脈が乱れているのに、本人はまったく気づかないことがある。すぎおかクリニック院長の杉岡充爾さんは「心房細動は自覚症状がない人ほど怖い。血のかたまりが脳に飛べば脳梗塞、心臓の力が落ちれば心不全になる」という--。

※本稿は、杉岡 充爾『不整脈・動悸・心房細動 自力でできるリセット法』(アスコム)の一部を抜粋・再編集したものです。

■その動悸、実は危険信号

不整脈や動悸の自覚症状がある方、あるいは自覚症状はなくても健康診断などで指摘される方のほとんどが、期外収縮です。

ここでお話ししたいのは、その次に多い「心房細動」のことです。

「心房細動」は、異常な電気刺激によって心房の筋肉がバラバラに興奮し、心房が細かく震えるような状態(細動)になります。すると、すべての脈のリズムがバラバラに乱れてしまうという不整脈です。

心房細動の多くは、脈がバラバラで速くなります。ただ、なかには、1分間の脈拍数が40程度になったり、5秒ほど脈が止まったりするなど、脈が遅くなるケースもあります。

つまり、脈が速かろうが遅かろうが、とにかく脈のリズムがバラバラに乱れるのが心房細動です。

正常な脈は、「トン‐トン‐トン‐トン‐トン」と、規則正しくリズミカルに打っています。しかし、心房細動では、こんなぐあいです。

「トン‐トントン‐トン‐トントン‐トントントン‐トン」

心房細動だけに特有の症状はありませんが、起こりやすい症状(自覚症状)としては、ドキドキする動悸・息苦しさ・胸が押さえつけられる感じなどがあります。

■「大丈夫」で高まる大病のリスク

最も多く見られるのは動悸です。心房細動に加えて動悸がある場合は、あくまでも一例になりますが、このような脈の感じ方になります。

「トン‐トントン‐トン‐ドキドキ(ドキンドキン)‐トン」

一方で、自覚症状がまったくない方も多いのが、心房細動の特徴です。特に、70代・80代の高齢者では無症状の場合が多く、「何カ月も何年も気づかずに暮らしてきた」という方もいらっしゃいます。

また、現役世代に多いのは「健康診断でたまたま見つかった」という場合ですが、自覚症状がないゆえに、“軽く考えている”方もたびたび見受けられます。

ここで気をつけていただきたいのは、症状がないからといって、病状が軽いわけではないということ。

心房細動そのものは命に直接関わるものではありませんが、放置し続けていると、命を奪うような病気になるリスクを高めてしまいます。ですから、症状がある方はもちろん、無症状の方も受診をするようにしてください。

出典=『不整脈・動悸・心房細動 自力でできるリセット法』(アスコム)

■著名人を襲った「脳梗塞」の原因に

心房細動は、続く期間によって、「発作性」「持続性」「慢性(永続性)」の3つのタイプに分けられます。

●発作性の心房細動 → 「突然始まって突然治る」「発作で出ているときもあれば、元の正常な脈のリズムに戻っているときもある」ということをくり返す。1週間以内に自然に治まる
●持続性の心房細動 → 発作が1週間以上続く
●慢性(永続性)の心房細動 → 24時間ずっと心房細動を起こしている状態が、1年以上続く

いずれのタイプであっても、心房細動そのものは命に直接関わるものではありません。だからといって、放置していいものではないのです。

理由は大きく2つあります。

理由① 血栓ができる=脳梗塞のリスクが高まる

心房細動では、心房の中で血液がよどんで血栓(血液の塊)ができやすくなります。この血栓が、なにかの拍子に血流に乗って脳まで運ばれて(血栓が飛ぶ、という言い方を聞いたことがあるでしょう)、脳の血管を詰まらせてしまうことがあります。

