「ドコモのiPhoneが売れてない」記事の読み方/増沢 隆太
​サプライズ発売となったドコモのiPhone5S&Cでしたが、「たいして売れてない」「期待外れ(の売上)」という記事が目立ちます。コミュニケーションの講座で、いつも私が重視しているのは情報の発し方より「受け方」。ドコモ売れてない情報はどう理解すべきでしょうか。


大学院後期科目講義が始まりました。ありがたいことに初回から予想以上に学生が集まってくれました。そこで学生に次のような問いかけ、「ドコモのiPhone5Sが売れてないという記事を多く見かけるが、どう思う?」をしたところ、いろいろ意見が出てきました。


・ドコモのブランド力劣化
・MNPですら手続きめんどう
・ソフトバンクのCM等プロモーション・・・


さすがによく考えてますね。ネットで流れるiPhone関係の記事もだいたいこんな論旨が多いということは、学生諸君自身の判断かどうかは別にしても、ネット記事並の意見提示を出来ることに頼もしさを感じます。


しかしこんな意見も出てきました。
「売れてないといっても品不足で在庫がないのではないか」


ドコモのiPhoneの売れ行きを正確に表すデータを見たことがないので、売れてるのか売れてないのか判断することは出来ません。ネット記事のほとんどはマーケティング情報として流れている量販店売上やら、日本ではなく海外の売れ行きやら、そもそも9/20発売だっつーのに、売上集計期間が9月16日〜22日だったりとか、どうも本当に信じて良いの?というソースだったりします。


コミュニケーションは発するだけでなく、受け止めることと両輪で成り立ちます。何やらマーケティングデータのようなものがあると、いかにも説得力を持つプレゼンが出来るように見えるかもしれませんが、実はデータそのものの読み込みが出来なければ、どんな上手いプレゼンも価値がありません。


もちろん発売時に十分な在庫を確保できないということ自体がメーカーとしてのアップルの責任ではあるでしょう。しかし極秘に進めてきて、発表。それで一斉に入る注文にこたえられる在庫整備など現実には不可能です。


つまりは「ドコモiPhoneが売れてない」「売れてる」は今の時点ではわからない、というのが一番正確なのではないでしょうか。


私がヒラのマーケティング担当だったころ、扱っていたい製品に同梱したアンケートはがきで、「F2層(女性35〜49歳)の支持が強い」という結果が出ました。上司のマネージャーはただちにF2向け媒体プランを作るよう命じてきましたが、私の意見は違いました。


単に景品好きのオバチャンが多かっただけじゃないの?というものです。
つまり単価1000円未満の日用雑貨品を買って、アンケートに答えたら景品をあげますよということで集まったデータをそもそも信じて良いのかという疑問を持った訳です。


マーケティングがマーケティングたる存在意義は、単にデータを鵜呑みにすることではなく、またどれだけ精度を上げたところでリサーチで消費者の心をすべて読むことなど出来ないという、当たり前のことではないでしょうか。データを「読み込む」ことこそ、マーケティングマネジメントの存在意義だと考えます。


コミュニケーションにおいては、「上手くやろう」「上手に話そう」ということばかりに気を取られがちかと思います。しかしその前に、「しっかり聞く」「しっかり認識を持つ」という前提がないと、コミュニケーションは成り立たないのです。


マスコミへの信頼感が崩壊してそこそこ時間が経っています。自分の目で理解し、確かめ、それでも最後は自ら判断することは、欠かせません。


ぜひコミュニケーション能力向上を図りたいという皆さんは、今一度しっかりと判断を下すための情報そのものの精度についても、しっかりと確認し、情報をきちんと咀嚼することから始めて下さい。