【近藤 大介】習近平主席の持論「米中2大国」と「戦勝国の論理」を太鼓持ちした愚かなトランプ大統領と、巻き込まれる日本の悲運
中秋節の習近平の心境
先週9月25日は、中国で中秋節(旧暦8月15日の中秋の名月)だった。夜空にかかる美しい満月を愛(め)でながら、一家団欒(だんらん)を楽しむ休日である。この日には、満月に見立てた「月餅」を食べる習慣がある。
ホワイトハウスの晩餐会で、月餅が饗されたかは不明だ。だが習近平主席は、乾杯の音頭を取った際にこう述べた。
「まさにこの時刻、中国の人々は中秋節を過ごしている。中国の伝統では、中秋節は団欒の祝日だ。ここでも皆で、一家揃っての幸福を願って、中秋節を祝おうではないか」
CCTV(中国中央広播電視総台)のニュース映像でこのシーンを見ていて、習近平主席が、日本の中世の藤原道長に重なって見えた。「この世をば わが世とぞ思う望月の 欠けたることもなしと思えば」という心境ではなかったか。
9月23日から25日まで行われた習近平主席のワシントン訪問は、習主席がドナルド・トランプ大統領を終始圧倒した感があった。ちょうどこの時期に日本で行われていた大相撲になぞらえれば、「『東の横綱』習近平が『西の横綱』トランプを寄り切った」構図である。
寄り切って習近平の勝ち
一応、これまでの「トランプvs.習近平」の計7回の首脳会談をまとめると、以下のようになる。あくまでも私の私感である。
<1期目のトランプ政権>
➀2017年4月 フロリダ 米国がシリアを空爆 浴びせ倒しで米国勝ち
➁2017年11月 北京 中国が2535億ドル分の米製品購入 はたき込みで米国勝ち
③2018年12月 ブエノスアイレス 2500億ドル分の関税に中国が詫び 突き倒しで米国勝ち
④2019年6月 大阪 IT企業を制裁された中国が力なし 押し出しで米国勝ち
<2期目のトランプ政権>
⑤2025年10月 釜山 米国の145%関税に中国がレアアースで対抗 けたぐりで中国勝ち
⑥2026年5月 北京 中国が「建設的戦略安定関係」を提起 寄り切りで中国勝ち
⑦2026年9月 ワシントン 「米中2大国」と「戦勝国の論理」を米国が承認 寄り切りで中国勝ち
このように、1期目のトランプ政権(2017年1月~2021年1月)での会談は、4回行って4回ともトランプ大統領の「貫禄勝ち」だった。そのためトランプ大統領は、「中国はこちらが押せば押すほど頭を下げる」という自信と固定観念を持って2期目を迎えたに違いない。
4つのトランプ対抗策
それに対し中国は、主に4つの教訓を得て、2期目のトランプ政権に備えて改善を図った。それは以下のようなものだった。
➀関税は中国にとってのアキレス腱だった。そこで、同様にアメリカにとってのアキレス腱であるレアアースを武器にして対抗する。
➁1対1でアメリカと「関税戦争」を戦ったから負けた。そこで「関税被害者同盟」を築いて「中国を含む多数対アメリカ」の構図に持っていく。
③アメリカが関税や輸出停止を武器にしづらくなるよう貿易の「脱アメリカ」を進める。他国から買えるものは他国から買う。
④トランプ政権は「短期決戦」を行おうとする。それに対し、毛沢東主席の「持久戦論」にならい、なるべく交渉を引き延ばして長期戦に持ち込む。トランプ大統領には中間選挙と4年の任期があり、交渉が長引くほど妥協を強いられる。
こうした中国の戦略が、2期目のトランプ政権になって功を奏し、中国側の「3連勝」となったのである。とりわけ今年に入ってからの2回は、トランプ大統領が追い詰められていた。
5月の北京会談ではイラン戦争で、今回は11月3日に迫った中間選挙でだ。そのためトランプ大統領が、習主席にかなり妥協した感があった。
今回の米中首脳会談は、主に「4大イシュー」が話し合われると言われていた。それは、イラン、AI、貿易、台湾である。
結果はどうだったか。米ホワイトハウスが25日に発表したファクトシートには、計14項目の「成果」が列挙されていた。それは以下の通りだ。
米中が発表した「成果」
①米国は、中国が致死性の薬物の一種であるオピンを規制物質に指定したことを歓迎した。また、米国は、中国がフェンタニルの前駆物質2種類に対して新たな輸出規制を導入したことを指摘するとともに、北米の危険な麻薬テロリストへの違法な前駆物質の流入を食い止めるため、これらおよびその他の物質・化学物質を恒久的に規制物質に指定するよう強く促した。
②2026年8月、中国は米国法執行機関からの情報に基づき、北米の違法薬物製造業者への前駆体化学物質の製造・流通に関与した中国籍の市民21名を逮捕した。米国は、適用可能な場合には死刑を含む最高刑の適用を強く求めた。
