ローストビーフは、どこか優しい。肉汁を湛えて柔らかなビロードのような薄切り肉には、がっしりとした塊肉のステーキや、スタミナ満点の焼肉にはない、包容力のようなものすら感じる。

ここではひととき、そんな魅力を紐解いてみよう。店の名物として人気が高い絶品ローストビーフをご紹介。



香ばしい匂いを漂わせる肉をテーブル脇でカットしてくれる伝統のローストビーフワゴンでのサービスは、『帝国ホテル』ならではの目にも楽しいもてなしだ。固形燃料+湯煎する方式で、温かい状態でサーヴされる工夫がなされている
素材選び、焼き方…etc.その味わいには理由がある『ラ ブラスリー/帝国ホテル』

日比谷


1890年(明治23年)開業。昨年125周年を迎えた日本を代表するグランドホテルといえば、『帝国ホテル』だ。その長い歴史を彩る“食”のトピックとしては、シャリアピンステーキや、ブフェスタイルのレストラン「バイキング」を生み出したことが有名だが、もうひとつ忘れてはならぬのが、ローストビーフ。

現在、館内の『ラ ブラスリー』と『インペリアルバイキング サール』で供されているこの料理もまた、帝国ホテルの伝統を彩ってきた。歴史を遡ると明治天皇の誕生日を祝った晩餐のメニューにも「ロース牛肉」という名でその存在が記録されているほどだ。



ローストビーフ 1枚カット 温野菜添え¥4,300。2枚カットなら¥7,500。焼いた後最低2時間休ませることで、肉汁を中に湛えたご覧の仕上がりに。脂以上に赤身の旨みがしっかりと感じられるのは、吟味したUSリブロースならでは。「エンドカット(端)」と指定する通人もいるとか

ホテル内のレストランに於いてメインディッシュを代表する料理、に位置づけられているだけに、素材選びから気が抜けない。ブッチャーシェフの村野哲司氏によると、「『ラ ブラスリー』のローストビーフには、USリブロースを使います。色が鮮やかで、持った時にハリのあるものを選び、一晩の水抜きと丁寧な掃除の後、厨房へ渡します」。

ブッチャーから届いた肉を仕上げるのは、シェフの八坂繁之氏。「塩をしっかりと打ちフライパンで焼き目をつけたら、しっとりとした食感を損なわぬように低温のオーブンで、肉にストレスをかけずに焼くのがポイントです」。そして、サーヴする際に約1cmの厚みにカットするのは、ソースがよく絡むようにという配慮から。長い歴史が紡いだ逸品には死角なし、である。




自家製和牛ローストビーフ〜特製グレイビーソース〜¥1,200。フライパンで焼き色をつけてから、炒めた香味野菜と共にホイルに包んでオーブンへ。完成後は冷蔵庫で寝かせ、供する際はソースを添えて冷菜として出される
肉自慢なバーガーショップの見逃せないサイドメニュー『ブラッカウズ』

恵比寿


黒毛和牛100%のパティでおなじみのハンバーガーショップ『BLACOWS』。が、ハンバーガー以外のサイドメニューが、意外と言っては失礼だが、かなりの充実度を見せているのをご存知だろうか。

和牛ミートソースのマカロニグラタン、和牛クリームコロッケなど、ずらり“肉祭り”状態。そしてその中に燦然と輝く“ローストビーフ”の文字を発見! かくしてご紹介するのがご覧のとおりの見事なローストビーフだ。

焼いてから休ませ、クレソンとともにコールドミートとして出されるのだが、味が落ち着いており、焼きたてにはない美味しさが感じられる。肉を食べたら野菜もね、という意味でぜひお供におすすめしたいのが、後ろにあるクレソンとパクチーのサラダ700円。

自家製のキノコオイルや、散らした松の実、カリカリに焼いたベーコンの風味が食欲をそそる。合間に葉野菜を食すれば、和牛の旨みがより深まるというものだ。




A4飛騨牛ローストビーフ。みずみずしく元気いっぱいな付け合わせの野菜は、徳島のベビーリーフや沖縄のクレソン。薬味は北海道産のエシャロット。いずれも、関根氏が産地を訪れ足で見つけた新鮮な素材だ
老舗ビストロに登場した意表をつく逸品とは『ビストロ・ド・ラ・シテ』

広尾


東京のレストラン史を語る上で欠かせない、東京で、いや、恐らく日本で一番長い歴史を持つビストロである。

が、最近じわじわと人気が高まりつつあるのが、このローストビーフ。オーナーの関根進氏が惚れ込んだA4ランクの飛騨牛を使ったひと品だ。「A5でもA3でもなく、A4が良かった。赤身の味わいと脂のバランスがちょうどいいんだね」

