中国人富裕層を呼び込むはずの人工島が、詐欺集団の拠点になった。中国の大手不動産会社「碧桂園(カントリー・ガーデン)」が、総額1000億ドル(約16兆円)の建設計画を掲げた、マレーシアの「フォレストシティ」だ。計画人口70万人に対し、実際の居住者は5000人にも満たず、英BBCは「東南アジア最大のゴーストタウン」と表現している。富裕層が暮らす楽園になるはずが、なぜこうなったのか。海外メディアの報道から、巨大開発の誤算をたどる--。

■タワマンが建ち並ぶマレーシアの人工島

遠目にみれば、まるでユートピアだ。

優雅にカーブを描く海岸線に沿って、広大な公園を思わせる緑豊かな植林地帯が広がる。島の広さは東京ディズニーランドの面積の5~6倍ほどに及ぶ。

マレーシア南部の海上に建設された、人工島の「フォレストシティ」だ。豊かな緑地から立ち上がるのは、純白の高層マンション群。まるで都市全体が3Dプリンターで印刷されたかのように、高さ30階前後、同じシルエットのタワーマンションが整然と建ち並ぶ。

ところが、島に入ると通りに人影がほとんどない。多くの部屋はまだ入居者もいない状態で、ほこりが積もっている。英公共放送のBBCは今年8月、計画人口70万人に対し、実際の居住者は1%に満たないと報じた。この島を「東南アジア最大のゴーストタウン」と表現している。

2016年、中国の不動産大手・碧桂園(カントリー・ガーデン)はこの島を「全人類のための夢の楽園」として売り出した。販売開始早々に5戸を購入したという56歳の投資家、ジェイソン・デン氏は「そこまで良くないと知っていたら、これほど多くは買わなかった」とBBCに語る。

需要の裏づけがないまま海を埋め立て、売却して資金を回収する。フォレストシティは、想定した資金繰りが実現せずに行き詰まった。同じモデルの人工島が、いまペナン島沖で造成されつつある。

写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleksii Liskonih

■中国企業らが青写真を描いた

フォレストシティの当初の構想は、並外れて壮大だった。

碧桂園は、ジョホール州のスルタン(世襲制の君主)であるイブラヒム・イスカンダル氏(現・17代マレーシア国王)が実質支配する現地企業エスプラネード・ダンガ88とともに、青写真を描いた。

マレーシアとシンガポールとを隔てる海峡に4つの人工島を築き、世界の富裕層が暮らす都市をつくる。目標人口は70万人とし、完成すれば面積でも人口でもマンハッタンの半分近くに達するはずだった。

2014年初頭に埋め立てが始まり、2016年には正式オープンを迎えた。温暖な気候、低い生活費、対岸のシンガポールへの近さを売りに、購入希望者を現地へ招いた。その多くは中国からの顧客だった。

ブルームバーグによれば、2ベッドルーム(日本の2LDKなどに相当)の物件で、約16万5000ドル(約2640万円)。一般的な世帯の年収が1万6400ドル(約262万円)前後のマレーシアでは約10年分にあたり、地元の購入者には手が届かない。

一方、上海や北京の相場に比べれば安い。中国の購入者が買い続けるという前提で、販売価格が設定されていた。

■当初は中国人富裕層で賑わったが…

当初、その想定は的中したかに見えた。

正式オープンに先立つ2015年12月に販売が始まると、購入希望者が殺到した。乗客を乗せたバスが毎日、シンガポールから国境を越えてやってきた。販売ホールには1000人を超える不動産エージェントが詰めていたが、それでも客をさばききれないほどだった。

「まるで、中国にいるようだった」

不動産コンサルティング会社KGVインターナショナルのリサーチ責任者、タン・ウィー・ティアム氏は、押し寄せる買い手でごった返す現地の様子について、米国際政治誌のフォーリン・ポリシーの取材にこう振り返っている。

その多くは、住戸の完成前から代金を支払う「プレセール」の形が取られた。購入者の多くが求めたのは、本拠としての居住ではなかった。投資用不動産や別荘として、あるいは対岸のシンガポールの学校へ通う子供が住めるようにとの目的だった。

ジョホール州のフォレストシティ(写真=*angys*/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

不動産大手ナイトフランクでアジア太平洋の調査を統括するクリスティン・リー氏は同誌の取材に、中国で1戸買えばフォレストシティの物件が1戸無償で付いてくるというオファーを受けた購入者もいたとの話を語っている。

