サービスサイエンスで「お・も・て・な・し」を科学する!/三宅 信一郎
日本人の誰もが知っており、身についている「おもてなし」の心。
東京オリンピック誘致活動で、一躍有名になりました。
ただ、「おもてなし」とは一体何なのか? その定義は? 具体的に どうすれば効果的に発揮できるのか? という問に即答するには日本人でも難しいのではないでしょうか? 今回は、「おもてなし」をサービスサイエンスの視点で考えてみたいと思います。
「おもてなし」、つまり「持て成す」を辞書でしらべますと、
1.客を取り扱うこと。待遇。「手厚い持て成しを受ける」。
2.食事や茶菓のごちそう。饗応。「茶菓の持て成しを受ける」。
3.身に備わったものごし。身のこなし。とあります。
和英辞書では、「Hospitarity」と出ています。 意味は「Friendly and generous reception and entertainment of guests or strangers」です。
つまり、「客」を相手として、何らかのサービスやごちそうなどを提供することと言えます。 また、「持て成し」には、「ものごし」や「身のこなし」という意味もあるようですから、提供する側は、基本的には機械装置や構造物ではなくて、「人」となるかと思います。
と、考えますと、これは、サービスサイエンスで定義している「サービス」の定義とほぼ同じと考えられます。 サービスサイエンスにおけるサービスの定義は、「人や構造物が発揮する機能で、ユーザーの事前期待に適合するものをサービスという」です。
ただ、「おもてなし」と「サービス」の違いは、「サービス」は、提供する側が、必ずしも「人」でなくて、機械などの構造物、つまりロボットや自動機械などでもよいですが、「おもてなし」を提供する側は、あくまで「人間」だけと考えるとわかりやすいかもしれません。
従って、「おもてなし」には、人工的な構造物と違って、人間的な温かみ、心豊かな感情、相手を思いやる心、共感性など、人間的な魅力が備わって提供されないと、相手は、いい「もて成し」を受けたと感じることはなく、顧客満足度は低くなってしまうということになります。
ということで、「おもてなし」をサービスサイエンス的にここで定義してしまいましょう。
「おもてなし」:「人が発揮する機能で、ユーザーの事前期待に適合するものをおもてなしという」。
さて、こうなると、サービスサイエンスを学んだ方は、すぐ気づくと思いますが、「おもてなし」の効果を考えるときに、ユーザーの事前期待を考えないと始まらないと言えます。 「おもてなし」は、ユーザーの事前期待に応えるということに他なりません。
では、この東京オリンピックにおけるユーザーとは誰か? これは世界各国から来る外国人と定義できます。 単に外国人といっても、宗教、気候など地理的環境、国家体制、文化、生活習慣など様々に異なる国からいらっしゃる訳ですので、当然ユーザーの持つ事前期待は異なります。
つまり、多様な異なる事前期待に応じて顧客をセグメンテーションしない限り、どんな「おもてなし」をすればお客様は満足してくれるのか分かりません。 なぜなら、サービスサイエンスでは、サービスにおける顧客満足は、「事前期待」と「提供価値」との相対値で決まると考えるからです。
アフリカに行かれたこと、ありますか? 私は以前商社時代南アフリカに駐在しておりました。 経済都市であるヨハネスブルグは、まるで東京かニューヨークのように大都会でアフリカという印象はまるで無く、小生の事前期待を裏切ったのですが、四国と同じ大きさの野生保護区クルーガー国立公園に泊まり、像の群れの真っ黒いシルエットを背景に赤く燃える大きな夕陽を見たときに、涙がでそうになる程感動、感激し、これがアフリカだ!ということで南アフリカが一気に好きになってしまいました。この景色に出会う事が、小生がアフリカに対して持っていた「事前期待」だったのです。
一方、恐らく南ア周辺に存在する貧しい国から来た人が、南アに抱く事前期待は、自国にはないヨハネスブルグのような近代的で発展した大都会の雰囲気に浸ることかも知れません。
さて、外国人が日本に抱くであろう事前期待で、顧客をセグメンテーションしてみましょう。 今はグローバルな時代で、地域や国家間での違いはないと推測できますので、恐らく、東南アジアや北米、欧州など国や地域毎にセグメントするのではなくて、日本の文化への嗜好に応じてセグメントしてみてはどうでしょうか?