9代目のシェフである江畑雄一氏は、塩をした塊肉の表面をしっかり強火で焼いて焼き色をつけた後、高温のオーブンに短時間入れては7〜8分休ませる、という工程を繰り返す。回数はあくまで「肉の様子を見ながら」で、肉の弾力から内部の状態を察しつつ、見事なロゼ色に仕上げる。

まずは何もつけずに1切れ、で肉のポテンシャルを感じてほしい。思わずワインに手が伸びる。




ローストビーフの提供は25年ほど前から。当初はクリスマスメニューとして用意され、好評に続く好評でレギュラーメニューに昇格したのだとか。銀座ローストビーフ¥1,598、サッポロ黒ラベル〈樽生〉(中ジョッキ)¥864
昭和の銀座の活気を伝える老舗ビヤホールの名コンビ『ビヤホールライオン 銀座7丁目店』

銀座


創建は1934年。店内に一歩踏み入れば、当時の雰囲気を残す、重厚な石造りの内装に圧倒されるはず。国内に現存する最古のビヤホールとしても名高いこの店には、“ビール注ぎ名人”が注ぐ生ビールと名物のローストビーフという、鉄板の組み合わせを心待ちにする人が大勢いる。

ローストビーフの提供は、1日2回の焼き上がりに合わせて行われ、すぐに売り切れることも多いとか。肉には塩とこしょうを多めにすり込み、8時間ほど寝かせて馴染ませ、遠赤外線オーブンでじっくりと火を通す。すっと噛み切れる柔らかさだが、しっかりした塩気ゆえ、ビールとの相性はいわずもがな。

気になる焼き上がり時間は、月曜から土曜なら午後5時と7時半、日曜・祝日だと午後3時と5時。こんな最高のコンビを味わえるなら、スケジュール調整も苦にならない。


ローストビーフは丼でもサラダでもイケます!



味よし、盛りもよし!行列人気に納得の話題丼『Red Rock』

高田馬場


神戸で人気に火がつき、東京進出を果たしたのが昨年。以来3時間待ちの日もあるという、今東京でもっとも行列の長い店のひとつがここ。

ほとんどの人のお目当てが、見た目も大迫力の「ローストビーフ丼」(880円)だ。厳選した赤身肉を使った柔らかなローストビーフはさることながら、魅力は他にも。

まずごはんにピリ辛のしょうゆダレ、肉の上には玉ねぎなどを一緒に煮込んで甘みを加えたしょうゆダレをかけ、最後に卵の黄身と、さわやかな自家製ヨーグルトソースを乗せて完成。

味の変化も楽しく、意外やこの量でもあっさり食べられる。大盛りを完食する女性客が多いというのも納得の美味丼なのだ。




ランチタイムの人気者は夜でも支持率高し!『ワインショップ・エノテカ 銀座店 カフェ&バー エノテカ・ミレ』

銀座


豊富かつ上質な在庫を誇る『ワインショップ・エノテカ 銀座店』は、売り場にバースペースを併設。こちらのお昼の人気メニューが、ローストビーフサラダランチ1,080円だ。塩・こしょうでシンプルに味付けされたローストビーフは、スタッフ曰く「親しみやすい味わいにしてあります」。

野菜や添えられてくるトーストとはもちろん、ワインとの相性もすこぶるよく、11:00〜LO14:30のランチタイム外でも、サラダ単品でオーダーするゲストも多いとか。ちなみに、平日の昼は216円でスパークリングワインを付けられるが、夜にワインショップで選んだ1本と、もやはり魅力的だ。




ローストビーフは、コースの最後にワゴンサービスで切り分ける。肉汁そのものの旨みをシンプルに味わえるグレイビーソースのほか、にんにくが香るしょうゆベースの和風ソースも人気が高い。ランチコース¥6,500〜、ディナーコース¥11,000〜
真似できない専門店の味 滋味深き肉汁を堪能すべし『ローストビーフの店 鎌倉山本店』

西鎌倉


店名が示す通り、創業以来の44年間、ローストビーフ一徹の姿勢は揺るがない。こだわりの逸品を味わいに、全国各地から人が訪れる人気店だ。

こちらで使用するのは適度にサシの入った黒毛和牛。塊肉をオーブンで蒸し焼きにすることで、余分な脂を落としつつ、ジューシーでコクのある、専門店ならではの味を実現させている。桜色と表現しようか、はたまた桃色か…ひと目で他との違いが分かる、控えめで上品なピンクの色合いは、まさにローストビーフ日本代表といった趣。この状態に仕上げるのに、10年ほどの修業が必要だという。

歴史ある邸宅を改装した店は、自然豊かな鎌倉山の中腹。約1,000坪の敷地は緑にあふれ、鳥のさえずりに包まれる。特別なひとときが約束された、とっておきのアドレスとして覚えておきたい。