だが、その熱狂は2年ほどで潮が引くように冷めていく。

■習近平の“号令”が冷や水に

海外への資金流出を抑えようと、まず中国政府が動いた。

2017年、習近平政権は個人の外貨購入の管理を厳格化し、年間5万ドル(約800万円)まで許可されていた購入枠について、海外の不動産購入などに充てることを明確に禁じた。フォーリン・ポリシーは、これがフォレストシティへの最初の打撃になったと指摘する。

それまでであれば、買い手は自ら資金をマレーシアへ送金する必要すらなかった。碧桂園は中国国内の販売センターでのカード決済や銀行振込、アリペイでの支払いを受け付け、深圳の金融会社と組んで住宅ローンも用意していたと、香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストは伝える。価格は最も安価な物件で約7万5000ドル(約1200万円)ほどであった。

だが規制強化を受け、同社は2017年3月に本土の販売センターを閉鎖し、本土の買い手には香港かシンガポールでの支払いを求める方式へ切り替えた。ここで初めて、年5万ドルの枠と使途制限が立ちはだかる。購入者たちは残りの代金を支払う手段を失い、碧桂園は違約金なしでの解約と返金に応じると表明した。

■マレーシア首相も“待った”…工事が休眠状態に

さらに、マレーシア側でも圧力がかかった。翌2018年、総選挙での政権交代で首相に復帰したマハティール・モハマド氏は、フォレストシティの住宅を外国人に売らせないと明言する。中国人の購入者数千人が定住してマレーシア国籍を取得し、選挙で投票できるようになることを懸念した。

加えて、新型コロナウイルスのパンデミックで国境が事実上閉鎖されたことで、購入者を空路で呼び寄せる販売手法も成り立たなくなった。

そうした中、中国では不動産大手・恒大集団の経営破綻を機に危機が業界全体へ広がり、碧桂園も財政難に陥る。カタール国営衛星テレビ局のアルジャジーラは、2023年時点の同社の負債が1860億ドル(約29兆8000億円)に達したと報じている。

結果、フォレストシティの建設工事は休眠状態となった。BBCによると当初計画のうち、現在までに完成したのは15~20%にすぎない。サウスチャイナ・モーニングポストによると、4つの人工島を築くはずが、埋め立てが済んだのは1島だけで、実際に街の体裁が整っているのは約3平方キロメートルにとどまる。

フォレストシティのストリートビュー(写真=OpenStreetCam/CC-BY-SA 5/Wikimedia Commons)

■街を人間らしくする出稼ぎ労働者たち

もちろん、島が完全に廃墟化したわけではない。

日が沈むと、海沿いの遊歩道は活気づく。ベンチに腰かけるのは警備員や造園業者、建設作業員といった出稼ぎ労働者たちだ。湾の対岸に輝くシンガポールの明かりを、彼らは眺めている。

酒の瓶が手から手へと回され、ベンガル語とヒンディー語、インドネシア語が混ざり合って会話が響く。現地を訪れたブルームバーグの記者が2023年、こうした夜の光景を伝えた。

遊歩道に集う人々には一部、この街の住人の姿も見られる。インド人のレンガ職人2人は、近くの超高層マンションに住むと語った。免税店からギネスビールを3ケース運んできたバングラデシュ人は、レンガ職人たちの数棟先に住むという。

コロナ禍で静まりかえっていた時代も、こうした国際色豊かな人々がここで暮らし、働き、街に人間らしい色彩を加えてきた。

とはいえ、やはり街全体として寂れた感は否めない。空き店舗が大半を占めるモールで、まばらな人影が向かうのは唯一繁盛している業種、免税の酒類店だけだ。

酒の免税店はフォレストシティの優遇税制によって実現している。酒税の水準が世界有数に高いマレーシアにおいて、大きな集客材料になっている。

■「夢の楽園」は詐欺拠点になった

やがて、招かれざる者たちが空き部屋に巣食うようになった。

今年7月中旬、マレーシア警察はフォレストシティ内の32カ所を家宅捜索し、中国籍を中心に335人を逮捕した。ブルームバーグが報じた。

警察によると、2つの組織が住宅タワー1棟の5フロアにまたがる27戸と、バンガロー5棟を拠点に、仮想通貨の投資の勧誘やロマンス詐欺を働いていたとみられる。空室のはずの住戸は、パソコン313台、携帯電話1557台などで埋め尽くされていた。

この街で不動産を売るケビン氏(仮名)はBBCの取材に、会社からは顧客に「すでに2万3000人が住んでいる」と伝えるよう指示されているが、実際の住民は5000人にも満たないと明かした。

