組織を停滞させる完璧主義者、組織を生き返らせる完璧主義者

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職場でよく見かける完璧主義者には2種類ある。「生真面目型」と「自己愛型」だ。どちらも仕事に対して高い理想を持ち、自分が目指す100点の状態以外はすべて失敗と受け止めてしまう特徴がある。しかも自分のやり方がベストだと固く信じ、他人にも押し付けるため周囲への影響は大きい。

生真面目型のなかには、精神医学で執着気質、あるいは強迫性パーソナリティと呼ばれる人もいる。彼らはうつになりやすい典型的なタイプとされる。あらゆることを自分でコントロールしようとするため、思い通りにならなかったときに大きなストレスを感じるのだ。親や教師の言いつけに忠実な優等生だった人に多く、完璧であろうとする努力が報われる経験を重ねてきたことで、そのスタイルが強化されたといえる。

手抜きや妥協ができず、融通がきかないのだが、平社員のうちは害はない。むしろ仕事熱心で評価は高いほうだ。とくに、言われたことをきちんとこなすことが求められる日本的な企業風土では、出世しやすい傾向にある。

ところが、このタイプが管理職になると部下が窮屈な思いをすることになる。よい部分よりもできていない部分に目がいく減点主義なので、部下に任せた仕事でも細かく口出ししてしまうのだ。そんな上司がいる職場では部下は育ちにくく、やる気のある優秀な人ほど離れていってしまう。自分の仕事の粗探しばかりされて、うつになる部下も多い。

また前例主義の考え方が強く、変化に対応することが苦手だ。今のような変化の激しい時代に重要なポジションに立つと、組織を停滞させてしまいかねない。

ただ、このタイプは悪い点を指摘されたら、それも真面目に反省する。部下にうつや離職者が出た際に、さらに上の立場にある人間がそのことを諭し、管理職としての成長を促すことが必要だ。

■はじき出される完璧主義者たち

一方の自己愛型は万能感が強く、より完璧で大きい目標を目指して励んでいくタイプだ。幼少期に過保護と愛情不足のアンバランスな環境で育った人に多く、幼い誇大自己が温存され、何か偉大なことを成し遂げることで自分の価値を示し、認めてもらおうとするのである。新しいことへのチャレンジ精神も豊富なので、リスクは大きいが大成功する要素を持っている。

こうしたタイプは日本の企業文化にはなじまず、組織からはじき出されることが多かった。そのため起業して活躍する人も多い。ユニクロの柳井正社長やジョブズなどはこのタイプといえるだろう。

しかし、このタイプのリーダーについていく側はやはり大変だ。生真面目型の管理職は、仕事がきっちりできているかどうかだけを見るので部下はまだわかりやすいのだが、自己愛型の場合は、こちらが想像の及ばないような水準で物事を考えている。そして自分が世界の基準だと思っているところもあるため、それに沿わないことがあると激しく怒り出す。部下は何が気に入らないのかさえわからず、困惑することもしばしばだ。

このタイプは、生真面目型とは違い、指摘しても反省を期待することはできない。部下としては、どんなに理不尽なお叱りを受けたとしても「さすが、素晴らしいご指摘で」と賞賛する側に回ることが一番安全だ。このタイプは自分を賞賛してくれる人を認めるため、そこからよい信頼関係ができていくことも多い。関係づくりができれば、ある程度の裁量も認めてくれるようになるので、後々働きやすくなるだろう。

今、日本の大企業が閉塞しているのは、生真面目型の完璧主義者がエラくなって、自己愛型の完璧主義者の能力を活かせていないからだ。停滞する組織を活性化しようと思えば、イチかバチかのリスクを取って自己愛型完璧主義者を育てていく懐の深さが必要となる。ただし、前述のように彼らのもとでは多くの社員が犠牲となる。会社の成功と社員の幸福は比例しないのだ。今後はその両立が、企業の課題となるだろう。

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精神科医 岡田尊司
1960年、香川県生まれ。京都大学医学部卒。精神科医、作家。山形大学客員教授。『あなたの中の異常心理』(幻冬舎新書)など著書多数。新著に、『母という病』(ポプラ社)。

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(精神科医 岡田尊司 構成=プレジデント編集部 撮影=浮田輝雄)