『ダワの巡礼 ―ブータンのある野良犬の物語』クンサン・チョデン 著 平山修一/森本規子 監訳/段々社

写真拡大

いやー、もの凄い人気でしたね、ブータン国王夫妻! 先月結婚したばかりのお二人は15日に国賓として来日し、わずか6日間で宮中晩餐会に国会演説、被災地訪問、京都での交流行事に参加といった超多忙な“新婚旅行”を敢行。その様子はニュースやワイドショーで連日報じられ、
「国会演説にマジ感動!」
「王妃が可愛すぎる」
「猪木に似すぎ!!」
などなど、各方面を賑わせました。

日ごとに人気が高まるなか、ラーメン二郎・目黒店がメールマガジンで“国王夫妻がラーメン二郎を所望”というネタを配信し、大騒ぎになるという出来事も。「まさか」と思いつつも、「ない話じゃないかも」と信じさせてしまうのも、国王夫妻の気さくなお人柄があってこそ。民族衣装に加えて、和服やスーツ姿も披露する徹底したサービス精神には頭が下がる思いです。さすがはアジアで最も結婚したい男性”と言われていたという国王と、わずか7歳で国王に逆プロポーズしたというエピソードを持つ王妃様といったところでしょうか。

初々しくてキュートな国王夫妻のおかげで、ブータンに対する好感度は急上昇。今回の来日をきっかけに、ブータンのことをもっと知りたくなったという声をよく聞きます。そんな人におすすめなのが『ダワの巡礼−ブータンのある野良犬の物語』です。

物語の主人公は「ヒマラヤのシャングリラ(桃源郷)」と呼ばれるブータンに生まれた野良犬のダワ。幼くして“毒入り肉”で家族を失うという不幸に遭いつつも、家族を想う遠吠えで周囲を魅了し、リーダーの座に登りつめます。しかし、リーダーの地位につくことはダワにとって幸せなことではなく、むしろ苦悩が深まるばかり。ある出来事をきっかけに地位を捨て、旅に出るのですが、そこにはさらなる試練が待ち受けていて――。

監訳を担当した平山修一による「あとがき」には<日本人の視点から描いたブータンではなく、ブータン人が自身の目線で書いた作品を日本に紹介したいという思いから本書の邦訳出版を思い立ち(以下略)>とあります。また、この物語は<ブータンの置かれている実情を理解する上でも良い読み物>であり、<野良犬の目を通して、さまざまな人生の機微を描いている>ものでもあると、平山は言います。

あらすじだけを追いかけると、単なる野良犬の一生を描いた物語のように見えます。絵本ならともかく、文字だけで読むと少々物足りなく感じるかもしれません。でも、この本の面白さはディテールにあります。
例えば、
<通常生まれ変わりのサイクルでは犬は人間に最も近く、普通は犬の来世は人間になるというのはよく知られている>という一文。そこにはブータンの輪廻転生観が現れています。

また、「僧侶たちはかつて最上級のゾンカ語を話したものだが、今はもう違う。(中略)僧侶たちもテレビを見て相当に楽しんでいるからなあ」と嘆く犬のセリフには、ブータンの現状に対する著者の憂いが見え隠れします。

印象に残っているのは、ある犬が主人公を諭す場面です。「自分の周りのゆがんだ、狂った考え方や、そのための駆け引きにはうんざり」だと嘆く主人公は「無駄だ、無駄だよ」と一喝されます。
「どこに行っても駆け引きやゆがんだ価値観はなくなりはしない。それに、犬はどこにいても疥癬にかかる。だとしたら大騒ぎしてどうするのだ」

国政調査で国民の約97%が「幸せ」だと回答したというブータン。しかし、それは絵に描いたような幸福があるからではなく、ある種の諦観の境地のなせるわざなのかもしれません。そんな風に想像を巡らせながら、行きつ戻りつしながら読み進めてみると、また違ったブータンの姿が見えてきそうな一冊です。

ちなみに、「JICA地球ひろば」(東京・広尾)に併設されたカフェ・フロンティアでは週替わりランチとして<ブータン王国名誉総領事館お墨付きメニュー>が登場。これはぜひ食べてみなくちゃと、勢い込んで広尾にダッシュしたものの、まさかの売り切れ……。仕方なくスリランカのカレ―を堪能する日曜の午後でありました。

お店の人によると、ブータン料理は例えて言うなら「トウガラシをチーズフォンデュで煮込んだようなもの」で、かなり辛いけれど、「初心者の方でも食べやすいよう、もともとの辛さの1/5くらいにアレンジしてあります」とのこと。辛いものが得意なら、「ガテモタブン」(代々木上原)に行くと、オリジナルの辛さのものが食べられるそうです。

でも、「ガテモタブン」のサイトを見ると<日本の方用に辛さを調整しておりますので、激辛料理を望まれる方のご希望に合わない事もあります>と書いてあるんですよね。本場のブータン料理はどれだけ辛いのかー! カフェ・フロンティアでのブータン・ランチは12月4日(日)迄。お近くの方はぜひ! 私もリベンジします。
(島影真奈美)