例えば、「日本のアニメが好きか嫌いか」「日本食が好きか嫌いか」という軸でセグメントしてみると、「日本のアニメが大好きで、日本食も好き」というセグメントには、どういったおもてなしが顧客満足を上げるのかを考えることになります。
これだけでは、具体的なおもてなしが決まらない場合は、例えばもうひとつの軸を加えて考えてみます。 3本目の軸は、例えば、「日本の都会が好きか嫌いか」という軸を入れることによって、日本のアニメと日本食が大好きで、都会好きというセグメントが出来ますが、このセグメントへのおもてなしは、例えば東京アキバでアニメと日本食同時開催イベントを打つという具体的なソリューションが見えてきます。
日本のアニメは好きだが、日本食は嫌いとなると、ベジタリアンの可能性もありますので、アニメを楽しめる場所では、ベジタリアン用の食事を準備しておくことは必須となると思います。
セグメンテーションのメッシュを細かくすればするほど、事前期待の数は増えて、より深く事前期待を理解することはできますが、それに適合するための提供価値、つまり「おもてなし」は大変なことになりますので、この粒度をどの程度でやめておくかということもポイントのひとつです。
また、もうひとつの視点として、サービスサイエンスでは、サービス品質を「正確性」「迅速性」「柔軟性」「共感性」「安心感」「好印象」6つの評価軸で管理します。
どんなサービスも正確でなければなりません。また、世の中のビジネススピードはどんどん速くなっており、それにつれて迅速なサービス提供が求められています。特に海外から見て日本は迅速で正確でシステマティックな国として共通の事前期待がありますので、ここは譲れません。
お客様をまた日本に来てみたいと思ってくれるリピーターにするためには、個別の事前期待にうまく答えて初めて可能となります。 それは、特に海外からの客の多様な好みや要求に答えるためには、柔軟性が求められます。 お客様が何を望んでいるかを把握するためには共感性も欠かせません。
「おもてなし」を適切に発揮するためには、正確性や迅速性よりも、何より人間が得意とする「柔軟性」や「共感性」を発揮することです。
個人だけでなく、日本という国全体からお客様に安心感を抱かせ、スタッフの醸し出す「好印象」も大切です。
さて、こう考えますと、漠然と捉えていた「おもてなし」が、何をやれば効果が出るのかが多少なりとも分かっていただけたかと思います。
正確性や迅速性は、ヒューマンエラーを排除するために、より機械や装置、仕組みに任せて、人間は「おもてなし」に影響を与える、柔軟性、共感性、安心感や好印象を高める事に最大限注力することです。
そのためには、例えば映像技術、ICカード、RFIDなどの個体認識技術とネットワーク技術を活用して、顧客の識別を自動的に行い、顧客の属性情報を把握し、その情報に基づいて、人間が適切なおもてなしを適切な場面で行うなど、色々ソリューションは出てきそうですね。
入国したお客様に、空港で事前期待情報を入れた全国共通ICカードを無料で渡し、交通インフラ、買い物などは全てそれでOKという迅速性、正確性をアピールし、そのICカード情報をあらゆるイベント会場で係員が顔認証やスキャナーなどで自動で読み取って、その事前期待に応じて、共感性などを発揮し、人的サービスを向上させ、安心感や好印象を高めて、もて成すことによって顧客満足を大きく向上させ、大の日本ファンになってもらい、帰国してからも、リピーターとして再来日してもらうというのが小生が思い描くラフな体験シナリオです。
2020年に東京での開催が決まった東京オリンピックで、日本人総出で、各々がサービスサイエンスの考えを活用し、事前期待を上回る「おもてなし」を行って、世界各国から来る方々に心から満足頂き、熱狂的なリピーターになって頂けたら、日本人としても嬉しいですし、日本という国にとっても、大変よい評判が世界中で立つことと思います。
東京オリンピック誘致活動で、一躍有名になりました。