つまり、「脳梗塞」を起こすということです。

読売巨人軍の終身名誉監督である長嶋茂雄さんや、小渕恵三元総理らは、このように心房細動でできた血栓が脳に飛んで脳梗塞を発症しました。

特に血栓ができやすい条件は、「高齢」「糖尿病」「高血圧」などですが、いずれにせよ、どなたにも血栓が飛ぶリスクがあることは、忘れないようにしてください。

■心臓の力を静かに奪い「心不全」に

理由② 心臓のパワーが落ちる=心不全のリスクが高まる

また、心房細動が起こると、心臓の収縮の動き(パワー)が2割落ちると言われています。さらに、脈がバラバラになりつつ速くなる方が多いのですが、こうなると、心臓が収縮するヒマがなくなります。心臓がうまく収縮できないと、「全身に血液を送れない状態」になってしまうのです。

つまり「心不全」の状態です。

全身の臓器が必要とする血液を十分に送れないので、息切れをしたりむくみが出たり、進行すると息苦しくて眠れないといった症状が現れたりします。

年齢が若く、糖尿病・高血圧・脳梗塞・心不全の発症歴がない方であれば、心房細動が起きても、すぐに命に関わるような変化はほとんど起こりません。

ですから、その場で慌てる必要はまったくありません。ただし、必ず「翌日には」病院に行ってください。

慌てなくてもいいなら、翌々日でもいいのでは? と思われるかもしれませんが、「翌日には」というところが肝心なのです。

健康診断で心房細動と言われたけど、症状を感じたことはないし、病院に行く時間がないから、様子を見ていればいいか--。そう思われるかもしれませんが、心房細動は脳梗塞や心不全のリスクから、基本的には治療の対象です。

自覚症状があってもなくても、軽く見るべきではないことに変わりはありません。

写真=iStock.com/dragana991
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dragana991

■発症後「48時間」が分かれ道

心房細動で血栓ができやすいことは、前項でお話ししました。ただ、たとえリスクの高い「高齢」「糖尿病」「高血圧」の方々であっても、心房細動が起きたら瞬時に血栓ができるわけではありません。

血栓ができるには、最低でも「48時間」かかります。言い換えれば、48時間後から、血栓が作られている可能性が出てくるわけです。

そのため、心房細動の発作が起きても、動悸などの症状がつらくなければ、無理に救急外来に飛び込まなくても大丈夫です。48時間以内=日が明けた翌日に病院へ行けばいいわけです。

写真=iStock.com/byryo
医師の診察 - 写真=iStock.com/byryo

病院では、48時間以内に心房細動の症状が現れたと医師が確認できたら、異常な電気の流れを止める作用の注射をします。すると、心房細動のバラバラな脈・動悸がきれいに消えて、正常な脈のリズムに戻ります。

■48時間後に減る治療の選択肢

ただ、「48時間以内」ということを知らずにそれ以上たってしまった、自覚症状がないのでいつ起こっていたかわからない、という場合もありますよね。

杉岡充爾『不整脈・動悸・心房細動 自力でできるリセット法』(アスコム)

残念ながら、48時間が経過していると、この注射は使えません。なぜなら、心房の中にすでに血栓ができている可能性があり、その状態で心房細動を止める注射をしてしまうと、心房細動が止まった途端に血栓が血流に乗って飛んでしまうおそれがあるからです。

注射で治せるのに、誰にでも注射をしない理由はここにあります。仮に、1カ月前からあった心房細動を注射で止めたら、心房細動は止まっても、代わりに脳梗塞になりかねないリスクを抱えてしまうからです。

また、念のためにお伝えしておくと、この注射による治療は、起こってしまった心房細動を対症療法的に止めるものなので、再発が予防できるわけではありません。

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杉岡 充爾(すぎおか・じゅうじ)
すぎおかクリニック院長
1965年生まれ。千葉大学出身。医学博士。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。千葉県船橋市立医療センターの救急医療に約20年、最前線で日夜、心筋梗塞などの生死にかかわる治療に携わり、約1万人の心臓の治療にあたる。2014年5月より千葉県船橋市において「すぎおかクリニック」を開院。また、予防医学の点から、食習慣管理を中心に指導する「ヘルスコンサルティング」にて、エグゼクティブをはじめとした多くの人たちに医療健康情報を提供している。
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(すぎおかクリニック院長 杉岡 充爾)