管理可能な支出を増大せよ!/野町 直弘
ある企業の調達購買部門のパフォーマンスを評価する上で何らかの指標を持って評価するとしたらどのような指標が上げられるでしょうか。
多くの企業では年度予算としてコスト削減の目標を持ちそれに対して達成したか
未達だったかということで評価をしているでしょうが、達成率や、ましてやコスト削減額や率を横並びにして他社比較することはできませんし、比較したところで意味がありません。

ある企業の調達購買部門のパフォーマンスを評価する上で何らかの指標を持って評価するとしたらどのような指標が上げられるでしょうか。
日本企業の場合は間違いなく「コスト削減」でしょう。しかし「コスト削減」も「額」 なのか「率」なのか、によっても異なりますし、コスト上昇抑制を評価するのか しないのかによっても評価は異なってきます。またそれが大きければ良いか、 というと今ままで調達業務が整備されていない企業が取組み始めた時と 既にもう何十年と調達業務に力を入れている企業では前者の方が当然ながら 大きい額や率が実績として出てくるものです。またあまりにも大きな額や率が出てくればそれこそ「今まで何やっていたんだ」となりかねません。

多くの企業では年度予算としてコスト削減の目標を持ちそれに対して達成したか
未達だったかということで評価をしているでしょうが、達成率や、ましてやコスト削減額や率を横並びにして他社比較することはできませんし、比較したところで意味がありません。

手元に米国のArdent Partnersというサプライマネジメントのコンサルティング、
調査会社が発行した”Keeping Score”というレポートがあります。
彼らはこのレポートの中で企業の調達購買部門のパフォーマンスを測る指標 として取り上げているのが「管理可能な支出」です。
これは英語では”Spend Under Management”というもので「企業の全外部 支出(直接材、間接材、サービス、設備投資含む)のうち調達・購買部門が契約に関わっている(あるいは影響を与えている)比率」と定義してます。
またArdent Partneesの調査によると調達・購買部門が新たに関わった支出に
関しては平均して6%〜12%のベネフィットが出る。と書かれています。
つまりこれだけ高いベネフィットを上げられるのだから、支出範囲を広げることが 望ましいということなのです。「管理可能な支出」の範囲を増大することは単に コスト削減だけでなく、購買統制面や業務効率面でもメリットにつながります。

2012年の約270の米国企業に対するアンケート結果「管理可能な支出」の企業平均は60.6%となっています。また2011年のコスト削減実績は平均で5.8%、2012年のコスト削減目標の平均は6.6%となっています。コスト削減実績や目標が数年前よりも低く設定されているのは、既に大きなコスト削減効果を得るための機会が実行されたためとレポートでは述べています。

つまり、日本でも同様ですが、例えば新たに間接材やサービス商材の集中購買を進めコスト削減の大きな効果を刈り取った後にはコスト削減額や率が低くなるのは止むを得ないということなのでしょう。

Ardent Parnersは「管理可能な支出」が増加するほど優秀な調達組織である、
と述べています。そういう点で「管理可能な支出」を最も主要な指標と捉えているのです。
彼らは調査対象企業の上位20%の企業を「ベストインクラス」企業と呼び、「管理可能な支出」比率は平均が60.6%に対して85%以上の企業を「ベストインクラス」企業と呼んでいます。
また「管理可能な支出」比率が高い企業ほど高いコスト削減率をあげていると述べています。(平均5.8%に対し「ベストインクラス」企業は6.3%)
一方で今後の方向性としては過去3年間の高いコスト削減率や額に対して目標も実績も低くなる方向であるとしています。これは市場価格が底入れしていることや、短期的で大きなコスト削減機会が既に刈り取られていることをその理由として上げています。
こういう状況下においてCPO(調達担当役員)が重視すべきなのは「管理可能な支出」を増大させることや、サプライヤとの関係性強化といった方向に向かうべきである、ということをこのレポートでは強調しています。

翻って日本企業においてはどうでしょうか?まずはこの「管理可能な支出」の比率を指標として管理している企業自体少数でしょう。やはりコスト削減額や率、
取引サプライヤの数を戦略的な指標としている企業が殆どでしょう。
また何もかも調達・購買部門が関与すべきなのか、という各論もでてくるでしょう。
2000年代中ごろからの間接材・サービス材などの集中購買化、調達部門による関与は日本企業でも当たり前のように進められました。しかし一方でコスト削減活動の「遣り尽した感」は否めなせん。この先何を目標として成熟した調達・購買部門を作っていくのか、という指針を考える上で参考になる一つの考え方だと言えます。