開幕まで1か月未満の7月13日に着任したラニエリ新監督は、すでに統率の取れていた堅守速攻のスタイルに巧みに微調整を施し、シンプルサッカーの構築に成功。「無冠の名将」の汚名返上を期す日が迫っている。 (C) Getty Images

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 プレミアリーグはいよいよ佳境に入り、目標達成に向かって各クラブの闘いは激しさを増している。その中にあって一際、注目されているのが、首位を快走するレスターだ。
 
 昨シーズンは熾烈な残留争いをなんとか抜け出し、ギリギリでプレミアに踏み止まるにすぎなかったレスター。彼らの年棒総額は5500万ポンド(約77億円)で、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナルなどの約2億ポンド(約340億円)とは雲泥の差である。にもかかわらずレスターは今、名立たるビッグクラブを差し置いて、優勝に最も近い位置につけているのだ。
 
 しかし、今シーズンの船出は決して順風満帆だったわけではない。プレシーズン中に残留の立役者であったエステバン・カンビアッソがオリンピアコスへ移籍し、さらには指揮官のナイジェル・ピアソンが実息の不祥事でフロントと衝突し、解任されてしまったのだ。
 
 7月13日にチームに招き入れられたのは、イタリア人監督のクラウディオ・ラニエリであった。
 
 ラニエリは経験豊富な知将で知られていたが、前職のギリシャ代表をわずか4か月(14年7月~14年11月)で解任されるなど、就任当初はクラブの決定にメディアやサポーターから懐疑的な声が上がっていた。しかし、そうした不安視する声をイタリア人指揮官は「私はピッチで結果を残すのみ」と一蹴した。
 
 実際、ラニエリはピアソン時代の堅守速攻を踏襲しながらも、よりスピードと規律をチームに植え付ける。これが功を奏し、開幕10試合で5勝4分け1敗と好スタートを切るのだ。
 
 この望外とも言えるスタートを牽引したのが、ジェイミー・ヴァーディーだった。4年前までイングランド5部リーグでプレーするなど、波乱万丈な人生を歩んできたストライカーは、持ち前の爆発的なスプリントを武器にゴールを量産する。
 
 その勢いは留まることはなく、13節のニューカッスル戦で2003年にルート・ファン・ニステルローイが達成した10試合連続ゴールに並ぶと、翌節のマンチェスター・U戦では11試合連続得点。前人未到のプレミアリーグ新記録を樹立したのだ。
 
 このエースの奮迅の活躍に加え、右サイドで違いを作り出したリャド・マハレズの躍動、夏に加入したニューカマー岡崎慎司の攻守における奔走で活性化したレスターは、一気に上昇気流に乗った。
 
 そして、予想外の躍進で上位戦線を踏み止まったレスターは16節からのチェルシー、エバートン、リバプール、マンチェスター・Cと強豪との対戦が続いた山場を2勝1分け1敗で乗り切り、前半戦を2位でフィニッシュしたのである。


※レスター戦はJ SPORTSで独占放送
 前半戦で驚くべき躍進を見せたレスターは、シーズン前に据えた目標の勝点40(※残留に必要な勝点と言われている)に2016年の初陣となった20節のボーンマス戦で到達。23節にストークを敗って首位に立って以降は、その座を一度も譲ることなく、ライバルとの差を着実に広げていった。
 
 徐々に優勝がちらつき始め、攻撃の柱であるヴァーディーとマハレズへのマークが厳しくなるなかで、後半戦の支えとなったのは鉄壁を誇った守備陣だ。
 
 アーセナルに2-5と大敗を喫した7節をキッカケに最終ラインを見直し、翌8節からダニー・シンプソン、ウェズ・モーガン、ロベルト・フート、クリスティアン・フクスを固定。これにより4バックは連係を深めることに成功したのだ。
 
 経験豊富なモーガンとフートがパワーを利してピンチの芽を摘めば、シンプソンとフクスは上下動を繰り返して相手のサイド攻撃を封じた。
 
 さらにダニー・ドリンクウォーターとエンゴロ・カンテのボランチコンビが危機察知能力を活かして、最終ラインを巧みにサポートしたことで、守備の安定感は日増しに高まっていった。
 
