柏木が大きく脚光を浴びるようになったのはサンフレッチェ広島時代。現在、浦和で指揮を執るミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下でシャドーとしての素質を開花させた時だ。1トップの下でゴールに直結するプレーが求められる役割を与えられ、持ち前の高い創造力とスキルを生かして決定的な仕事のできる選手として頭角を現した。本人もゴールやアシストという華々しい成果を生み出しやすい役割を好み、自分の才覚を存分に発揮できる天職だと捉えていた。いずれはそのポジションで代表まで駆け上がっていく青写真も描いていた。

 しかし、その思いはなかなか成就しなかった。日本代表でトップ下に当たるそのポジションは、最も生存競争のレベルが高かったからだ。ザックジャパンでは本田が不動のレギュラーとして君臨していた。代表では左サイドが主戦場だった香川真司もドルトムントではトップ下で活躍し、“スキあらば”とその座を狙っていた。さらにはロンドン・オリンピック世代からフル代表に抜擢された清武も控えていた。

 その中で柏木にもトップ下でプレーするチャンスを何度か与えられた。だが、ザッケローニ監督を満足させるようなパフォーマンスを示すことはできず、次第に代表が遠い存在へとなっていった。

 そして、本人も現実を受け入れた。

「真司のように狭いエリアでボールを受けて高いアジリティで局面を打開するのは難しいし、ホンディー(本田)みたいにフィジカルの強さを生かしてタメを作ることもできない」

 柏木はトップ下のポジションではザックジャパンの二枚看板に太刀打ちできないことを認めた。だが、代表まで諦めたわけではなかった。

「ボランチはヤットさんくらいしか攻撃を作れる人はおらんし、そのポジションの層は薄い。代表で生き残るならボランチやと思っている」

 自身の武器と資質、代表チーム内の戦力分布を冷徹に見極めて出した答えだった。結果的にザックジャパンのメンバーとして返り咲くことはできなかったが、ハリルジャパンでその判断の正当性を証明する機会を得た。

 今のところ、指揮官は柏木に関して好印象を抱いている。シンガポール戦では「2、3回のシュートを放つチャンスを作り、効果的なビルドアップも見せてくれた。素晴らしい試合をしたし、私の判断は正しかった」と称賛すると、カンボジア戦でも「後ろからの組み立てで必ず必要な選手。チームにプラスをもたらしてくれた」と賛辞を送った。

 無論、評価に関しては冷静に見ていかなければならない部分はある。シンガポール戦にしても、カンボジア戦にしても、ほぼ攻撃面の能力しか問われないような状況であり、インテンシティの高い試合ではなかった。今後、強いプレッシャーを受けた時、より高いレベルの相手と対峙した時に、同じように高い存在感を発揮できるかどうかは、実際にやってみないと分からない。

 本人もカンボジア戦後に「引いてきた相手に対してできただけ。毎回言っているけど、この相手にできて当たり前だと思っているし、そこまでは実力がついてきているというのは自分の中であった」と至って冷静だ。

 ただ、レベル的には今回の2試合とたいして変わらないアジア2次予選初戦のシンガポール戦(同じ相手なので当然だが)にしても、その後のカンボジア戦やアフガニスタン戦にしても、柏木ほどの好パフォーマンスを見せたボランチがいただろうか。

 過大評価は禁物だが、かといって過小評価もすべきではない。少なくとも、柏木は引いて守りを固めるアジアの格下相手には有効な攻撃オプションになり得ることをこの2試合で示した。ブロックを敷いて待ち構える相手との戦いはこれからも続くはずだ。彼が今後も攻撃のカードとして機能し、やがては主軸の一人になっていくのか。それはハリルホジッチ監督がチーム強化を進めていく上でも、注目すべき大きなポイントになる。

文=神谷正明