東山紀之が社長退任「SMILE-UP.」設立前史…ジャニーズ「解体」の引き金となったBBC報道《週刊文春取材班は40人以上の被害者の声を集めた》
9月28日、株式会社SMILE-UP.は、元少年隊の東山紀之氏が代表取締役社長から退任することを発表した。今月末に退任し、10月1日からはチーフコンプライアンスオフィサー(CCO)の山田将之氏が社長に昇格する。
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東山氏が社長を務めた株式会社SMILE-UP.は、2023年に社会問題化したジャニー喜多川による性加害の被害者補償のための会社だ。株式会社SMILE-UP.と東山社長は、どのようにして誕生したのか。その経緯を明らかにしているのが、2023年当時のジャニーズ問題取材班を率いた髙橋大介氏が当時を回顧した連載「Voices 週刊文春ジャニーズ取材班の290日」だ。連載第1回の前編を特別に無料公開する。

会見で社長退任を発表した元少年隊の東山氏 ©時事通信社
創業家出身の女性社長が経営から退かざるを得なくなり、芸能界で権勢を振るった事務所は解体に至る。きっかけは、アウトサイダーたちによるテレビ番組だった。
東京ドームバックネット裏最上段にある全28室の「THE SUITE TOKYO」は、4人掛けのソファセットとダイニングテーブル、さらにテレビモニターとビールサーバーまで置かれ、室内でゆったりと野球観戦が楽しめる。生観戦を味わいたければ、グラウンド側に面した扉を開けて、専用のテラス席で声を張り上げて応援することも可能だ。
今年4月1日夜、5月末に活動を終了する嵐のコンサートが行われたその日は、これまでメンバーと共演した松嶋菜々子、佐藤浩市、加賀まりこら芸能人、テレビ局の幹部たちがVIPルームに招待されていた。
午後9時過ぎ、コンサートが終わると、各部屋から廊下に招待客が出て、関係者専用の出口へと向かう。彼らを見送るのは、STARTO ENTERTAINMENT(以下、スタート社)社長の鈴木克明、株式会社嵐社長の四宮隆史の2人だ。鈴木はフジテレビで専務を務め、テレビ西日本の社長を経て2025年にスタート社の二代目社長に就任した。四宮はNHKエンタープライズ21を経て弁護士に転身し、24年の株式会社嵐の設立と同時に社長となっていた。
2人が表の顔とすると、もう1人、
「今日は来てくださって、有難うございました」
「これまでお世話になりました」
という言葉とともに、招待客に頭を下げ続ける人物がいた。デビュー以来、嵐をマネジメントしてきた藤島ジュリー景子である。彼女はジャニーズ事務所創業者の故ジャニー喜多川の姪で、ジャニーの姉で長く経営の実権を握っていたメリー喜多川の娘である。ジャニー亡き後の19年には同事務所の社長を継いだ。
嵐のメンバーにも、事務所の大スキャンダルが直撃
だが23年、生前のジャニーによるジャニーズJr.(以下、ジュニア)への性加害が社会を揺るがす問題となった。『週刊文春』は33週にわたって特集し、被害を訴える40人以上の元ジュニアの証言を掲載した。
嵐のメンバーにも、事務所の大スキャンダルが直撃。櫻井翔は報道番組のキャスターとして、問題に向き合わざるを得なかった。被害を訴える元ジュニアが実名で続々と名乗り出てきた時期の6月5日の放送では、声を震わせながらコメントした。
8月、事務所が委託した「再発防止特別チーム」が調査報告書を発表し、性加害を事実と認定したが、指摘はそれだけにとどまらなかった。
同族経営がガバナンス不全の最大の原因の一つだとし、
〈ジャニーズ事務所が解体的な出直しをするため、経営トップたる代表取締役社長を交代する必要があると言わざるを得ず、ジュリー氏は代表取締役社長を辞任すべきと考える〉
とジュリーの退場を促したのだ。
その後、ジャニーズ事務所は9月に1回目の記者会見を開き、性加害の事実を認める。10月には2回目の記者会見を行い、ジャニーズ事務所を廃業し、被害者への補償のための株式会社SMILE-UP.へ改称することと、タレントは新会社に移籍するとの方針を発表した。
これを受け、二宮和也は10月24日深夜、ファンクラブ会員向けサイトで事務所からの退所を発表した。
グループの“母”を自任するジュリー