③トランプ大統領は、世界の供給を安定させるため、石油精製品の生産を増やすよう習近平主席に要請した。
④米国は、中国からアトランタ動物園へ貸し出された2頭のジャイアントパンダの到着を歓迎する。
⑤貿易委員会のもとで、両国は相互に300億ドル相当のセンシティブでない品目について、より有利な関税待遇を適用するという勧告について合意に達した。また、同委員会は、農業分野における市場アクセス障壁の解消に焦点を当てた作業部会を発足させた。
米国の輸出品目には、農産物、魚介類、丸太および木材製品、化粧品、医療機器などが含まれる。米国の輸入品としては、小型家電、玩具、ホリデー装飾品、子供用カーシートなどの消費財が含まれる。
⑥トランプ大統領による米国の石炭産業の復活を受けて、中国は2027年および2028年に、米国から少なくとも1000万トンの石炭を輸入する。
⑦両国は投資委員会を設立した。同委員会の使命は、潜在的な投資機会や投資に関連する障害について協議し、商業的に重要な投資関連の問題に対処するための体系的な枠組みを双方に提供することである。
⑧両国は、レアアースやその他の重要鉱物に関連するサプライチェーンの不足について、米国が抱える懸念に対処し続け、出荷量の確保が適切な水準に戻ることを目標とする。
両国は、G20とAPECのそれぞれの開催国として互いに支援し合い、両首脳は互いのサミットに出席する意向を示した。
⑨両首脳は、ロシア、北朝鮮、イランなど、現在世界的に懸念されている問題について協議した。両首脳は、イランが決して核兵器を保有してはならないこと、また、いかなる国や機関も国際水路に通行料を課すことを許してはならないことで合意した。
⑩両首脳は、第二次世界大戦において米国と中国が同盟国であり、勝利のために肩を並べて戦ったことを振り返った。
⑪第二次世界大戦以来、米国の前線における軍事的存在は、自由で開かれたインド太平洋を維持し、何世代にもわたる米国の繁栄に寄与してきた。
⑫トランプ大統領は、米国、ロシア、中国による三カ国間の軍備管理交渉を提唱した。
⑬両首脳は、関連する新たな技術を表現する際、「人工知能(AI)」ではなく「スーパーインテリジェンス(SI)」という用語を使用することで合意した。
⑭両国はSIに関連するリスクと便益について意見交換を行うため、「米中SI対話」を設立した。次回の意見交換は2026年11月までに実施される予定だ。また両国は、SIに関する不測の事態に対応するための二国間のコミュニケーションチャネルを設立することで合意した。
一方、中国側は26日に外交部が、「8つの成果」を発表した。
①両国は「尊重・公平・対等に基づく建設的戦略安定関係」を構築することで合意し
た。
➁両国は、相手国が主催するAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議及びG20(主要国・地域)首脳会議の成功に向けた相互支援を行うことで合意した。両首脳は、相手国が主催する会議に出席する意向を示した。
③両首脳は、イランが核兵器を開発しないという約束を履行すべきであること、またいかなる国や機関も国際水路に対して通行料を徴収してはならないことで合意した。
④両首脳は、中国と米国が第二次世界大戦の同盟国であり、肩を並べて戦い、戦争の勝利を勝ち取ったことを想起した。
⑤両首脳は、米中経済貿易協議メカニズムの積極的な役割と、双方の経済貿易チームによる協議の成果を評価した。これには、貿易委員会などのメカニズムの設立と推進、「300億ドル」の対等な減税措置の合意、クアラルンプールでの経済貿易協議の成果(関税引き上げの1年間猶予)の延長などが含まれ、その実施を指示した。
⑥両国の麻薬取締当局間の協力は、目に見える成果を上げた。最近、両国は緊密に協力し、新たな精神活性化物質及び前駆体化学物質に関連する複数の事件を共同で摘発し、両国で数十名の関連容疑者を逮捕した。
⑦両国は、米中のAI対話を設立し、AIに関連するリスクと便益について意見交換することで合意した。次回の対話は今年11月に開催される予定。両国はAIに関する事案についての連絡ルートを確立することで合意した。
➇米国側は、中国側がアトランタ動物園に貸し出したジャイアントパンダ1組が米国に到着したことを歓迎した。
以上である。これらを熟読しても、「大山鳴動して鼠一匹」にしか思えない。台湾に関しては、米中双方とも何も「成果」に入れていない。
13年前からの宿願