詐欺グループが人の少なさに目をつけたとみて、「彼らしかおらず、匿名性を確保できる。ここには誰も来ない」とも続けた。

フォレストシティのマップ。2019年6月撮影(写真=Jonashtand/CC-BY-SA 4.0/Wikimedia Commons)

■“税率0%”でも、不便すぎて人が来ない

マレーシア政府も、事態を放置していたわけではない。摘発より前から、この街を立て直そうという取り組みはあった。

2024年9月、マレーシア政府はフォレストシティを「特別金融区」に指定したと、サウスチャイナ・モーニングポストが報じた。優遇税制で金融事業を呼び込む試みだ。特定の富裕層一族の資産を一手に引き受けて管理する「ファミリーオフィス」を誘致するため、税率は0%に設定された。

ところが、同紙によると、2026年夏までに条件付き承認を受けたのは6家族にとどまり、運用資産の見込み額は4億リンギット(約160億円)程度にすぎない。

政府は運用資産を年末までに20億リンギット(約800億円)へ引き上げる目標を掲げるが、達成しても当初の開発計画1000億ドル(約16兆円)の1%にも満たない。

なぜ衰退は止まらないのか。致命傷となったのが、人工島ならではの不便さだ。2025年2月、子供を就学させようと広州から移り住んだルイス・リー氏(35)は、島内にスーパーマーケットがなく、コンビニに置いていない食料品を買うにも車で出るしかないうえ、ショッピングセンターまでは30~40キロ走る必要があると同紙に語った。

リー氏は「ここに定住する人がいなかったので、どの店も営業を続けられなかった」とも話しており、人口不足と店舗の衰退が繰り返す悪循環となっている。

■“新たな人工島”計画が進んでいる

マレーシア南端のフォレストシティで復興の試みが進むのと時期を同じくして、同国北西部でも埋め立てが進んでいる。

現場はペナン島のガーニー・ドライブ沖。海辺の遊歩道で知られる観光地のすぐ沖合に、「アンダマン島」と呼ばれる人工島の造成が進む。開発主体は、マレーシアの不動産会社イースタン・アンド・オリエンタル(E&O)だ。

新たな土地は760エーカー(約3平方キロメートル)。東京ディズニーランドのパーク部分の面積のおよそ6倍に当たる。開発事業の総額は、第1期が200億リンギット(約8000億円)、第2期が400億リンギット(約1兆6000億円)と見込まれている。

マレーシア英字経済紙のエッジ・マレーシアによると、2026年2月26日の決算説明会で、E&Oのマネージング・ディレクター、コック・タク・チョン氏は、予定より1年近く早いと語った。「この進み具合には本当に興奮している」とも述べ、第2期の埋め立ては2027年末に完了する見込みだとしている。

写真=iStock.com/AkuAlip
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AkuAlip

■ターゲットを“地元の人”に据えた

フォレストシティとの最大の違いは、買い手の顔ぶれにある。

マレーシア不動産メディアのエッジプロップ・マレーシアによれば、アンダマン島で最初期に売り出された高層レジデンス「Arica」391戸のうち、外国人の購入者はわずか3%だった。残る97%はマレーシア人で、しかも大半がペナン州内に住む人々だ。

E&Oで企業投資・企画を統括するイョンゾン・イョウ上級ゼネラルマネージャーは同紙に「オーナー自身が住む割合は高くなるとみている」と語る。Aricaは完売し、2027年3月の完成予定だ。エッジ・マレーシアによると、マリーナ沿いの「Maris」も75%が売れ、購入者の多くはやはり地元ペナンの人々である。

フォレストシティとは対照的だ。アルジャジーラによれば、フォレストシティで販売された物件は最大7割が中国人の手に渡った。

KGVインターナショナルのサミュエル・タン氏は同局に「外国人比率が4割を超えるプロジェクトは失敗する運命にある。彼らはここに来ないし、住まないし、金も使わないからだ」と述べ、地元やシンガポールの買い手を取り込むべきだったと指摘していた。

少なくともこの点では、アンダマン島はフォレストシティの轍を踏んでいない。

■買い手はかなり限られている

だが、アンダマン島が見込む顧客の幅はかなり狭い。富裕層だけを狙った開発だけに、潜在顧客がそもそも限られている。

マレーシアの投資銀行アフィン・ホワンのアナリストは2025年12月のリポートで、ペナンの高級住宅市場は構造的にニッチだと指摘した。買い手はT20と呼ばれる上位2割の所得層に集中し、マレーシア統計局の2024年データでは州内48万1000世帯のうち約9万8000世帯にすぎない。

