『ドリフターズ』平野耕太/少年画報社

世界各国、歴史を問わずファンタジー世界に投げ込まれた戦いの達人達。破天荒極まりない国盗り合戦の開幕だ! 今話題の「ドリフターズ」を読んで、世界・歴史最強の戦人の姿を目に焼き付けろ!

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昔ぼく「キン肉マン」大好きだったんですよ。二世も好きですが、やはり初代。
何がいいって、想像できるのがいいんですよね。「ぼくの考えた超人」。
作ったでしょう?! しかも無駄にめっちゃ強そうなやつを。
この「ぼくの考えた○○」システムは、昨今歴史上の人物に被せられました。
有名なのは「真・三國無双」シリーズや「戦国バサラ」あたり。初めて見た時吹き出しちゃいましたよ。ビーム撃つ孔明とか、六刀流の伊達政宗とか、なにそれ。かっこいい。
今にいたっては女体化した三国志の「恋姫†無双」や、パチスロの女の子しかいない戦国時代「戦国乙女〜桃色パラドックス〜」など、破天荒極まりなし。なんでもありですよ。
そんなことでいいんでしょうか。いいんですパラレルワールドなんだからいいの!
 
そんな中、颯爽と駆け抜け話題をかっさらいまくっているのが平野耕太『ドリフターズ』です。先月二巻が発売されました。
言うまでもないと思いますが、大爆笑のほうではありません。直訳すると「漂流者たち」です。
先ほど上げた「戦国バサラ」なんかは同時代の人物たちを「ぼくの考えた最強の武将」にしちゃったわけですが、こちらはもっと破天荒。時代と地域を超えています。死んだ後に、謎のファンタジー世界にじゃんじゃか放り込まれるもんだから、歴史上の偉人……いや鬼人とでもいう人間が大集結です。

那須与一に源義経に織田信長、ハンニバルにジャンヌ・ダルクにアナスタシア。
近いところだと第二次世界大戦でゼロ戦紫電改を乗りこなしたデストロイヤー菅野直やミッドウェー海戦の山口多聞まで。ワールドワイドです。
放り込まれた世界自体は、エルフ族やホビット族が人間族に虐げられているという、ストレートなファンタジー世界です。「ロード・オブ・ザ・リング」の世界に実在の武者達が投げ込まれたと思えばいいです。
年代の違う彼らがそんな世界に投げ込まれて、普通に暮らすなんてあるわけないんですよ。だって、出てくる人物みんな、直接的か間接的かの違いこそあれ、人が殺しあう様子を見てきた人間達ですもの。
殺気に満ちた世界を見てきた人間なら……たとえば織田信長なら、人間族がエルフ族をいじめているのを見たらどうする? 助ける? 
いやいや、ここは国盗りでしょう。

主人公は島津豊久(30)、織田信長(50?)、那須与一(19?)の三人組。
島津豊久は、島津義弘と共に関ヶ原の戦いに出た人物。二の太刀いらず、全力で一撃に気合を込める島津流です。義久を逃がすために、敵陣に斬り込んでいき壮絶な最後を遂げます。これは本当の話。
ね、かっこいいでしょ?
この「かっこいい」をめちゃくちゃに増幅させているんです。もー豊久の正義漢っぷりといい、猪突猛進っぷりといい、わけのわからない強さといい、「ぼくの考えた最強の島津豊久」ですよ。ファンタジー世界でも首をじゃんじゃん跳ねます。刀一本で殺しまくります。前に突き進む様は、まさに矛。
一方織田信長は、……まあ説明するまでもない有名人です。またの名を「大うつけ」「第六天魔王」。彼自身攻撃的な性格の持ち主ですが、やはり信長の才能はその戦略。長篠の戦いで鉄砲隊を使った戦術は有名です。
矛になるのが豊久なら、信長は裏に回って戦略家としてファンタジー世界での国盗りを楽しみ始めます。いやあ、死体の山を腐らせて火薬を作る下りは何度見ても、正義の味方ではないけどかっこいいから困る。
そして那須与一。実際にいたかどうかすら不明の人物ですが、「扇の的」は有名。那須家の十一男です……えっ、そんなに兄さんいたの?
ほぼ伝説の人物状態で記録が少ないのを逆に利用して、ありえないほどの弓の達人として登場します。豊久が切り込み隊長なら、与一は遠距離支援担当。いやあ、見事な三人組。そして美形。必見です。

その他にも「漂流者(ドリフターズ)」はわんさかこの世界に投げ込まれるのですが、それとの対抗組として現れるのが「廃棄物(エンズ)」。
同じように戦いや殺し合いの中を生きてきた人物達なのですが、こちらは恨みつらみの塊のような人間の集団。己の恨み故に非人間的な力を手にして現れます。
今のところ出てきたエンズは、土方歳三、ジャンヌ・ダルク、ジルドレ、アナスタシア、ラスプーチン。
実際に彼らが恨みを持っていたかどうかはわかりませんが、こうです。「ぼくの考えた恨みを持った最強の人間」。
土方歳三は新選組の幻影で切り刻む能力を持ち、ジャンヌ・ダルクは炎をまとって焼き払う力を手にしました。ドリフターズが人間的に強いとしたら、エンズは超人なんですよ。
彼らもまた、なぜここに来たのかは現時点では不明です。

多種族を虐げていた人間族オルテ帝国。
殺気をまといながら送り込まれた人間、ドリフターズ。
謎の力を手にして呪いを撒き散らすエンズ。
この3つがぶつかり合い合戦を繰り広げる様を、ケレン味たっぷりに描くんだもん。「ぼくの考えた超人」だらけだもん、そりゃ面白いよ!
まだ二巻しか出ていないにも関わらず、『ドリフターズ』グッズも出始めているほどの人気作。前作「ヘルシング」のノリが好きだった人にはもちろんオススメですが、単純にファンタジー世界で刀ぶんまわす豊久が豪快でかっこよすぎるので、とにかく絵だけでも見て欲しいのです。
取って付けたような言い方でなんですが、読んでいると歴史に詳しくなっちゃうんだなこれが。ハンニバルとスキピオの関係を気軽に読めるってちょっと楽しいよ。

この作品の最大の楽しみは次はどの人間がどんなキャラで出てくるかの妄想、これに尽きます。
出るかでないかはどうでもいい。「ぼくの考えた○○」、大人の知識を総動員しながら、童心に戻って考えてみようぜ!
(たまごまご)