それでは、なぜ今回の米中会談が「寄り切って習近平の勝ち」と言えるのか。それは、「米中2大国」と「米中戦勝国」(米中はともに第2次世界大戦の戦勝国である)という2つのキーワードを、今回初めてアメリカ側(トランプ大統領)が受け入れたからだ。どちらも、習近平主席が長くこだわり続けてきた概念なのだ。
まず「米中2大国」というキーワードは、2013年3月に自らの政権を始動させた習近平主席が、同年6月に初めて訪米した際、バラク・オバマ米大統領に提起したものだ。カリフォルニア州のアネンバーグ農園で二日間にわたって行われた米中首脳会談で、習主席は何度も強調した。
「中米双方は、両国民の基本的な利益を重視するという観点から、また人類全体の進歩発展に貢献するという観点から、新しい思考で積極的に行動すべきだ。そこで『新型の大国関係』の構築に向けて、ともに進んでいこうではないか」
このように「新型の大国関係」を、米中関係を位置づける「定位」にしようとしたのだ。ところがオバマ大統領は、相手にしなかった。察するに、次のような心境だったろう。「『新型の大国関係』ということは、中国がアメリカと対等だと認めろということか。習近平は何を思い上がったことを言うのか」
習主席は、その後の会談でもオバマ大統領に「新型の大国関係」を説き続けた。だが、2015年9月の習近平主席の訪米で、南シナ海を巡る米中対立で、この概念は雲散霧消してしまった。
今年5月のトランプ大統領の訪中時に、習近平主席は「建設的戦略安定関係」を提起した。本当は「新型の大国関係」と言いたかったが、オバマ大統領に無視されたトラウマがあって、より婉曲的な言い回しに変えたものと思われる。
それをトランプ大統領は、特に異議を唱えることもなかった。トランプ大統領にしてみれば、大事なことは米中間で何を合意し、どう実行に移すかであって、このような「定位」など、くだらない言葉遊びに思えたのではないか。
それを今回、習近平主席は、さらに一歩踏み込んだ。例えば、24日にホワイトハウスで行われた歓迎式典でこう述べた。
「中国とアメリカはともに偉大な国であり、中国人民とアメリカ国民もともに偉大な国民だ。(中略)今日の世界、時代、歴史の変遷に直面する中で、米中という二大国は、人類の発展と進歩を促進するという歴史的な重責を担っているのだ。
今年(5月)、トランプ大統領が中国を訪問した際、われわれは米中間の建設的戦略安定関係を構築することで一致し、これは両国の人々や国際社会から広く歓迎された。私はトランプ大統領とともに努力し、米中関係という大船を安定させ、遠くまで導いていきたい。
米中の協力だけで世界のすべての問題を解決することはできないが、両国の協力がなければ、世界の多くの問題は解決しないのだ。
私はこれまで繰り返し述べてきたが、米中2大国は、協力すれば双方に利益があり、対立すれば共に傷つく。米中両国は競争を隠す必要はないが、その競争は健全で、境界線のあるものでなければならず、互いに追いかけ合うレースであって、一方が負けて他方が勝つような闘いであってはならない。米中双方は『衝突せず、対抗しない』という一線を堅持しなければならず、そうすれば必ずや、この地球上で(米中)2大国が正しく共存する道を切り開くことができるだろう。
中華民族の偉大なる復興を実現すること(習政権のスローガン)と、アメリカを再び偉大にすること(トランプ政権のスローガン)は、互いに矛盾するものではないのだ」
トランプが「米中2大国」承認
続く米中首脳会談でも、習近平主席はこう述べた。
「米中両国の首脳が半年足らずの間に相互訪問を実現したのは、米中関係の歴史上、前例のないことだ。私はトランプ大統領と常に様々な形で意思疎通を図り、ともに米中関係という大船の舵取りを行ってきた。
今年5月、私はトランプ大統領と、米中間の建設的戦略安定関係を構築することで合意した。この新たな位置づけは、米中関係の現実を反映するとともに、将来への期待も体現しており、両国が正しい関係構築の道へと進むための重要な一歩となったのだ。
われわれは、このビジョンを行動に移し、協力を主とし、競争は節度を保ち、意見の相違は管理可能で、平和が期待できる方向に向けて努力し、2大国が正しく共存する道を切り開いていかなければならない。米中両国は、実務的な協力において互恵とウィンウィンを実現し、健全な競争の中で互いに成長し、共通点を求め相違点を認め合う中で意見の相違を適切に処理し、相互信頼を積み重ねて平和を築き、米中の建設的戦略安定関係が両国の人々及び世界各国の人々に、より大きな恩恵をもたらすようにすべきであり、また、それは十分に可能なことだ」
