待望のトップ下で起用されたものの、インザーギが本田に指示したのは「ピルロ(右)のマンマーク」だった。 (C) Alberto LINGRIA

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 初めて自分本来のポジションでプレーした結果がこんなものになるとは、本人も想像していなかったろう。
 
 本領をもっとも発揮できるポジションはトップ下――。ミランに来てから約1年の間ずっと、本田圭佑は歴代の監督にそう主張しつづけてきた。マッシミリアーノ・アッレグリ(現ユベントス監督)に対しては、あるいはそれを言う時間もなかったかもしれないが、クラレンス・セードルフ、そしてフィリッポ・インザーギには分かってもらおうと、本田は頑張ってきた。残念ながら、これまでその努力が実ることはなかったが。
 
 ミランにとって本田は、つねに“右サイドで使える選手”だった。右サイドからその強力な左足を生かせるからこそ、そしてなにより、自らに課せられた義務をきちんと果たすことができるからこそ、ピッチに入ることができたのだ。
 
 攻撃だけでなく守備にも手を貸し、サイドを激しく上下しろと言われたら、本人の好むと好まざるとにかかわらず、本田は必ずそれをやり遂げる。そうしたこともあり、ミランに来てからトップ下でプレーした機会はほとんどなかった。
 
 しかし、ユベントスとのビッグマッチ(セリエA22節)で、本田にトップ下でプレーするチャンスが巡ってきた。
 
 試合前の予想布陣は、いつもの4-3-3だった。ジェレミー・メネーズがCFに入り、両ウイングがサイドを上下に大きく動くお馴染みのシステムだ。ところが、インザーギは予想外の手を打った。4-2-3-1(あるいは4-4-1-1)を用意し、トレクァルティスタ(トップ下)に本田を置いたのである。
 
 ついに本来のポジションでプレーできることになった本田。しかし、良いニュースはそこまでだった。結果は、散々だった(1-3)。インザーギが再び本田をトレクァルティスタで使うことはないだろう。
 
 インザーギが本田をトップ下に置いたのは、ある明確な意図があってのことだった。それは、本田をユーベの司令塔アンドレア・ピルロのマーカーとして、それも1対1のマンマーカーとして使うことだった。
 
 身も蓋もない言い方をすれば、つねにピルロのそばに張り付いて、このレジスタ(司令塔)を自由にさせないことが、インザーギが本田に与えた使命だった。ピルロの動きを抑え込むか、そこまではできなくても前線へのパスを限定する――それが狙いだった。
 だが、次の3つの理由で、インザーギの目論みは絵に描いた餅に終わってしまった。
 
 まず、ピルロがマンマークで抑えられる相手ではないということ。ユーベと対戦するチームの監督はほとんどの場合、ピルロを檻の中に閉じ込めようとマンマークを付ける。しかしピルロは、どうしたらその檻から抜け出せるか熟知しているのだ。
 
 次に、そもそも本田はマンマークに長けた選手ではない。監督の指示を忠実に守る本田には、多少の無理は聞かせられる。しかし、それにも限度というものがある。90分間敵を封じ込めるマンマークは、さすがに本田には荷が重かった。
 
 そして、本田を背後からフォローすべきサリー・ムンタリとマイケル・エッシェンが、その意図をまるで理解していなかった。MFの連係がなければ、本田の献身も水泡に帰すだけだ。
 
 いずれにしても、本田は全力を尽くした。本来のポジションでプレーするせっかくのチャンスを得たのだ。ピルロのマークに奔走しながら、自分を表現しようとした。ただ残念ながら、そのためにどっちつかずとなり、どちらも上手くいかなかったのである。
 
 同じような戦術の変更を、インザーギはクリスマス前のローマ戦(セリエA16節/0-0)でも施している。初めて4-3-2-1を使い、トップ下に並べた本田とジャコモ・ボナベントゥーラに相手の攻撃の起点を潰すように指示したのだ。
 
 その時は首尾よくいったが、ユーベはローマとはレベルが違った。いまのユーベは、どこにも弱点がないように作られたチームだ(少なくともイタリアでは。ヨーロッパにおいてはその限りではない)。彼らはたんまりとカネをかけ、きちんとしたプロジェクトに沿って強化を進めている。
 
 翻って、ミランのスカッドリストにはレンタルや“賞味期限切れ”の選手が並ぶ。もはやオーナーのシルビオ・ベルルスコーニには、チーム強化のためにカネに糸目をつけなかったかつての財力はないのである。
 
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト
協力・翻訳:利根川晶子
 
Marco PASOTTO/Gazzetta dello Sport
マルコ・パソット
1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。