ただ、「おもてなし」とは一体何なのか? その定義は? 具体的に どうすれば効果的に発揮できるのか? という問に即答するには日本人でも難しいのではないでしょうか? 今回は、「おもてなし」をサービスサイエンスの視点で考えてみたいと思います。
「おもてなし」、つまり「持て成す」を辞書でしらべますと、
2.食事や茶菓のごちそう。饗応。「茶菓の持て成しを受ける」。
3.身に備わったものごし。身のこなし。とあります。
和英辞書では、「Hospitarity」と出ています。 意味は「Friendly and generous reception and entertainment of guests or strangers」です。
つまり、「客」を相手として、何らかのサービスやごちそうなどを提供することと言えます。 また、「持て成し」には、「ものごし」や「身のこなし」という意味もあるようですから、提供する側は、基本的には機械装置や構造物ではなくて、「人」となるかと思います。
と、考えますと、これは、サービスサイエンスで定義している「サービス」の定義とほぼ同じと考えられます。 サービスサイエンスにおけるサービスの定義は、「人や構造物が発揮する機能で、ユーザーの事前期待に適合するものをサービスという」です。
ただ、「おもてなし」と「サービス」の違いは、「サービス」は、提供する側が、必ずしも「人」でなくて、機械などの構造物、つまりロボットや自動機械などでもよいですが、「おもてなし」を提供する側は、あくまで「人間」だけと考えるとわかりやすいかもしれません。
従って、「おもてなし」には、人工的な構造物と違って、人間的な温かみ、心豊かな感情、相手を思いやる心、共感性など、人間的な魅力が備わって提供されないと、相手は、いい「もて成し」を受けたと感じることはなく、顧客満足度は低くなってしまうということになります。
ということで、「おもてなし」をサービスサイエンス的にここで定義してしまいましょう。
「おもてなし」:「人が発揮する機能で、ユーザーの事前期待に適合するものをおもてなしという」。
さて、こうなると、サービスサイエンスを学んだ方は、すぐ気づくと思いますが、「おもてなし」の効果を考えるときに、ユーザーの事前期待を考えないと始まらないと言えます。 「おもてなし」は、ユーザーの事前期待に応えるということに他なりません。
では、この東京オリンピックにおけるユーザーとは誰か? これは世界各国から来る外国人と定義できます。 単に外国人といっても、宗教、気候など地理的環境、国家体制、文化、生活習慣など様々に異なる国からいらっしゃる訳ですので、当然ユーザーの持つ事前期待は異なります。
つまり、多様な異なる事前期待に応じて顧客をセグメンテーションしない限り、どんな「おもてなし」をすればお客様は満足してくれるのか分かりません。 なぜなら、サービスサイエンスでは、サービスにおける顧客満足は、「事前期待」と「提供価値」との相対値で決まると考えるからです。
アフリカに行かれたこと、ありますか? 私は以前商社時代南アフリカに駐在しておりました。 経済都市であるヨハネスブルグは、まるで東京かニューヨークのように大都会でアフリカという印象はまるで無く、小生の事前期待を裏切ったのですが、四国と同じ大きさの野生保護区クルーガー国立公園に泊まり、像の群れの真っ黒いシルエットを背景に赤く燃える大きな夕陽を見たときに、涙がでそうになる程感動、感激し、これがアフリカだ!ということで南アフリカが一気に好きになってしまいました。この景色に出会う事が、小生がアフリカに対して持っていた「事前期待」だったのです。
一方、恐らく南ア周辺に存在する貧しい国から来た人が、南アに抱く事前期待は、自国にはないヨハネスブルグのような近代的で発展した大都会の雰囲気に浸ることかも知れません。
さて、外国人が日本に抱くであろう事前期待で、顧客をセグメンテーションしてみましょう。 今はグローバルな時代で、地域や国家間での違いはないと推測できますので、恐らく、東南アジアや北米、欧州など国や地域毎にセグメントするのではなくて、日本の文化への嗜好に応じてセグメントしてみてはどうでしょうか?
