上から『気まぐれコンセプト』ホイチョイ・プロダクションズ/小学館、『ヤング→主任→係長→課長→部長→取締役→常務→専務→社長島耕作』弘兼憲史/講談社

島社長、若すぎます。「社長」の次が早くも気になるところですが、ただの「会長」はつまらないので、「経団連会長島耕作」あたりでどうでしょう。

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祝!『気まコン』30周年!
もう読みました!? 今日発売の「ビックコミックスピリッツ」。あの『気まぐれコンセプト』が30周年ということで、なんとまさかの長編ストーリー版なんです。あとで単行本で読もうにも『気まコン』の単行本刊行ペースは20年に一回! 時代の「今」を見つめ続けてきた作品だからこそリアルタイムでしっかり押さえておきたいところです。
以前レビューでも紹介された『サラリーマン漫画の戦後史』でも解説されていたように、時代を映す鏡でもある「サラリーマン漫画」。『気まコン』に限らずとも時代とともに歩み、時事ネタを盛り込みながらストーリーが展開していきます。そんな中、各雑誌を支えてきた20年以上続く長寿漫画たちが、今それぞれ節目を迎えているのです。今年の年末は“この1年”を振り返るだけじゃなく、この20年30年を<長寿サラリーマン漫画の「これまで」と「今」>を読むことで見直してみませんか?


■気まぐれコンセプト
ということで、『気まコン』です。
1981年に「ビックコミックスピリッツ」で連載スタート。広告業界を舞台に代理店、TV局、芸能界、クライアントとの引きこもごもを時に大げさに、時にどこよりもリアル(というか裏事情まで詳しく)紹介してくれるのが「ビックコミックスピリッツ」誌上最長の連載を誇る『気まぐれコンセプト』。

連載30年にもかかわらず『気まぐれコンセプト』が書籍として刊行されたのはこれまで2度。最初の作品が連載開始後3年目の1984年。それから23年後の2007年に『気まぐれコンセプト クロニクル』として広辞苑のようなぶ厚い単行本が出たときには映画「バブルへGO!!」の公開と相まって大きな話題を集めました。
この単行本、バブル前夜からはじまって、バブル絶頂→バブル崩壊→平成不況→IT景気&不況→小泉景気という激動の23年間が一冊に網羅してあって、まさに書籍のタイムマシン。景気に敏感である広告業界を舞台にしたこの作品は日本経済、そしてサラリーマン(広告マン?)の生態の歴史を学ぶ上でまさに必携(重いけど)の一冊となりました。これから就職活動で広告業界を受けようという方には、巻末の「広告業界専門用語辞典」も含めて業界研究の本として欠かせないでしょう。今どきこんな代理店のヤツいねーよ、とは思いつつも、私の周りの広告マンの多くがこの単行本を持っているのも事実。OB訪問でのトークにぜひ活用ください。(あーでも20代の広告マンは読んでないかも)

さて、2007年の単行本以降の「気まコン」、書籍で確認するにはあと20年待たないといけないかもしれないので、代表的な2つの事件で振り返りましょう。

2009年 「けいおん!」のパロディ漫画を掲載!
→「気まコン」が「けいおん!」に喧嘩を売った!とネット上でも話題になりましたが、逆に「けいおん!旋風」がここまで来たのか。と理解する事象となりました。

2011年 日経新聞に連載!
→日経新聞朝刊に<宣伝会議の広告>として15回連載。4コマ漫画がない日経新聞に遂に4コマが!と話題になりました。(こちらの宣伝会議社のWEBサイトで作品が読めます。)

今回掲載の特別長編ストーリーは『バブルへGo!!』よろしく連載開始年の1981年に主人公ヒライがタイムスリップするというお約束満載の展開。オチも「まさに今」という、時代を押さえるホイチョイならではのものになっていますので、ぜひ直接確かめてください。


