【NPO広報事例】社会にとって本当に必要なことに関わりたい/小槻 博文
【NPO広報事例】
子どもたちは次代の社会を担う存在であるのは言うまでもないだろう。しかし生まれた環境や育った環境によって、子どもたちの将来が違ったものになってしまうのも現実だ。
そこで今回は教育格差を埋めようと取り組む特定非営利活動法人3keys(スリーキーズ)の活動について紹介する。

ビジネスありきではなく社会にとって本当に必要なことに関わりたい

代表理事の森山誉恵さんは大学時代にビジネスコンテストを主催するサークルに参加するとともに、自身もビジネスコンテストで優勝したことがある経歴の持ち主だ。しかし彼女曰く「優勝したプランはあくまで事業性ありきで考えたものであり、社会にとって必要だと思われること、つまり本当に自分がやりたいことは事業としては収益性が低く、あまり周囲からは評価されませんでした。」と当時を振り返る。

そのようななかで、ビジネスありきではなく本当に社会に必要なことに関わっていきたいと考えるようになり、児童養護施設のボランティアに参加することにしたのだが、そこで本当に社会にとって必要なことは日の目があたっていなかったり、優秀な人材が不足していたりすることを知るようになり、何とかしなくてはという想いから3keysを立ち上げるに至った。

現代は学校での学習だけでなく、学習塾や家庭教師なども利用しないと高校や大学に進学できない時代と言える。しかしそれでは学習塾や家庭教師などを利用できない環境にいる子どもたちは犠牲になってしまう。そこで3keysでは、すべての子どもたちが等しく学習できる環境を提供することを目的に、経済的理由や家庭環境などの事情により、公教育だけではドロップアウトしかねない子どもたちに対する学習支援を行っている。

具体的には、小学生のうちに基礎学力や学習習慣・意欲を身につけることを目的とした「教室型指導」、そして大学進学が当たり前の時代、環境に左右されずに学習が続けられるように高校生を対象にした「家庭教師型指導」を提供、それぞれ教材提供や講師スタッフの派遣などを進めている。



多くの大人たちが参画する社会に向けて

一方で学習したくても学習できないという問題は、決して子ども自身に非があるわけではなく、変えなければいけないのは社会の仕組みだったり周囲の環境だったりする。しかし現状この分野に関わっている人たちは限られており、大多数の大人たちは無関心なのが実情だ。そこでこの分野の情報を積極的に発信することで多くの人たちに関与を促し、そして社会そのものを変えていかなくてはという想いから「学習支援」と同様に力を入れているのが「啓発活動」だ。

さもするとこの手の問題は家庭や女性の問題と捉えられがちだが、もっと企業や地域をはじめ社会全体が関わるべきだし、女性だけでなく男性も積極的に関わらないといけないという考えのもと、2013年度から「Child Issue Seminar(チャイルドイシューセミナー)」というセミナーを設けて、家庭・学校・地域・企業・社会の5つのテーマから子どもの社会保障について考える場として開催している。

「従来は講演登壇やパブリシティを中心に行ってきましたが、これらは普段私たちがなかなかリーチ出来ない層に対してリーチが出来る貴重な機会ではある一方、どうしても“待ち”になってしまいます。そこでもっと主体的に発信できる機会をつくろうと考えて、2013年度から『Child Issue Seminar』を設けて、講演登壇・パブリシティ・セミナーを上手く使い分けながら情報発信するようにしています。」(森山誉恵さん)



一方で「児童支援」と言うと、さもすると途上国の問題と混同され、物資支援などを想起する人も多いそうだ。しかし今日本で起きている問題は、学習したくても出来なかったり、そもそも学習意欲が欠如していたりするなど、環境に起因していることがほとんどであり、物資を提供すれば済むといった単純な話ではないと言う。したがって他人事として“同情”を買うのではなく、自分たち大人が向き合っていかないといけない問題であるときちんと誤解無く伝えることを啓発活動において特に意識している。

“数の原理”ではなく“覚悟と継続”

「現代社会において取り残された課題というものは、一般的な営利分野のように数の原理で進めるものではなく、覚悟を持って地道に我慢強く続けていくことによって初めて成果が表れる」と森山さんは言う。したがって3keys自体を大きくして全国展開するのではなく、それぞれの地域にてその地域に根ざした形にて課題解決に取り組んでいく人たちを増やしていきたいとしている。

そのうえで「児童憲章」では最低限の保障が謳われているにも関わらず、最低保障にすら達していない子どもたちが存在する実態の中で、「まずは“学習保障”の分野にて最低限の教育環境を整備していくとともに、今後は“学習保障”以外の分野においても何が出来るのかを模索しながら、すべての子どもたちが最低限の保障を確実に享受できる社会にしていきたい」と最後に力強く語ってくれた。

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