チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦第2戦、レアル・マドリード対シャルケ戦。毎年、チャンピオンズリーグで活躍することをモチベーションに戦っている内田篤人はこの日、ベンチスタートだった。

 ドルトムントとのダービーマッチやCLでの強豪との試合は「無理すべきとき」と公言してきた。そういういくつかの試合を戦うために長いシーズンをこなしているのではないかと思えるほど、強い意欲を示していた。だからこそ、少々のことでは音を上げないはずの男が先発の11人に入っていないのは信じがたいことだった。

 3日前に行なわれたホッフェンハイム戦も、前半35分からの途中出場だった。そのホッフェンハイム戦翌日、つまりレアル戦の2日前、内田はスタメン組と共にクールダウンを行なった。前日の出場時間からすれば当然のことだ。練習後、ディマッティオ監督が内田に話しかけた。

「最近は以前のように走れていないけれど、状態はどうなのか?」

 痛いところを突かれた。ただ単に「どうなのか?」と聞かれたのではない。状態を見抜かれていたのだ。内田のトレーニングを見るフィジオセラピストからも「監督がお前の状態をよく聞いてくるけれど」と、伝えられてはいた。だが、指揮官からのダイレクトな問いかけに、思わず本音が出た。

「100%ではないけれど、シーズンは残り2ヵ月だからなんとかやるよ」

 内田は昨年2月に右ひざの腱を断裂して以降、常に「だましだましやるしかない」と言い続けてきた。とはいえ、自ら「試合に出るのは厳しい」であるとか「100%ではない」とはなかなか言えない性格でもある。ディマッティオは前監督から「あいつは痛がらない」と引き継ぎを受けていたほどだ。

 そのためディマッティオはこれまでも「お前は痛がらないそうだが、状態はどうだ?」と聞いてくることがあったが、いつも内田は「大丈夫」と答えてきた。だが無理を押してプレイしたレアル・マドリードとのホームでの第1戦の後、ブレーメン戦は自ら「できない」と言ってベンチから外れた。続く「バイエルン戦より燃える」というドルトムントとのダービーでは復帰したものの、ホッフェンハイム戦ではベンチスタート、という流れだった。

「なんとかやる」という内田の答えは、つまり「90分使ってくれ」という意味だった。だがディマッティオの決断は「シーズンの残り2ヵ月というのは長い。だから使う時間を短くする」。途中出場や交代、欠場も選択肢に入れる、ということだった。

「俺としては根性で乗り切ろうと思ったんだけど」と言う内田は、ポーカーフェイスに苦笑いを浮かべたというところか。淡々とした中に、何かを押し殺していることが見え隠れした。

 レアルとの決勝トーナメント1回戦第2戦、シャルケは4−3で勝利した。だが2戦合計は4−5。突破したのはレアルだった。結果だけを求めたレアルにとっては何の問題もない。シャルケの勝利は大きな意味を持つものではない。

 だが不調のレアルに対してシャルケはよく戦った。レアルを研究しつくし、リズムに乗らせず、自分たちは諦めずに攻め込んだ。サポーターの声援を受けて生き生きと戦う味方を、内田は80分過ぎまでベンチで見つめた。

「嘘でもできるって言っておけばよかったかな......」と、内田はささやかな後悔を口にした。

 レアルは先週末のリーグ戦でビルバオに敗れて首位陥落。シャルケに敗れたことでCLでの連勝は10で止まり、ホームでの連勝も12で止まった。だが、それでもあと1点を奪うのは至難の技だった。

「どうやったら勝てるのか。結局上にいったのはレアルだから。そういうチームってすごいよね......」

 点差以上の力の差に、言葉が出なかった。内田にとって今季のCLは終わった。負傷で全く出場できなかった昨シーズンよりはましかもしれないが、やはり不本意な終わり方だったはずだ。来季、納得のいく形でこの舞台に帰ってくるために、今、なにより必要なのは、自身の故障とあらためて向き合うことではないだろうか。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko