営業改革を考える (5) ベストプラクティスは往々にして社内にあり/日沖 博道
〜営業改革を考える (4) 営業改革の前提は狙いの共有化〜 の続き
営業改革の要素のうち営業プロセスの改革については、目的別に典型パターンが幾つかある。
最も定番で実現性が高いのは、若手の底上げを目的に、社内のベストプラクティスを探し出し、若手が参考にできるように噛み砕いて標準化することである。
これは初めて企業経営に携わった時に自らの組織に実践適用したこともあり、小生としての「業務改革の原点」的なアプローチでもある。
客観的には営業プロセス改革が不可欠と考えられる状況であっても、なかなか踏ん切りがつかない(必要性の認識が揃うのに時間がかかる、ベテランの協力が得られるかが心配、等々)というのはよくあるケースである。いわば大抵の会社が突破しなければならない「壁」であって、それを乗り越えるための手法も幾つかある。
しかし、そうしたハードルを超えていざ営業プロセスの改革に踏み込もうとしたところで、「青い鳥がどこかにいるんじゃないか」という少々安易な心理が台頭することが、ままある。
例えば「どうせならライバル企業のやり方を研究してみては」という、(往々にして営業とは無関係の役員からの)思いつき的な要請である。しかしそれに経営トップまでが賛成すると、やらざるを得ない。実際、競合の本拠地市場に進出するという特殊な状況だったゆえに小生からこのアプローチを提案したこともある。
確かに競合の営業手法の調査は面倒くさいが、やってやれないことはない。ただし苦労して調べた結果、「ウチと同じようなことをしている」と判明するだけかも知れないので、やみくもにお薦めはしない。
もっと癖球なのは、「SFAシステムを導入すればベストプラクティスも一緒に導入できる」というITベンダーの受け売りである。これは前々回に解説したように、失敗しやすいパターンゆえ用心すべきだ。
SFAツールには様々な便利機能があるが、貴方の会社にとってのベストプラクティスがパッケージされていることは滅多にない。どういうプロセスにすべきか自ら考えてツールに組み込み、ステップごとに要請される「すべき事」に対応してツールを使いこなすのが、SFAツールとの正しい向き合い方である。
小生は「他の会社が工夫している事例なんか知らなくてよい」と言っているわけではない。むしろ類似業界での事例などを参考にすることは大いにお薦めしたい。
警告したいのは、「よそのやり方をコピーすればいいじゃないか」という安易な発想は、徒労や迷走に終わりやすいということである。
改めて申し上げるが、多くの会社にとってのベストプラクティスは往々にして社内に存在する。賢い営業マンがどんな行動をとって高打率を上げているか、きちんとヒアリングと行動観察をすることで可視化できるのである。
(本稿は2013年3月のコラム記事に加筆修正したものです)