このように習主席は、「(米中)2大国」を、ことさらに強調してみせたのだった。対するトランプ大統領も、米中首脳会談で「(米中)2大国」を認める発言をした。
「習近平主席の今回のアメリカへの国賓訪問は、偉大な訪問だ。アメリカと中国はともに大国である。私は習近平主席と親しい友人関係にあり、深く緊密な意思疎通を図っている。私たちの指導の下、米中関係は必ず良好なものになるだろう」
トランプ大統領からすれば、「この程度」のリップサービスで習主席が喜び、来たる中間選挙に向けて中国が農産物などを買い入れてくれ、またイラン問題で協力してくれるのであれば、安いものだと考えたことだろう。要は米中の両雄は、重きを置いているところが違うのである。
「戦勝国の論理」まで追認
続いて、今回の米中首脳会談で習近平主席が提起したもう一つのキーワード「戦勝国」について見ていこう。
こちらも、習近平政権が発足した2013年に遡(さかのぼ)る。習主席は、同年9月5日、6日にロシアのサンクトペテルブルクで開かれたG20(主要国・地域)サミットで、かねてからの持論だったこの論理を持ち出した。主催国のロシアも9月3日を「第二次世界大戦勝利の日」に定めていたため、「戦勝国」のロシアやアメリカを巻き込んで、一気に日本包囲網を築こうとしたのだ。
ところが、習主席の目論見は「不発」に終わった。直前の8月21日、オバマ大統領が「(シリアの)アサド政権が(反体制派に対して)化学兵器を使用した証拠を掴んだ」として、「シリアを空爆する」と発表したからだ。
これによって、G20はシリア問題一色となった。アサド政権の後ろ盾はロシアであることから、アメリカとロシアの緊張感が増した。そんな中で、習主席が持ち出した「戦勝国の論理」など、誰も関心がなかったのだ。
それでも習主席は、同年10月7日、8日にインドネシアで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、再び「戦勝国の論理」(日本の歴史問題)を掲げた。だがこちらも「不発」に終わった。
この時、アジアが興味を示したのは、習主席が掲げた新たな外交政策「一帯一路」だった。中国とヨーロッパを陸路と海路で結ぶ広域経済圏構想である。
以後、習主席は矛(ほこ)を収めざるを得なくなった。どの国も「20世紀半ばの歴史話」より、「いまの喫緊の問題」の方がはるかに大事だからだ。
それを習主席は今回、しつこく持ち出してきたのである。前述のホワイトハウスでの歓迎式典のスピーチで、習主席はこう力説した。
「第二次世界大戦中、中国とアメリカは肩を並べて、ファシズムの侵略に立ち向かった。この歴史について、中国人民は決して忘れることはなく、アメリカの人々も忘れてはいないのだ」
名指しこそしていないが、「ファシズム」が日本を指すのは明白だ。そしてあろうことか、トランプ大統領もスピーチで、応じてしまった。
「第2次世界大戦で、われわれは同盟国になったのだ。あの大戦でともに戦ったわれわれの偉業を思い起こそうではないか」
このスピーチには、私も驚きを禁じ得なかった。習近平主席が率いる中華人民共和国が建国されたのは、第2次世界大戦の終結から4年後の1949年。建国されてもいない国が、どうやって「同盟国」になるのだろう??
これに意を得たのか、習近平主席は晩餐会の乾杯の挨拶で、日本を名指しした。
「80数年前、中米両国の国民は肩を並べて戦い、日本軍国主義の侵略者に立ち向かい、有名なキャメルバック・ルートを開拓した。抗日戦争の期間、中国の軍民は数百人のアメリカのパイロット(Flying Tigers)を救い、数十万人の生命の代償を払ったのだ。この血と火で築かれた友誼は、必ずや世代を越えて伝えられていくだろう」
さらに、習主席のワシントン訪問最終日(3日目)の日程は、国立公文書館の参観だった。
ここには、第2次世界大戦後にアメリカが旧日本軍から接収した多くの資料や、日本の軍幹部らを裁いた東京裁判の記録が多く眠っている資料館だ。習主席はわざわざここを訪れることで、「戦勝国の論理」を最大限にアピールしようとしたのだろう。
トランプ大統領は、これら「習近平の論理」を許すどころか、「もり立て役」まで買って出てしまったのだ。習主席にしてみれば、これ以上ない「美々なる月餅」をワシントンで頬張って、北京に凱旋帰国したのだった。
そしてこんな「茶番劇」が、11月の深圳APECでも、12月のマイアミG20でも繰り広げられる可能性があるのだ。
高市早苗政権は、一体どう対処していくのだろう?
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