例えば、「日本のアニメが好きか嫌いか」「日本食が好きか嫌いか」という軸でセグメントしてみると、「日本のアニメが大好きで、日本食も好き」というセグメントには、どういったおもてなしが顧客満足を上げるのかを考えることになります。
これだけでは、具体的なおもてなしが決まらない場合は、例えばもうひとつの軸を加えて考えてみます。 3本目の軸は、例えば、「日本の都会が好きか嫌いか」という軸を入れることによって、日本のアニメと日本食が大好きで、都会好きというセグメントが出来ますが、このセグメントへのおもてなしは、例えば東京アキバでアニメと日本食同時開催イベントを打つという具体的なソリューションが見えてきます。
日本のアニメは好きだが、日本食は嫌いとなると、ベジタリアンの可能性もありますので、アニメを楽しめる場所では、ベジタリアン用の食事を準備しておくことは必須となると思います。
セグメンテーションのメッシュを細かくすればするほど、事前期待の数は増えて、より深く事前期待を理解することはできますが、それに適合するための提供価値、つまり「おもてなし」は大変なことになりますので、この粒度をどの程度でやめておくかということもポイントのひとつです。
また、もうひとつの視点として、サービスサイエンスでは、サービス品質を「正確性」「迅速性」「柔軟性」「共感性」「安心感」「好印象」6つの評価軸で管理します。
どんなサービスも正確でなければなりません。また、世の中のビジネススピードはどんどん速くなっており、それにつれて迅速なサービス提供が求められています。特に海外から見て日本は迅速で正確でシステマティックな国として共通の事前期待がありますので、ここは譲れません。
お客様をまた日本に来てみたいと思ってくれるリピーターにするためには、個別の事前期待にうまく答えて初めて可能となります。 それは、特に海外からの客の多様な好みや要求に答えるためには、柔軟性が求められます。 お客様が何を望んでいるかを把握するためには共感性も欠かせません。
「おもてなし」を適切に発揮するためには、正確性や迅速性よりも、何より人間が得意とする「柔軟性」や「共感性」を発揮することです。
個人だけでなく、日本という国全体からお客様に安心感を抱かせ、スタッフの醸し出す「好印象」も大切です。
さて、こう考えますと、漠然と捉えていた「おもてなし」が、何をやれば効果が出るのかが多少なりとも分かっていただけたかと思います。
正確性や迅速性は、ヒューマンエラーを排除するために、より機械や装置、仕組みに任せて、人間は「おもてなし」に影響を与える、柔軟性、共感性、安心感や好印象を高める事に最大限注力することです。
そのためには、例えば映像技術、ICカード、RFIDなどの個体認識技術とネットワーク技術を活用して、顧客の識別を自動的に行い、顧客の属性情報を把握し、その情報に基づいて、人間が適切なおもてなしを適切な場面で行うなど、色々ソリューションは出てきそうですね。
入国したお客様に、空港で事前期待情報を入れた全国共通ICカードを無料で渡し、交通インフラ、買い物などは全てそれでOKという迅速性、正確性をアピールし、そのICカード情報をあらゆるイベント会場で係員が顔認証やスキャナーなどで自動で読み取って、その事前期待に応じて、共感性などを発揮し、人的サービスを向上させ、安心感や好印象を高めて、もて成すことによって顧客満足を大きく向上させ、大の日本ファンになってもらい、帰国してからも、リピーターとして再来日してもらうというのが小生が思い描くラフな体験シナリオです。
2020年に東京での開催が決まった東京オリンピックで、日本人総出で、各々がサービスサイエンスの考えを活用し、事前期待を上回る「おもてなし」を行って、世界各国から来る方々に心から満足頂き、熱狂的なリピーターになって頂けたら、日本人としても嬉しいですし、日本という国にとっても、大変よい評判が世界中で立つことと思います。