■島耕作シリーズ
1983年に「週刊モーニング」で読切りとしてスタート。サラリーマン漫画の代名詞といえばご存知・島耕作シリーズ。『課長島耕作』で一時代を築き、その後“タイトルが昇進する漫画”というジャンルを開拓してまさに日本経済の歩みとともに年を重ねてきたTHEサラリーマン島耕作。2008年にはついに社長にまで登りつめ、実際に社長就任パーティが開かれたり、新聞の経済面でニュースになったりと話題になりました。一方で「モーニング」の兄弟誌「イブニング」では若かりし頃の島耕作をさかのぼって描くことで、遂にサラリーマン生活の全てが漫画化されるという大河ドラマ化も進行しています。では、そのサラリーマン人生を年表形式で振り返りましょう。

1970年 初芝電器産業株式会社入社(←『ヤング島耕作』として雑誌「イブニング」で連載)
1976年 本社営業本部 販売助成部制作課 主任(←『ヤング島耕作 主任編』)
1980年 本社営業本部 販売助成部制作課 係長(←『係長島耕作』※「イブニング」では今ココ)
1983年 本社営業本部 販売助成部宣伝課 課長(←『課長島耕作』はここから)
1985年 ハツシバアメリカ NY支社宣伝部
1990年 フィリピンハツシバ マーケティングアドバイザー
1992年 本社営業本部 総合宣伝部 部長(←ここから『部長島耕作』)
1999年 初芝電産貿易(株)に出向
1999年 サンライトレコード(株)に出向
2001年 福岡初芝販売センターに出向
2002年 本社取締役 九州および上海担当役員(←ここから『取締役島耕作』)
2005年 本社常務取締役 中国担当役員(←ここから『常務島耕作』)
2006年 本社専務取締役 中国・インド・アメリカ担当役員(←ここから『専務島耕作』)
2008年 初芝五洋ホールディングス株式会社代表取締役社長(←ここから『社長島耕作』)
2010年 社名をTECOTに変更
2011年 ブラジル編スタート(←「モーニング」誌上では今ココ)

島耕作を「展開がご都合主義」「簡単に出世しすぎ」と語るのは簡単。しかし実際には、丹念な取材と作者・弘兼憲史氏自身のサラリーマン経験を元にとてもリアルに描写されいるのも事実です。現実世界のニュースや事件とのリンクを図ることで成功して行くその姿は「日本経済のif」と見ることも出来るでしょう。
その真骨頂が初芝電産と五洋電機とのTOB(『専務島耕作5巻』)。漫画発表の数ヶ月後、それぞれのモデルである松下電器と三洋電機が実際にTOBするというまさかの現実世界による後追い。当時ニュースにもなりましたが、連載を通して見ていくとこのような予見・予言の類はごろごろ。例えば『部長島耕作』の第一話冒頭で「これから企業は環境視点をもたなければ」という社内演説をする島部長の姿が描かれるのですが、後にその発想の延長線上として新社名「TECOT」(TechnologyとEcologyの造語)が出てきたと考えると感慨深いものがあります。最近では「原発問題に電機メーカーとしてどういうスタンスを取るか」という日本の行く末を占う事象に直面し、原発事業からの撤退を発表して話題になりました。

そんな島社長のこれからの舞台はブラジル。今から全部見直すのは面倒!という方にも、ちょうどシリーズが始まったばかりなのでピッタリ。取締役就任以降、「これからはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)だ」と何度も語っていたのですが、その言葉通りこれまで中国とインドの担当役員を歴任し、ロシアにも社長就任後に視察に訪れていた島耕作。BRICsの中でまだ未踏の地だったブラジルに遂に降り立ちます。ブラジルW杯、リオデジャネイロ五輪を前に世界経済をリードするブラジルで島耕作がどんな冒険をするのか、そしてどんなサンバ美人と枕を交わすのか、多いに注目したいところです。

それにしても、これまでも部下、上司の愛人、自らがマネジメントする女性歌手etc、様々な女性とのベッドシーンが描かれてきた島耕作。でも一番は「時代と寝た男」という表現がしっくりきますね。


「長寿サラリーマン漫画・主人公は今」前編はここまで。後編ではドラマ化、映画化もされたあの人気作の今、をお伝えします。(オグマナオト)