鈴木 誠也選手(二松学舎大附−広島東洋カープ)「苦い3年夏の経験を乗り越えて、プロ5年目を迎える誠也へ」【後編】

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 今年1年で、一気にプロ野球ファンから認められる存在となった広島東洋カープの鈴木 誠也選手。その活躍の原点を知るべく、高校時代、鈴木選手を指導した市原勝人監督にお話しを伺いました。前編では、市原監督が鈴木選手に、在学中に常日頃から伝えてきたことをお届けしてきましたが、後編では鈴木選手の最後の夏を振り返り、その後、プロでの活躍について市原監督からメッセージをいただきました。

全力疾走を怠らない姿を見て、真の中心選手になったと実感

鈴木 誠也選手(2011年日米親善野球ロサンゼルス遠征 壮行試合より)

 市原 勝人監督はプロに行く選手には2パターンあると考えている。「最初から高い意識が備わっていて、後から実力を身に付けるタイプ。そして、才能は素晴らしいけど、取り組みや意識を改めていって、プロを狙うにふさわしい選手になるというパターンがありますが、誠也の場合は後者に入る選手ですね」

 市原監督の指導により、着々と力を付けていった鈴木。甲子園を狙うべく最後の夏に突入した。3年になり、鈴木の評価はぐんと高くなっていた。高校通算43本塁打、50メートル5秒8、投手としても最速148キロのストレートを投げ込む強肩があり、181センチ83キロと恵まれた体格。まさに大型野手に求められるスペックを全て満たしていた。

 実際に二松学舎大附の試合では、鈴木がマウンドに登った時、スピードガンを測ったり、ビデオを撮る人間は見られなかった。逆に打席に立った時、スカウトはビデオを撮り、ストップウォッチを手にした。NPBのスカウトたちは鈴木 誠也を「野手」として見ていたのだ。

 ある試合では、鈴木は一塁まで全力疾走をしたり、左翼線に転がった打球に対し、普通の打者なら一塁止まりの打球を、一気に二塁へ陥れた走塁も実践していた。市原監督は鈴木の姿を見て、「彼はエースであっても、将来は野手としてプロに行くことを考えて、全力疾走をしなさいとずっと伝えていました。投手は全力疾走をしないイメージがありますが、投手だからこそ全力疾走をやる意味があると思うんです。これはチームとしても、個人としてもメリットがある。もちろん怪我には気を付けなさいと言いますけど、ああいう姿を見て、真の中心選手になったのだなとしみじみ思いました」と成長した教え子をそう評価した市原監督。

 集大成として夏の甲子園出場を目指した鈴木だったが、準々決勝で、成立学園に敗れ、甲子園出場を果たすことなく鈴木の高校野球は終わった。市原監督はこの成立学園戦はとくに、鈴木にとって悔しい敗戦だったのではと振り返る。

「この試合、誠也にとって苦い記憶が残った試合だったと思います。先発した誠也がまず打たれて、その後に投げた1年生の大黒 一之(現・大正大)が粘り強く抑えて逆転した後に誠也が投げたんですけど、誠也が打たれてしまい逆転負けをしてしまったんです。自分が打たれて負けた試合なので、かなり苦い経験として残っていると思います。誠也は2年夏にはベスト4まで進出していて、最後の夏は2年夏のときよりも悪いベスト8。悔しさを感じたのと同時に、野球の厳しさを実感した試合だったと思います」

 悔しい敗戦で終わった鈴木だが、夏が終わった後、すぐにプロ入りへ向けて始動した。練習の内容は野手メニュー。今までやっていなかったショートの練習を繰り返していった。そして迎えたドラフト会議では、広島東洋カープから2位指名を受け、念願のプロ入りを叶えた。

現在の活躍は球団の方々の支えのおかげ

市原 勝人監督(二松学舎大附)

 鈴木は1年目から一軍出場。2年目のオフには侍ジャパンU-21代表にも選出。3年目の昨年は97試合に出場し、一軍定着。そして今年は大ブレイクと順調に一流選手の階段を上っている。鈴木の活躍に市原監督は、

「今の活躍は、球団やカープファンの方々に支えられてのことだと思います。やっぱりプロはみんな能力がある選手の中での競争ですから。本人にプロ野球選手としての自覚を持たせた球団に感謝です。活躍できるかできないかと言われると、僕は不安はありましたけど、活躍できると信じてプロに送り込んでいきましたから。彼を大成させたのは本当に球団の方々のおかげだと思います」

 と、カープ球団へ感謝の思いを語った。そして鈴木はプロ入り後、チームメイトから自分に対して絶対に妥協しない性格、練習姿勢を評価されている。そのことについて触れると、「それはプロに入って変わったと思いますよ。プロに入ってお金をもらって仕事するようになれば注目度も違います。厳しい目も当然ありますから、それに応えるために甘さもなくなります。結果を残さなければ辞める選手もいる中、現場の厳しさを知り、野球に取り組む姿勢を身に付けていったと思います。

 私たちもそういうことを想定して選手たちに話をするんですけれど、所詮、高校野球の指導者ができることは限られていますし、大したことはありません。やはりプロに入って感じて行動することが大事だと思いますよ」

 そして最後に来年5年目を迎える鈴木にメッセージをいただいた。「5年目になりますけれど、やはり謙虚な姿勢を持ち続けてほしいことですね。今年の活躍で、周囲の要求は高くなると思います。そういう要求に応えようと思って自分の姿勢は崩さないでほしいですね。

 誠也自身はそれを自覚していて、まずは『毎試合出られるようにしたい』という誠也が話していた言葉を聞いて安心しました。今年(2016年)は開幕から試合に出場したわけではないので、まずは来年の開幕戦に出て、1年中、試合に出られる選手でいられるかだと思います。だから来年はレギュラー実質1年目の年となりますので、すごく勝負の年だと思います。世間が期待する数字云々よりも、これからも首脳陣が使い続けたいと思わせる信頼を得てほしいですよね。そうなるには普段の練習姿勢から、あいつは絶対に外せないと思わせて、信頼を得てほしいと思います」

 このメッセージは鈴木 誠也のことを誰よりも理解していて、誰よりも想っているメッセージでもある。市原監督は自分が鈴木に指導してきたことは大したことはないという。しかし、市原監督の指導と想いが鈴木に届いたからこそ、プロ野球選手として活躍するための土台が築けたと、広島球団、カープファンは思っているはずだ。

(取材・構成=河嶋 宗一)

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