 また、この2ボランチはドリンクウォーターが正確なパスで速攻の起点となれば、カンテは縦の飛び出しでマークの厳しくなったヴァーディーの負担を軽減させるなど、攻撃においても欠かせない存在になっていく。
 
 こうして攻守が噛み合ったレスターは、29節のワトフォード戦から5試合連続のシャットアウト勝ちを収めるなど勝負強さをも際立ち、気づけば2位のトッテナムに最大で勝点10差をつけるなど、優勝カップに指をかけるところまで到達したのである。
 
 4月27日現在、トッテナムとの勝点差は7で、レスターは36節のマンチェスター・ユナイテッド戦に勝利すればプレミア制覇ということになる。クラブ創設132年目にしてトップリーグ初制覇が目前に迫っているレスター――。“奇跡”と呼ばれる快進撃は、イングランド・サッカー史上でも最大のサプライズと言っても過言ではないはずだ。
 
☆レスターのプレミアリーグ残り試合日程
36節 5月1日(日) マンチェスター・U(アウェー)
37節 5月7日(土) エバートン(ホーム)
38節 5月15日(日) チェルシー(アウェー)
※日程は変更になる可能性があります。
 


◇レスター 2015-16シーズン成績(35節終了現在)
プレミアリーグ成績:勝点76(22勝10分け6敗) 63得点・33失点
ホーム:勝点39/11勝6分け1敗 32得点・17失点
アウェー:勝点37/11勝4分け2敗 31得点・16失点
 
プレミアリーグ全試合レポートまとめ】
└【8月8日/1節 サンダーランド(○4-2/H)】
└【8月15日/2節 ウェストハム(○2-1/A)】
└【8月22日/3節 トッテナム(△1-1/H)】
└【8月29日/4節 ボーンマス(△1-1/A)】
└【9月14日/5節 アストン・ビラ(○3-2/H)】
└【9月19日/6節 ストーク(△2-2/A)】
└【9月26日/7節 アーセナル(●2-5/H)】
└【10月3日/8節 ノーリッジ(○2-1/A)】
└【10月17日/9節 サウサンプトン(△2-2/A)】
└【10月24日/10節 クリスタル・パレス(○1-0/H)】
└【11月1日/11節 WBA(○3-2/A)】
└【11月8日/12節 ワトフォード(○2-1/H)】
└【11月22日/13節 ニューカッスル(○3-0/A)】
└【11月29日/14節 マンチェスター・U(△1-1/H)】
└【12月6日/15節 スウォンジー(○3-0/A)】
└【12月6日/16節 チェルシー(○2-1/H)】
└【12月20日/17節 エバートン(○3-2/A)】
└【12月27日/18節 リバプール(●0-1/A)】
└【12月30日/19節 マンチェスター・C(△0-0/H)】
└【1月3日/20節 ボーンマス(△0-0/H)】
└【1月14日/21節 トッテナム(○1-0/A)】
└【1月17日/22節 アストン・ビラ(△1-1/A)】
└【1月24日/23節 ストーク(○3-0/H)】
└【2月3日/24節 リバプール(○2-0/H)】
└【2月6日/25節 マンチェスター・C(○3-1/A)】
└【2月14日/26節 アーセナル(●1-2/A)】
└【2月28日/27節 ノーリッジ(○1-0/H)】
└【3月2日/28節 WBA(△2-2/H)】
└【3月6日/29節 ワトフォード(○1-0/A)】
└【3月15日/30節 ニューカッスル(○1-0/H)】
└【3月20日/31節 クリスタル・パレス(○1-0/A)】
└【4月3日/32節 サウサンプトン(○1-0/H)】
└【4月10日/33節 サンダーランド(○2-0/A)】
└【4月17日/34節 ウェストハム(△2-2/H)】
└【4月24日/35節 スウォンジー(○4-0/H)】
 
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