもらえたときなどは特にそうではないだろうか。そんな会話のあとは「気持ちが通じた」「話を聞いてもらえた」と感じられ、結果として仕事の成功につながっていることも多い。

ところが人は、人の話を案外と聞いていないのもまた事実。相手に伝えたと思っても実はほとんど通じていなかったり、言葉は通じても逆の解釈をされたりすると、つい「聞いていない」「理解してくれない」と相手を責めがちになる。でも考えてみれば、“相手を聞く気にさせていない”“相手を会話にのせていない”“わかりにくい流れだった”など、自分にも問題があるのかもしれない。

会話は相手とコミュニケーションを取るためのひとつの手段。相手に話を聞いてもらい通じあうためには、“聞き手の気持ちになって感情に訴ええること”と“話の筋がスッと通って論理的であること”が有効だ。

「話すことで得て、話すことで与え、聞くことで得て、聞くことで与えること」が必要だと産業心理学者ジェシー・ニーレンバーグ博士が語るように、会話の基本は“ギブ・アンド・テイク”だ。

たとえばビジネスなら、相手に情報を与え、聞いてもらったことで受け入れてもらった感覚を味わう。もしかしたら契約が成立するかもしれない期待すら抱ける。そのためには相手も聞いたことで情報を得られるなどメリットにつながるように、互いに気持ちよく話して、わかりやすく伝える……そんなところだ。

さて、ラジオ番組の司会者セレステ・ヘッドリー氏は、こうした優れた会話の要素について、「正直に、簡潔に、明確に話すこと、そして適切な量の話を聞くこと」だとしている。その具体的な方法とは、どんなものだろうか。

■魅力的な話は「ミニスカートのように短く」

ヘッドリー氏が提唱する、よりうまく会話するための10の方法をご紹介しよう。まずは“話す場面”の中から、何よりも大切だとしたのが「簡潔に」だった。

◇話すときのコツ

1.簡潔に

「良い会話はミニスカートのようなもの。興味を引けるくらいに短く、肝心なところをカバーできるだけ長くすること」。シンプルに話せば、要点が際立つ。伝えたいポイントをわざわざほかの話でボヤケさせることはない。たとえばエレベーターに乗り合わせた人に1分プレゼンをする「エレベーターピッチ」のように、要点を突くこと。ただし時間があるときに、まずは話に引き付ける、場を和ませるといった“引き”はまた別の話だ。

2.一方的に話さない

「一方的な話というのは退屈なもの」。相手が相槌を打ってくれても、本当に興味があるかどうかは目を見ればわかるだろう。ギブ・アンド・テイクの精神で、興味がなさそうならトピックスを変え、話を相手に振るなど対処をし、相手の脳を働かせることでまた聞いてもらえるようになる。

3.同じことを何度も言わない

「自分の主張を通すため、言葉を変えて何度も同じことを繰り返しては相手をうんざりさせてしまう」。ただし、相手に伝えたいことを最後にもう一度念を押す、具体的に行動を促す「ぜひ〜してください」は効果的だ。

4.細かいことは気にしない

「話の中で、どうでもいい年号や名前といった細かいことにこだわらない」。大切な数値でない限り、思い出すために会話の流れを止めるより、話を進めるほうが相手もあきない。つまり「なんて言ったかな〜」などと、話を止めないほうがいいわけだ

5.知らないことは「知らない」と言う

「特に自分の専門分野については、うっかりした話をしないように注意したい」。たとえば雑誌記事で記録されて多くの人に読まれると仮定したら、適当な話はできないだろう。特に公の場では、間違えや安っぽい話をしないように心がける。

そして自分が話したら、今度は聞く番だ。

■「必ず何かを持ち帰る」という心意気

「出会う人の誰もが、自分の知らない何かを知っている」「誰でも何かの専門家」とヘッドリー氏。必ず誰でも得意な分野や、その人ならではの面白い話があるものだ。話を聞くときのコツは「自分を脇におくこと」だと心得ておきたい。

ところが、人は1分間に500語程聴くことができるのに、話せるのは1分間に225語程度(※)。この余力を埋めるために、聞いているうちに話したくなってしまうとの説もある。せっかくの知識に学び情報を得るうちに、結果として会話は盛り上がり相手も気持ちよく話せることを心しておこう。

◇聞くためのコツ

1.耳を傾ける

「『口が開いている時は何も学ばない』とは釈迦の言葉」。話しているときには自分に主導権があり、自分の興味がない話を聴く必要がない上に、注目の的になれる。だが逆に、人の話を聞き続けるには努力とエネルギーが必要になる。それでも“人の話を聞くことは自分のためになる”と思えば、努力も惜しまずにいられるだろう。

2.“ながら”をしない

スマホをいじりながら、視線をどこかに向けながら……では、そこにいながらにして、心ここにあらず。その瞬間その場所にいて会話にきちんと参加して、話に耳を傾けること。さもなければ、その場を離れてしまったほうがいい。

3.自由回答の質問をする

「きれいだった?」と聞けば「きれいだった」と単純な答えが返ってきてしまう。具体的に「どんな風だった?」「どう思った?」聞くことで、人は一度立ち止まって考えて、自分の思考を整理する。たとえば昔習った5W1Hの質問など、相手がイエス・ノーやおうむ返しで返事ができない質問を投げかけると、その人らしい考えなどが聞きだせる。

4.話の流れにまかせる

話を聞いている最中に、どうしても聞きたくなった内容にむりやり話を移したり、思いついたことをいつ話そうかと考えがめぐったりして、話を聞くことがおろそかになることがある。話の流れの中で質問をして会話を成立させることで、話に集中できるようになるはずだ。

5.相手の体験を自分のものと同一視しない

体験は個人のもの。話を聞いて「私も同じ経験があって……」と自分の話にすりかえることなく、相手の話に耳を傾ける。同じような体験だといっても、それぞれの体験は異なるものだ。

「出かけて人と話し、耳を傾けること。何より大切なのは、“感心させられるのを期待すること”です」 とヘッドリー氏は話す。お互いの時間を生かして、互いに得るものがあるような会話を成立させるには、自分が聞く立場でありながら主導権を握る、そんなことがコツとなる。お互いの理解と心地よさの中でコミュニケーションは潤滑になるものだ。

※英語のワード数。日本語では、スピーチ原稿1分の目安が300文字程度とされる。

[脚注・参考資料]
Celeste Headlee,10 ways to have a better conversation, TED May 2015
ジェシー・S. ニーレンバーグ 著 小川敏子訳 『「話し方」の心理学―必ず相手を聞く気にさせるテクニック』2005 日経新聞社

(上野陽子=文)