初期の潜在需要が一巡したころ、販売価格の上昇トレンドが重なることで、販売ペースは自然に鈍る。同リポートは、AVÉAなどの分譲を最後に当面は新たな住宅の発売がなく、開発の順序がオフィスや医療、教育の施設へ移ると指摘する。

商業用途の需要は住宅より薄く、タイミングにも左右されやすい。次の住宅サイクルが始まるまで、向こう2年ほどは販売の「谷」に入ると同アナリストはみる。販売益を2期分の造成費用に充てる自転車操業において、この「谷」は危険なシグナルだ。

販売好調という説明にも、内訳を見れば懸念点がある。E&Oが2026年6月に売り出した総額10億リンギット(約400億円)のサービスアパートメント「AVÉA」は、51階建て2棟・1080戸。エッジ・マレーシアによると、1月に先行して分譲を始めたA棟の成約率は65%にとどまる。3分の1以上を売り残したまま次の棟の販売に踏み切った形だ。

■厳しい市場環境、自転車操業への懸念

市場の環境も、到底追い風とは言いがたい。

全国の完成在庫は2026年1~3月期に3万471戸から3万2801戸へ増えた。ほか、サービスアパートメントの在庫もクアラルンプールとジョホール州での増加を背景に1万9263戸へ膨らんだ。住宅ローンの承認率は約4割にとどまり、申込者の6割が断られているとマレーシア英字全国紙のスターは伝える。

そして、人工島を造る原資は借入金である。E&Oは第2期の資金として、2025年9月にアンバンク・グループから7億8000万リンギット(約310億円)の融資枠を確保し、第2期のインフラ整備と運転資金として、なおも追加の借り入れを求めている。

第2期の埋め立ての完了は2027年末、インフラの全面整備は2029年の予定だ。海を埋めて土地を造り、売って返す。フォレストシティと何ら変わらない資金繰りだ。

開発総額こそ約7分の1の規模に抑えたが、新たに造成する約3平方キロメートルは、フォレストシティが10年かけて実際に街として完成させた広さとほとんど変わらない。

昼のフォレストシティ。2024年撮影(写真=YankeeHo/CC-BY-SA 4.0/Wikimedia Commons)

■完売まで100年以上かかる計算に

フォレストシティは当初の狙いを外れ、ゼロから人工島を埋め立てて行う街開きの難しさを証明してしまった。

アルジャジーラは2023年時点で、全2万8000戸のうち約5000戸が売れ残っていると報じた。数字の上では販売済みは82%にあたる計算で、不振とまでは言えないかに見える。

ところが今年、フォレストシティ特別金融区が欧州プレスリリース配信プラットフォームのEQSニュースワイヤーを通じて出したリリースでも、2万6000戸の約80%が売却済みとされている。実に2年半近く、新たに売れた住戸がほぼない。

開発を手がけるフォレストシティ側の地域担当副社長、シャルル・イザム・サリフディン氏はアルジャジーラの取材に「毎月2~3戸を販売している」と説明した。単純に割れば、残る5000戸を売り切るにはゆうに1~2世紀かかる。

フォレストシティはリリースで、「ゴースト・シティ」と異名があったことを認めつつ、この呼び名は「事実として時代遅れだ」と主張した。

夜のフォレストシティ。2024年撮影(写真=YankeeHo/CC-BY-SA 4.0/Wikimedia Commons)

■中国人狙いの開発計画が招いた悲劇

だが実際の街の光景は、リリースに漂う華々しいムードと趣を異にする。

2025年にシンガポールから移り住み、IT関連の仕事に就くフィリップ氏(仮名)はBBCに、「ここ3カ月ほどでマンションの明かりが増えた。以前は20戸に1戸程度だったが、今は5戸に1戸ほどだ」と語る。

裏を返せば、着工から10年が過ぎた今も、彼が住む区画では、5戸に4戸の窓が暗いままだ。投機目的での中国からの購入に頼った結果、住民のいない街が残った。

アンダマン島が同じ結末を迎えるとは限らない。買い手は地元の富裕層であり、開発規模も抑えられている。だが、総額600億リンギット(約2兆4000億円)の開発が買い手として見込むのは、州内でも10万世帯に満たない上位所得層だ。販売額を開発費用に充てる自転車操業の方式で、需要が細った先に待ち受ける2年の販売の谷を、果たして越えられるか。

需要の裏づけが確かめられないまま借入金で海を埋め、土地を売って返す。フォレストシティで問題となった悪名高い方式は、場所を変えて今も続いている。

※[1ドル=160円、1リンギット=40円]

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)