東日本の食の復興と創造を促進すべく/小槻 博文
■ベンチャー・中小企業・NPOなどの広報・PR活動事例■

津波や原発事故により甚大な被害を被った東日本の農業・漁業・食品加工業などの食産業の復興を目指して、食関連の企業が連携して立ち上がった一般社団法人東の食の会。
今回は同団体の広報・PR活動について事務局代表の高橋大就氏に話を聴いた。



■東日本の食の復興と創造を促進すべく


東日本大震災直後、状況確認のために現地に入ったカフェ・カンパニーの楠本代表(※)やオイシックスの高島代表(※)は、被災地の惨状を目の当たりにし、産業復興に向けた仕組みを作らなければならないと危機感を覚えた。そこで東京に戻り次第、その仕組みづくりに向けて構想策定や賛同企業集めを進めて設立されたのが「東の食の会」だ。※「東の食の会」代表理事


「東の食の会」では東北をはじめとする東日本の食材を、首都圏の飲食・小売業などにつなげて販路を構築するための活動を進めているが、同団体では短期的なチャリティやボランティアではなく、中長期的に被災した生産者が自立できることを目指しており、そのためには生産者にとっても販売者にとってもきちんと“ビジネス”として成立させることが重要だと考えている。


したがって単に生産者と販売者をマッチングするだけではなく、「いかに売れるものにしていくか」、つまり付加価値を創出するためのプロデュースや、マッチングやプロデュースを生産者自身が出来るようにするための人材育成に取り組んだり、また環境整備の側面から食の安全・安心の訴求や政策提言などにも取り組んだりしている。





具体的にはプロデュースを例に挙げると、地域の食材をトップシェフがプロデュースし、首都圏で流通させることで東北の経済効果を最大化させようと取り組む「東北6県ROLL」プロジェクトや、陸前高田市で“ひとめぼれ”と“いわた3号”という品種を掛け合わせてつくられた新品種「たかたのゆめ」のブランディング・販路開拓などを手掛けている。


また農業の世界では「顔の見える農作物」ということが一般的になってきているが、水産業ではまだ「XXさんが獲った魚」というようなことがほとんど行われていない。そこで「顔の見える水産業」を実現すべく三陸の水産業のブランディングに取り組む「三陸フィッシャーマンズ・プロジェクト」というプロジェクトも展開している。








そしてこうした活動を通じて、同団体では2016年6月にはマッチング件数500件、流通総額200億円規模にすることを目標として掲げている。現在(2013年3月時点)までにマッチング件数は277件と順調に推移している一方で流通総額は9.8億円にとどまっているが、まだ立ち上がり期であることから少額案件や単発案件が多いため、今後これら案件を育てながら大口案件や継続案件にしていくことで目標達成を図る考えだ。





■同情ではなく純粋に良さを発信


そうしたなかで同団体では、目標達成に向けた広報・PR活動として、パブリシティとオンライン(サイト、Facebook)を中心に取り組むほか、リアルでのコミュニケーションチャネルとしてイベントや商談会などの開催も行っている。


なお高橋氏によると、1年目は関心喚起のためにイベントを積極的に開催し、さまざまなメディアで取り上げられたが、2年目は実務に注力すべくイベントは最低限にとどめ、その代わりマッチングの成果などを中心に発信したが、1年目と比較すると報道量は減少したそうだ。





そこで3年目の2013年は実務とコミュニケーション活動をバランスよく進めようと考えていて、その一環として新たに広報・PR担当者を置き、各社・各団体と連携しながらより影響のある情報発信の在り方を模索しようとしている。


また設立当初から力を入れているのが、生産者の発信だ。生産者の発信については「復興ヒーロー」として設立当初から積極的に進めてきたが、最近では「三陸フィッシャーマンズ・プロジェクト」もあり特に水産業の方々の発信に力を入れているという。


なお生産者を発信する際、どうしても震災や風評被害などによる苦労話に引きずられてしまいがちだが、「“同情”だけでは長続きさせることは出来ず、またマイナス面を打ち消そうとしても、それはマイナスをゼロに近づけるにしか過ぎない」と強調する。


「もちろん根底にはそのような要素はありますが、それを入り口にする必要はないと思っています。したがってあくまでマーケティング思考で“美味しい”“楽しい”“想い”といったポジティブな側面を訴求することでプラス面を増幅させていきたいと考えています。」


また販売者側のCSRの訴求につなげることで、販売者側にとって「取り扱う理由」を明確化することが出来るようになるとともに、一般消費者にとってもどこに行けばその食材を実際に手に入れたり味わったりすることが出来るのかが分かるようになることから、生産者に加えて、販売者側もきちんと発信していくことを意識している。


そしてこれらの活動を通じて、同団体として目指すのは「東日本の食材」に対する需要喚起だ。いくら一般消費者の需要が高まっても、その供給チャネルが限定的であれば意味がないため、一般消費者・販売者、両者に対して需要喚起を図っていくことが重要だと考えている。





■食を通じて東北、東日本、そして日本を元気に!


最後に今後の抱負を聞いた。


「私たち一団体ですべてを完結しているわけではなく、色々な企業や団体などが強みを持ち寄り、そして組み合わせながらプロジェクトを推進しています。したがって皆で連携しながら、東北自体をワクワク感や楽しさにあふれる場所にしていくとともに、きちんと具体的な経済効果をもたらせるように引き続き取り組んでいきたいと思います。」


「東の食の会」の「東」には、東日本に加えてFar East、つまり日本という意味も含まれており、したがって食を通じて東日本を元気にすることで日本全体を元気にし、そしてさらには日本の食を世界へ発信していきたいというのが同団体の想いだ。


人口流出や産業衰退、高齢化・過疎化など地方の問題が叫ばれて久しいが、東北地方は東日本大震災によって“待ったなし”の状態になってしまった。しかしこうした課題先進地域に日本全国から英知を結集して課題解決を図ることにより、日本全体の再生につながるのではないだろうか。そんな期待を込めながら、今後も同団体の活動に注目していきたい。