23年12月、創業家のジュリーが、資本にも経営にも関与しないというスタート社が発足する。嵐はグループとしてスタート社とエージェント契約を結ぶと、今年3月から最後のコンサートツアーを敢行し、活動にピリオドを打った。
23年9月の会見で「補償、救済、所属タレントの心のケア以外の業務執行には関わらない」と明言しているジュリーは、表立って嵐の最後の舞台に関わることはできなかった。ただ、グループの“母”を自任するジュリーは、招待客を見送らないわけにはいかなかったのだろう。
当時、ジャニーの性加害を「知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした」と説明したジュリー。
彼女が問題に正面から向き合わざるを得なくなったのは、イギリスの公共放送局BBCのドキュメンタリーがきっかけだった。そして、週刊文春取材班も動き出した--。
ねじれている記者の心理
23年2月28日の火曜夕方、私は自宅で1ページの短い芸能記事を無事校了し、一息ついていた。
毎週火曜日は、文春の“1折”と呼ばれる特集ページの締切日だ。夕方から夜にかけて原稿の最終チェックを終えて校了する。水曜日が唯一の休みで、木曜日から新たな1週間が始まるため、火曜の夜が、記者が一番の解放感を味わうときだ。
そんなときだった。デスクの柳原真史から電話が入った。
「来週取材して貰いたいことがあるので、会社に来てもらえませんか」
1週間の仕事が終わったにもかかわらず、編集部への呼び出し。腹を立ててもおかしくないが、文春記者の心理はねじれている。木曜朝に行われる企画プラン会議への出席が免除され、どの記者も毎週苦心して集める5本のネタを用意しなくてもいい、という喜びが勝つのだ。
編集部に着くと、柳原はいつものように淡々とした口調で説明した。
「イギリスのBBCが、ジャニー喜多川の、ジュニアに対する性虐待についてのドキュメンタリーを放送することになったんです。うちの会社も、昔やったキャンペーン報道とその裁判について、今回のBBCの取材に協力しています。それが放送されれば話題になるでしょう。これを契機にうちとしても、問題を改めて掘り起こしたいんです」
3月7日、BBCは「Predator:The Secret Scandal of J-Pop(J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル)」をイギリスで放送した。
日本の男性アイドル事務所「ジャニーズ事務所」の創始者・ジャニー喜多川によるジュニアへの性加害を正面から取り上げた、世界で初めてのテレビ番組である。そこでは1999年に週刊文春が報じたジャニー喜多川の性虐待疑惑について触れ、当時の記者に取材を行っていた。
さらに、取材班が独自でたどり着いた、被害を受けたという3人の元ジュニアが、顔出しで証言した。
なかでも決定的な証言をしたのは、30年以上前にジュニアだったハヤシだ。3人中唯一マスクで顔の下半分を隠し、仮名での出演だった。彼は15歳のときに、口腔性交の被害を受けたと声を詰まらせながら語った。
私は番組を観終わって、どうやってBBCは証言してくれる元ジュニアにたどり着いたのか。どうやったら自分たちも被害者に取材ができるのか。そのことばかり考えていた。《続く》
この続きでは、ジャニーの性加害問題に関わった編集者や記者たちの思い、元ジュニアの被害証言を集めるまでの取材の裏側についても取り上げている。「週刊文春 電子版」では連載第1回以降の回もあわせて読むことができる。
(文中敬称略)
(たかはしだいすけ/1978年、岩手県生まれ。早稲田大学卒。2025年まで週刊文春の特派記者として芸能を中心に取材し、フリーに。16年、ベッキーと川谷絵音の不倫報道で「第23回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を、23年、ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.への性加害報道で「第3回調査報道大賞」大賞を受賞した。)
〈東山紀之が被害補償会社の社長を退任…そもそも「ジャニー性加害問題」とは? 文春報道後も、ジャニーの行為は“なかったこと”にされた〉へ続く
(髙橋 大介,「週刊文春」編集部/週刊文春 2026年7月16日号)
