舌で「音」が聴こえる!? 耳の代役に抜擢された驚きの機能

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人間の身体には、われわれが知らない驚くべき機能が備えられているようだ。ここで紹介するのは、聴覚を失ったひとが、耳に頼らずに、舌を使って音を“聴く”というデバイスの研究である。

このデバイスはイヤーピースとマウスピースをセットで使う。イヤーピースは音を感知してそれを電気信号に変換し、Bluetoothによってマウスピースに送信する。

マウスピースには電極が装備されていて、そこに舌を押し当てると電気信号が舌に伝わり、舌で音を識別することができるというのだ。

現在、聴覚障害があって補聴器の装用効果が不十分であるひとには、人工内耳(蝸牛インプラント)の埋め込みによる治療がポピュラーだが、人工内耳は外科手術を伴うため、それなりにリスクもあるし、コストもかかる。しかし、この“舌から聴く”デバイスはリスクも少なく、コストもそこまでかからないという。

舌は複雑な情報を取得できる

この研究チームのリーダーであるコロラド州立大のジョン・ウィリアムズ准教授は、もともとNASAのエンジニアだった。しかし、長年の宇宙開発のテストで騒音を聞き続け、聴覚に障害が出てきてしまったことで、人工内耳に興味を持ち、ついには舌で聴く研究を始めてしまったという。

舌は何千もの神経と、舌の感触から複雑な情報を読み取ることができる脳の領域を持っている。そこで、その機能に聴覚の代役ができないかと考えたのだ。

人工内耳においても、音を検知したプロセッサーがその情報を電気信号に変換し、聴神経に直接伝える。そうすると脳が学習し、その電気信号を意味のある聴覚情報だと認識するようになる。

今回コロラド州立大が開発しているシステムも、それに近い。違うところは、電気信号は聴神経に送られるのではなく、マウスピースを通じて舌に送られるというところだ。

ユーザーはヒリヒリした感覚や振動のような感覚を通じて、異なる電気信号を識別できるという。その信号を脳が学習すれば、まるで聴いているのと同じように、舌からの情報を認識できるようになるのではないかというのがこの研究のアイデアだ。

それほど荒唐無稽な話ではない。盲目のひとは点字で文章を読めるようになるし、音声学者は音の波形から言葉を読み取ることもできるようになるからだ。

低コストになる可能性

実現にはまだまだ課題が多い。たとえば現在は舌に当てるマウスピースのどこにどう電極を配置するかの研究が行われている。

そのために舌のどの位置で電気信号を効果的に感じとれるか、それは誰にでも共通なのか、それともひとによって異なるのかを知る必要がある。もし共通なら舌で聴くデバイスは安価に作れるが、ひとによって異なるならコストは上がってしまう。

実際のところ、これが本当に必要なソリューションなのか、そして十分な効果を発揮するのかなど疑問は多い。とはいえ、舌を使って(味以外の)複雑な情報を受け取るというアイデアや、聴神経ではない器官を使って音を聴く感覚を代用させるというアイデアは非常に興味深い。

今後、聴覚障害への対処法以外の面でも有益な研究になるのではないだろうか。

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【参照・画像】

※ Words in the mouth - Colorado State University 

※ 日本耳鼻咽喉科学会