W杯開催中にチームから追放されたニコラ・アネルカ(チェルシー)が、その原因となる報道を行なったスポーツ紙を相手取り、名誉毀損で告訴することを決めた模様だ。29日付のル・モンド紙などが報じた。

 “事件”は6月17日、W杯一次リーグのメキシコ戦のハーフタイムにさかのぼる。前半に精彩を欠いたアネルカは、ドメネク監督に注意されたことに腹を立て、監督を罵倒、後半からベンチに下げられた。集中力と意欲に欠けたチームは2点を献上し、この時点で決勝トーナメント出場がほぼ絶望的となった。

 そして2日後、この舞台裏を報じたのがフランスを代表するスポーツ紙のレキップ。一面にアネルカとドメネクの顔写真を並べ、見出しとして「カマでも掘られやがれ、汚ねえ淫売のムスコ!」というアネルカの暴言を引用した。

 同紙は無料紙を除いてフランス最多の発行部数を誇る大新聞。それがこのような教育上問題となる罵倒表現を一面にデカデカと掲載するのは異常な事態で、たちまち物議をかもした。事態を重く見たフランスサッカー連盟(FFF)は、その日のうちにアネルカに帰国を命じ、これが翌日、選手たちの練習ボイコットへとつながる。

 今回の告訴は、この19日付レキップ紙の見出しが、アネルカが実際に言ったことを「正確に引用していない」というのが根拠だ。ほんとうの発言内容については、いまだ明らかにされていない。

 振り返れば、FFFがすぐに同紙に抗議し、アネルカを出場停止程度にとどめて事態の収拾を図れば、選手たちの“反乱”には至らなかったはずだ。しかし実際はスキャンダラスな報道を認める形で処分を下し、選手たちに「FFFは守ってくれない」という失望を与えることになってしまった。その結果が練習ボイコットという“軽挙妄動”だった。

 W杯の一連の不祥事では、暴発した選手たちばかりに非がかぶせられてきた傾向があるが、時間をおいて考えれば、スキャンダルをあおったメディア、それに屈して判断を誤ったサッカー連盟、といった側面から問題を見つめ直すことも可能だ。アネルカの告訴はその契機ともなり得るが、たんなる責任の押しつけ合いで終わってしまう可能性も否めない。