店舗での店員さんの接客、コンタクト・センターのオペレーターさんの対応など、生活者にとっては、企業との触れ合いの一コマひとコマで体験することが何らかの感情を呼び起こし、その会社に対する印象として固まっていくことになります。我々人間は社会的動物であり、知識や情報を仲間と共有することに楽しみを見出す生き物ですから、そうして抱いた印象を面と向かっての対話の中で、あるいはソーシャル・メディア上で家族や友人に伝え、ひとつの企業に対して、同じような印象をもつ人がマジョリティを占めたときに、それが「ブランド」として市場に根付くようになります。


店員さん、オペレーターさん・・・。顧客体験の作り手であるこれらの人たちが、ブランドの伝道師としてふさわしい行動や言動をするためには、その人たちが、ブランドの存在意義(社会にどんな価値を提供するブランドなのか)や、行動や言動の「ものさし」となる価値観(コア・バリュー)をよく理解し、それらに賛同して、我がものとして身につける必要があります。


企業としては、まず、「己を知る」活動が必要になるというわけです。「何を売るか(WHAT)」ではなく、「なぜ(WHY)会社が存在するのか(=コア・パーパス)」、「どんな価値観を基準にビジネスを営んでいきたいのか(=コア・バリュー)」を、リーダーの人がコミットし、中心となって、働く人を巻き込みつつ真剣に考え、定めていくべきでしょう。


例えばザッポスの場合は、「WOWのサービス」というコア・バリューを基準に、社員の全員が同僚に接し、顧客に接し、取引先に接します。これが社員の日常にあまりにも深く浸透しているため、仮に仕事の一場面でなくても、ザッポスの社員はザッポスのコア・バリューに則った行動をとり、それが生活者の心の中ではザッポスのブランドをますます強固なものとする結果となり、市場の絶大な支持へとつながっているわけです。


先ごろ、キッコーマン・フーズ社が主催した「日米食品流通シンポジウム」というイベントのもようが日経に掲載されていましたが、その中で、「今日、スーパーなどが他店との差別化を強化するためには、全従業員が自分の役割を踏まえて行動できる企業文化が必要不可欠である」ということが述べられていました。これも、「従業員ブランディング」に通じるところがあると思います。


個々の生活者が強大な影響力をもち、従業員と顧客との触れ合いが大きな意味をもつ時代にふさわしいブランディング活動をするためにも、「コア・バリュー」を中心として会社の中のあらゆる仕組みをつくっていく「コア・バリュー経営」が大いに活躍できることをあらためて実感したのでした。