住環境のオープン化を実現すべく/小槻 博文
■ベンチャー・中小企業やNPO団体などのコミュニケーション活動事例

今回は部屋のインテリアや家具、雑貨、レイアウトなどの画像を記録・共有できるソーシャルサービス「RoomClip(ルームクリップ)」を運営するTunnel株式会社の取り組みを紹介しよう。


【インタビュー企画・実施】 「広報スタートアップのススメ」編集部 (運営会社:合同会社VentunicatioN)


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記録することによって思い出を守り、共有によって新たな発見を

元々創業者の高重正彦氏はモバイルコンテンツ関連会社に勤務していたが、人生の達成感を味わえることを成し遂げたいという想いから2011年2月に退職。そして何をやろうかと考えていた矢先に東日本大震災が発生した。


高重氏は福島県いわき市の出身で、家族は無事だったそうだが、震災によって日常だと思っていたものがある日突然無くなってしまう恐怖を味わうことになった。そこで日常を記録して、次の世代に継承していくようなことをやりたいと考えるようになり、2011年8月に東京約50か所の風景を映像配信する「Tokyo Vista」というサービスを立ち上げた。


その一方でちょうど「Tokyo Vista」を立ち上げた頃に実家を引き払うことになったのだが、その時に何とも言えない失望感を覚えたそうだ。そしてその失望感は何なのかと突き詰めていくと、自身が今まで生きてきた人生の思い出が詰まった家が無くなってしまうことに対する寂しさだったという。


そこで街の風景も良いけれど、一人ひとりにとっての日常である「部屋」を記録することによって個人の思い出を守るとともに、他人の部屋を知ることによって新たな発見にもつながるのではないかと考えるようになり、開発したのが「ルームクリップ」だった。





インターネットやスマートフォンなどの台頭により、個人によるコンテンツ生成・発信、つまりCGMサービスが次々に出てきた。その一方で衣食住のうち、「衣」「食」については今までにもさまざまなサービスがあったが、「住」に関するCGMサービスは皆無に等しい状況だった。


そこで自分の部屋にこだわりを持つ人たちが、そのこだわりの空間やインテリアなどを記録し、そして公開するためのサービスとして開発したのが「ルームクリップ」だ。


「インテリアショップなどは、ショップ運営会社が良いと考える商品をセレクト・ディスプレイして提供しているわけですが、個人の部屋は趣味・趣向やライフスタイルに合わせて、一人ひとりがセレクトしてディスプレイします。したがって「ルームクリップ」では、ライフスタイルの発信を企業主体ではなくユーザー主体で実現するサービスだと言えるでしょう。そして世界中のさまざまな人の部屋を覗くことで、自分自身に合った住環境を発見することが出来るようになります。」(高重氏)

流入経路ごとにそれぞれ施策を実施




現在WEBとスマートフォンアプリで提供されており、アプリのダウンロードは約12万件(2013年8月取材当時)に上る。その内訳は女性が4分の3、年代別では20〜30代が約6割を占めており、また投稿する人は全体の約10%、投稿数は約10万件に上る。





そんななかでユーザー獲得に向けては流入経路を細かく分析して、それぞれに対して施策を進めているそうだ。具体的には大きく3つの流入経路があり、1つ目は画像投稿した際にSNSに投稿・拡散されるコンテンツから、2つ目はキュレーションサイトから、そして3つ目はアップルストアでの検索からで、それぞれ約3分の1の流入があるという。


一方でSNSでの拡散とキュレーションサイトについては、ユーザー数や投稿数がある程度無いと難しいと思われるが、初期のころはどのように取り組んでいたのだろうか。


「初期のころはアップルストア検索の対策をひたすら行っていました。当時いくつかテック系のメディアでも取り上げてもらいましたが、正直ユーザー獲得という点ではあまり効果はなかったですね。一方でユーザーによる個人ブログで紹介されると、流入増につながりました。したがってアップルストア検索や個人ブログでの紹介を通じて少しずつユーザーが増えていき、そしてユーザーが増えていくことでSNSでの拡散やキュレーションなどの施策へと発展させていったという流れになります。」(同氏)


確かに「ルームクリップ」のようなサービスは、いくらテック系やスタートアップ系の人たちにリーチしてもターゲット層とは異なるのであまり意味がないだろう。その点では実際に利用しているユーザーは、周りの人たちも似たような嗜好だったり属性だったりすることから、そういうユーザーの発信が有効と考えられる。


一方で、「ルームクリップ」の現在のユーザー層は“インテリア”に対する感度が高い人たちが中心だが、“インテリア”への興味・関心はかなり裾野が広いと思われる。


したがって同社では現在の施策でも感度が高いユーザーを中心に20〜30万人程度までは獲得できると想定しているが、その後さらにユーザーを増やしていくために、そして獲得スピードを速めていくためには、きちんと広報・PR活動に取り組むことも検討していきたいと考えているそうだ。

有史以来、初の試みに挑戦

「衣」「食」については個人のノウハウやセンスを人から人へ伝えるやり方が昔から色々とあったが、「住」環境は有史以来クローズドなものだったといえよう。しかし今はスマートフォンやSNSなどを活用することで、「住」についてもオープンにすることが出来るようになり、人から人へそのノウハウやセンスを伝えることが可能な時代になった。


したがって同社では「住」のノウハウやセンスをより多くの人たちが共有し合うべく、より広い層に利用してもらうために、さまざまなクラスターの人たちが参加しやすいサイト構成やコンテンツづくりを進めていきたいと考えている。


また現在は画像を投稿・閲覧するだけで、欲しいと思ってもどこで購入できるかなど、その後のアクションについては対応できていないが、今後はノウハウやセンスを共有するだけでなく、その後のアクションまでサポートできる仕組みづくりも進めていく予定だ。


「実際に住んでいる部屋をオープンにするという有史以来初の試みに取り組んでいるため、前例もなく開拓者ならではの苦しみもありますが、だからこそやりがいを感じて、「住」環境のオープン化を実現すべく今後も色々と仕掛けていきたいと思います。」(同氏)





果たして「住」のオープン化をどのように実現するのか、そして「住」のオープン化によってどのようなことが我々の生活に起きるのか、その動向に注目したい。