組織の中における「共通言語の必要性」と共通言語を大切にしている2つの組織を紹介します。


【共通言語の必要性】

組織の中で、必要なノウハウや大切にすべき価値観などは、多くが「言葉」で伝わっていく。もちろん、言葉以外のものでも伝わっていく要素はある。

職人さんの技術のようなものが、親方の見よう見真似で「体」で伝わっていく場合もあるし、職場の雰囲気やしきたりのようなものは、上司や先輩のやっていることを自然に真似する「態度」で伝わっていくこともある。

しかし、組織が大きくなり、伝えたい人数が多くなると、「体」や「態度」で伝えることには限界が生じてきて、「言葉」の力を借りて伝えていく必要性が出て来る。

上司や先輩が実際に実例を示しながら、それに加えて印象に残る「言葉」も一緒に伝わっていくことで、伝えていきたい価値観はより強固なものとして伝わっていくことになる。

それは、会社が制定した企業理念や社是・社訓という公式な形を取る場合もあれば、非公式に社内に語り継がれる言葉が徐々に市民権を得て共有されていくという場合もある。

【リクルートの共通言語】

僕がビジネスマンとしての基礎を叩き込んでくれたリクルートという会社は「共通言語」の多い会社だった(今もきっとそうである)。

強烈なインパクトで社員に訴えかけ、語り継がれてきたのは、社訓として制定されていた「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」だろう。

リクルートの自律的な人と組織を作り上げ、OBOGにも影響を与え続ける「共通言語」の不朽の名作と言っていいと僕は思う。

その言葉と共に浸透していたのが「社員皆経営者主義」という言葉。

これは文字通り、社員一人ひとりが「経営者のつもりで」仕事に取り組む行動指針となっていたものである。

これをただの精神論にしないために、社員持ち株会で会社を共有し、給与の額以外の情報は社長から新入社員までほぼ同じ経営情報を共有し、賞与を業績連動にして利益を再配分し、課の単位でプロフィットセンター化(人件費まで含めた独立採算制)して、課長は正に社内経営者と言える存在であった。

この2つの共通言語によってリクルートが日本一自律的で経営者感覚のある社員の育つ会社となっていたと思うのである。

【JENの共通言語】

紛争や災害によって、苦しい生活を余儀なくされた人々の緊急支援活動を行うNGOのJEN(ジェン)の事務局長の木山啓子さんによると、JENが大切にしている共通言語のひとつに「一石四鳥」という言葉があるという。

一石二鳥ではなく、「一石四鳥」。

例をひとつ上げると、東日本大震災(石巻を拠点に)の緊急支援でJENが行っている活動に、“漁網支援”があった。

養殖が再開できるまで収入がほとんどない漁師さんを支援する。

JENはお金を直接渡すのではなく、あえて網を作る材料を提供し、できた網を買い取ったという。

すると「収入源」になるだけでなく、「技術の継承」「コミュニティ再生」「心のケア」など複数の効果があるというのだ。

木山啓子さんは、資金や時間が限られている中で、一石二鳥では足りない、“一石四鳥”以上の効果のある支援が必要だと言う。


JENはなぜ、現金や物を直接渡さないか?

背景には海外の支援現場で得た教訓があった。

2010年大地震に襲われた中南米のハイチ。

緊急支援に駆け付けた木山啓子さんは、この国の人があまりにも援助に慣れ過ぎていて“援助依存”になっていた、という。

「すべての支援は自立の道具です。私たちは『助ける』という言葉を使わないようにしています。彼らが立ち上がろうとするのを支えることを大切にしています」

「一石四鳥」「支援は自立の道具」「助けるのではなく支える」・・・。



JENは、共通言語の宝庫である。