銅賞に輝いたベルギーの作品「ゆがんだ車輪」

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昔から、本の香りと手触りが好きだった。学生時代、地元の本の街に馴染んだこともあり、今でも歴史ある古い本からモダンな最新本まで興味がある。そんな人にとって見過ごせない催しが、2014年3月2日まで開催中だ。それは、「世界のブックデザイン2012-13」展(場所:印刷博物館P&Pギャラリー、主催:凸版印刷・印刷博物館)で、2013年3月に開催された「世界で最も美しい本コンクール2013」の受賞作14点に、日本・ドイツ・オランダ・スイス・オーストリア・カナダ・中国・ベルギーの各コンクールの受賞作を加えた、およそ200点を展示する。そこで、早速その美しい本を見に行くことにした。

開催場所の印刷博物館P&Pギャラリーは、東京都文京区のトッパン小石川ビル内にある。当日小雨の中、筆者はJR飯田橋東口から徒歩で10分ほどで到着。トッパンビルは、通り沿いの特徴ある建物なのですぐに分かった。入り口には博物館のシンボルである球体のオブジェがあり、そこを通り過ぎると受付、そしてギャラリーへと進んでいった。イエローを基調にしたモダンで明るい感じの施設になっており、テーブルや棚に本がズラリと並んでいた。

200点もの本をすべて見物するのは正直大変だが、それぞれ個性的な美しい本ばかりなので飽きることはなかった。手前に受賞作14点が並ぶテーブルがあったのでまずそれらを見てみると、驚いたのは銅賞に輝いたベルギーの「ゆがんだ車輪」というタイトルの本(!?)。
「この紙束は本当に本なのか。しっかりとした折り目さえなく、平らな青いゴムバンドで固定されている。この陳腐さは、この「もの」を詳細に調べ、バラバラにする観察者を魅惑する」(審査員コメント)
評の通り、同作品は明らかに通常の本の体裁ではない。チープな感じのする紙に印刷された活字、写真が無造作に束ねられただけ。しかし、これが不思議な美しさ(粗野で野性的というべきか)を持っている。さすが、世界のクリエイターの感性は鋭い。

同テーブルにあったオランダの金賞作品「この山、それは私」も凄い。コントラストが異常に弱い山の写真が延々と続く写真集で、しかも袋とじ製本を生かして途切れがない。ほとんど山のディテールなど認識することが不可能な写真には奥へ奥へと引きこまれるような奇怪な雰囲気が漂う。写真が好きな筆者にとって、このような「ぼんやりとした美しさ」はとても勉強になった。
「イライラするようなコントラストは次第に、より深い意味を持つようになる。そして本は、従来の認識とは逆に、光を吸収する石炭の黒のように、光を吸収する写真ギャラリーとなる」(審査員コメント)

他方、ドイツ国内で開催された、若い造本作家のためのコンクールで奨励賞に入選した「着難い」もおもしろい。ドイツといえば印刷機の発祥の地であり、生真面目なイメージも手伝って、伝統にこだわった厳格な作品ばかりと思っていたが、若いクリエイターはそのような型を平気で破る。それがこのファッション冊子のような作品だ。中を見るとタイトル通り、日頃着るにはあまりに斬新、アート過ぎて不可能と思われる服を着こなすモデルたちの写真が並ぶ。「将来を指し示すコンセプトと将来の判型にインパクトを持つ本として評価」とコメントが付けられている。「将来の判型」――確かに本の形はもっともっと自由であっていいと思う。

形の自由さでいえば、日本の作品も負けてはいない。「のびのびずかん」という子供向けの新幹線車両を図解した絵本で、長細い箱から取り出すと、さらに新幹線のように長〜い本になる。もちろん折りたためるので、ポケットにも入れられるサイズだ。さらに、絵本「ほしのはなし」は中の折込ページを開いていくと、大きな星空を見上げる親子の情景が広がる。こうした単純だが、素朴でインパクトがある本も魅力的だ。大人向けのこのような絵本があってもいいだろう。

ヨーロッパ、日本、そして中国の作品も目を見張るものがある。製本に凝った作品が意外に多かったり、淡い色の中国美人画、写真そして縦書きの書の印刷もとても美しい。中国人と日本人の共通点である漢字と縦書きの文化を再認識するような作品「書と法」は圧巻だった。力強い筆文字が紙面に伸び伸びと踊っている。アルファベットにはない漢字の造形美が印象的である。和綴じに似た中国独自の製本も相まって、一冊書棚に置いておきたい逸品と思った。

ここでは紹介しきれない素晴らしい作品がまだたくさんあるので機会があれば足を運んでもらいたい。インターネット、電子書籍の時代の中で、歴史と新しさを兼ね備えた現代の本の圧倒的な存在感を味わう貴重なチャンスである。
(羽石竜示)